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From Nom 2021.05.19       一切の妥協のない造り込みが「逸品」を生み出す

 アールズ・ギアという、マフラーを中心としたバイク用のカスタムパーツを製造・販売するメーカーが、日本のレースの中心地である三重県の鈴鹿市にあります。

バイク、とくにビッグバイクに乗るライダーの間では、アールズ・ギアがつくる製品、とりわけマフラーは高い評価を得ています。

磨き込まれ美しい輝きを見せるチタンパイプを丁寧に丁寧に溶接して、寸分の狂いもなくバイクに装着できるよう高い精度で組み立てる。製作過程でも、プロフェッショナルライダーだった樋渡が実走テストを繰り返し、彼が満足のいく性能に達するまでとことん煮詰めていきます。

ライダーのスロットル操作に忠実にパワーがデリバリーされるか、エキゾーストサウンドはエキサイティングