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Vtuber向けに制作物別で著作権を考える

動画には絵と音とストーリーが必要で、それらの制作物が集まって一つの制作物になる。Vtuberの多くは元々がイラストレーターだったり作曲者であったりその道に精通しているプロであることもしばしばある。しかし、左官が一人で家を建てられないように、畑違いの創作に関しては素人同然と言っていい。

今回は動画を構成する素材として他人の物を使う、自分の物を使ってもらう、自分の物を使われないようにする…という著作権の活用から制作物別にポイントをまとめてみることにする。

写真・イラスト

動画制作の上で補助的に使われる要素としては大部分を占める。これらの多くは各種素材サイトでロイヤリティーフリーやライツマネージドという形で販売され、一定のルール以下での使用が可能になっている。基本的にこういったサイトで購入したものは企業が自社パンフレットに乗せるレベルでの商用利用が可能なので、Youtube動画のサムネイル背景や動画の背景、説明のためのオブジェクトなどに使って文句言われることはまず無いと考えていい。

Flickrなどで個人が掲載している写真やイラストについては、都度その作品に利用範囲が明記されていたりクリエイティブ・コモンズなどのライセンスを宣言しているケースがほとんどである。もちろん商用利用や営利などの言葉が並んでいてその定義について議論がやまないが慣例的には企業ブログに貼るというレベルなら非営利・非商用でいまのところOK。マグカップやTシャツにして売ったらまぁダメだろうね。

作者が明確なパブリックドメインやCC0であれば、これが一番安心して使えるし利用範囲も大きい。ただし、盗品である可能性があることは念頭に置いておくべき。

イラストレーターや写真家に発注をして制作をした場合は、著作権の譲渡についてもしっかり決めておいたほうがいい。例えばアイコンを発注してゲームや映像に載せた時、そのアイコンが発光したりなどのエフェクトには著作権者の許可が必要になる。後々のアップデート次第で納品された成果物に変更を加えたり種類を増やしたりすることが考えられ、頻繁に許諾を取ったり新たに発注したりするのを手間やリスクと考えるのなら、解決しておきたい問題である。

著作権の譲渡で発注側が自由に出来るようになること。これは箇条書きにしたほうがわかりやすいかもしれない。キャラクターを発注した場合を例にする。

・印刷やグッズ化する(複製権)
・WEBに掲載する、動画に載せる(公衆送信権)
・SDキャラ化やアニメ化、Vtuberモデル化する(翻案権)

これらは逆にイラストレーター側ができなくなることでもあるので、例えば「このキャラクターを描きました」などの発表やカラーバリエーションを作って第三者に売るというのは著作権の譲渡がされている場合は、描いた本人であっても許可が必要になる。あくまで法的にはね。

Vtuberとして活動するには、キャラクターデザインとモーションを含めたLive2D化が必要になり、ときたまこれが別の人が担当する場合がある。このときはキャラクターデザインの著作権を持っている人がLive2D化という翻案権を許諾という流れじゃないと厳密にはアウトということになる。
具体的には、イラストレーターがVtuberに譲渡→VtuberがLive2D化を発注、もしくはイラストレーターがLive2D化を発注し出来上がったものをVtuberに納品&譲渡の流れ。
活動用のモデル制作に関してはそれなりにしっかりと活動しているイラストのプロが担当することが多いようなので、その辺の権利関係はガッチリと話し合った方がお互いに安心して取り組むことが出来る。

音楽

まず効果音とBGMについて。
画像と同じようにロイヤリティーフリーのような形式で素材サイトを利用するのがベター。各種利用規約に則って使おう。YoutubeにアップするのであればYoutube自身がBGMや効果音用途として用意している「Youtubeオーディオライブラリ」から使うのが安心。
その他イギリスBBCが効果音ライブラリを持っていて非営利目的であれば自由に使える。

販売されている音楽を流したい場合。楽曲の多くは某ジャスラックなどの権利管理団体に委託している場合がほとんどで、所定の費用を支払った上での利用になる。カラオケ音源なども同じでシングルに収録されているカラオケ音源を流しながら自分の声で歌う~というのもこれにあたる。
すでにVtuberも何人か引っかかっているが、以前カラオケ音源を配布しているところからダウンロードした素材を使って歌う動画が削除の目にあったのは、この配布されたカラオケ音源が海賊版だったからだ。

既存曲のカラオケを作りたい、あるいはカラオケしたい場合、Youtubeやニコニコとジャスラック等権利団体との間で包括契約が結ばれているので、自作音源(あるいは他者が作った利用可能な音源)に歌声を載せてアップするのはOK。シングルCDからぶっこ抜いたカラオケトラックを使うのは前述の通りダメよ。
あと、歌詞の掲載、アレンジ演奏、替え歌、訳詞については別途確認が必要。

Vtuberの中には作曲をする方もたくさんいて、またこれをきっかけに作曲を始めてみよう!というVtuberもたくさん出てきた。これを発表してさらに他の人に利用される時、作曲者として著作権が絡む具体的な内容を挙げてみる。

・音源をそのまま流す(BGMや紹介)
・MVを付ける、歌詞を付ける、替え歌する
・カバー演奏、歌唱

音源をそのまま流すのは複製権、歌詞や映像など何かを付け足したり変更したりするのは翻案権、演奏したり歌ったりするのは著作隣接権の演奏権。それらをネットに流すのは公衆送信権。もし広くバンバン使ったり歌ったりアレンジしてほしい場合はこれらを許諾する。

音源直流しに関しては、Youtubeでは音楽パートナーとなって「Content ID」という機能を使うと、自分の楽曲をYoutubeに登録して第三者の動画アップロード時に自動サーチさせることが出来る。そのまま音源を流されたくないときや利用時に収益として回収したい場合は利用するし、バンバン流して欲しいときは利用しないというのが定石。
個人的には投げ銭感覚で収益を回せると考えれば、Content IDに関しては作曲者は登録して演奏者は収益回すというのが健全じゃないかなーと感じる。
ちなみに、一部効果音やループ音源、第三者の楽曲を盗んで登録してるバカが居るので注意されたし。

音楽の場合はイラストなどに加えて演奏権という著作隣接権が発生する。よく「自分の曲でも演奏するときにはジャスラックにお金を払う」という話が出てくるのは、この演奏権をジャスラックに委託しているからである。

3Dモデル

ゲーム用のアセットなどイラストレベルで素材の頒布が多い3Dモデル。これもまた素材提供サイトがめちゃくちゃ多く、それぞれのサイト内でも気に入った作品を見つけるのが容易なのか容易じゃないのかわからないほど多い。3Dモデルとして使う以外にも漫画作品にインポートするような用途も想定できる。特に他の素材と組み合わせる場面が多い都合上、改変が認められていることが多い。

素材提供サイトは海外どころが目立っているが、仮に著作権を侵害した場合は侵害を起こした国の著作権法が適用される(認識違い1/18加筆修正)
各国著作権法は微妙に異なるので、3Dに限らず海外へ自分の制作物が渡ったときには思っても見ないトラブルがあるかもしれないので気をつけよう。
なお、先日booth非公認中国相乗り購入代行サイト「boothマサドラ」が確認された。物販はまだしもダウンロード販売については1つ売れたら海賊版化の覚悟を決めよう。

文字

フォントのお話。独自言語を開発しろとかそういう話ではない。
フォントデータももちろんれっきとした著作物で、この使用についてもちゃんと利用規約が存在する。一般個人レベルでの制作というのも可能で、ちまたで見かけるフリーフォントというものの多くは個人制作だったりするし、イラストなどと同様に商用利用の可否を気にするべき制作物なのだ。

文字はあまりに一般的に使われすぎていて麻痺しやすいのだが、特に日本語フォントに関しては1万数千文字という鬼畜文字数のため、その開発にはめちゃくちゃ時間がかかるし、個人制作だと収録されていない文字が多数ある。これはもうしょうがないのだ。英語圏が羨ましいね。
このため、ある一定量を基準とした収録までで抑えられていることが多々ある。例えば、ひらがな・カタカナのみ、教育漢字、常用漢字、JIS規格第一水準、第二水準など。

とはいってもフォントは実は非ファインアート。応用美術の一つで工業製品と同じように美術としての著作権はない。つまりイラストと同じ扱いを受けないので、意匠登録されていなければ切断や変形といったロゴ制作のための加工元に使用することができる。上記で著作物だと言っているのはプログラムとしての著作権のお話なので、制作物としてフォントデータを含まない場合(画像化されている状態、動画での表示)は問題がない。商用利用として問題となるのはフォントデータをCDにまとめて販売したり、ゲームのデータに同梱してテキストデータを動的生成するケース。もちろん、WindowsやOffice付属フォントもリコーやモリサワが著作権を持っていて別にMicrosoftに寄付されたとかそんなわけじゃないので、買ったソフトに付属されていたからといって無茶してはいけない。

というわけで、Vtuberとしてテロップやロゴ制作なら過度に装飾性の高いフォントでない限り特に気にしなくても大丈夫だが、あくまでこれは応用美術としてカウントされるというのが重要で、要するに文字として読める情報伝達の機能を持っているというのが条件。逆に言えばテロップやロゴも美術作品としての著作物ではないというのもポイント。ロゴをがっちり守りたいなら商標登録や意匠登録をしよう(ベースに使うフォントが商標登録等を禁じている場合もある)。むしろ美術作品として成立するレベルで読めないほど崩すなら最初から描いちゃうのが無難だし早い。

ちなみに書道は話が別。これは美術作品。

動画

動画にもいくつか種類があって、組み込みで使われることを想定して作成された動画素材についてはイラスト素材や効果音素材と同じように考えていい。ただ、楽曲やストーリーが絡むような映像作品については支分権として上映権が必要になる。これはVtuberが普段リリースしている動画もこの権利を持っているのでよくばりせっとなどにまとめられたくない時や逆にそういった特集に参加したいときなどは一考したい。

普段からテレビ局などが口を酸っぱくしていることもあるのか、映画の同時視聴企画などでも画面や音は流さないよう徹底されているような気がする。よき。

声劇

声劇という形で活動をするVtuberもいる。この劇のシナリオ・脚本にももちろん著作権がある。また、劇の上演には上演権があり、第三者がそのシナリオでさらに声劇をしようとする場合は許可が必要になる。
上演には落語や講談にも当てはまる。

音読

小説系Vtuberさんも結構いらっしゃるが、詩や小説には複製や翻案が絡む出版関係の権利以外にも音読をする口述権というものもある。他方で読み聞かせ系Vtuberはその著作者に口述権を確認したい。

二次的著作物

二次的著作物という点からこれを自作品に使おうという場合は、二次著作者とは別に原著作者の許可も必要になる。例えばある小説を元に漫画化されたコマを使いたいとなった場合、漫画家にも小説家にも許可を取る。ちょっとおもしろいのは、小説は言語の著作物、漫画は美術の著作物なのだが、この場合には小説家が美術の許可を出すことになる。
上記の漫画化以外にも、翻訳されたもの、編曲やアレンジされたものなど、これに当たるケースは意外に多い。

原著作者に許可をとっていない二次的著作物の場合でも同様なのだが、これがまた同人の場合だと原著作者が黙認していることが多々あり、そもそも許可を取りに行くこと自体が二次創作に対する判断を明確化させる都合上で周囲の反感を買うケースも有る。ただし、この場合に二次的著作物側が許可をとっていなかったという理由でその二次的著作権を侵害してもいいかとなると話は別で、通説では二次的著作者もその二次著作の著作権を主張することが出来るとなっている。

先日あったVtuberのアニメキャラ改変問題。3Dデータという都合を鑑みたとしても、個人的には二次的著作物の編集可能データを公開してしまうのは避けたほうがいいんじゃないかと考えている。自身の活動自体は原著作者に対するリスペクトであったとしても、それを活用しようという人にまでそのリスペクトを強いることはなかなか難しいから。

問い合わせの基本

ここまでいろんな制作物に絡む著作権を語ってきて、著作権の中でさらにうんちゃら権かんちゃら権いっぱい出てきたが、これらは常に一つだけが当てはまるわけではなく状況いかんによって複数絡んだりするのが普通にある。このとき注意したいのが、最終的にどういう状態のものをリリースしたいのかというのを明確に共有する必要があるということ。

例えば、「配信で絵本を朗読したい」となれば、「絵本を朗読したい」だけではなく「配信で絵本を朗読したい」と伝えなければならない。朗読だけだと口述権だが、配信となると公衆送信権が絡むからだ。あとになって「まさか配信するとは思わなかった」なんてことを言われて動画削除や損害賠償に応じざるを得なくなるのは自分だ。

これはもちろん許可を取る側だけではなく、権利者として許可を出すときにも気をつけたいところ。Vtuberのファンアートのように原著作者にサプライズでお出しするなんて割とマジでぶっちゃけありえないのだ。

許諾を取る」とは具体的にどういうものかと言うと、通常仕事の上では範囲、用途、期間など権利関係に抵触する場所について事細かく記載した契約書として取り交わすのが一般的だが、こと日本においては「契約」自体は口頭でも成立する。ただ、言った言わないになる可能性が大なので、ある程度文書として残るような形を最低ラインとしてやりとりをしたいところ。
実際の所連絡がつけば何でもいいのでメール、TwitterならDM、リプ、あとラインとかでも出来る程度のことなのだ。なんでやらんの

まとめ

西にその素材を求めるVtuberも居れば、東に技術を持ってるVtuberも実はちゃんと居て、ハイクオリティな創作技術的コラボレーションというのは絶対に成立すると思っている。

Vtuberブームも徐々に趣味的志向や個人的嗜好が強まってきており、クリエイティブな刺激は増すばかりとなってきている。2019年に起こることにものすごい期待をしているのですよ。

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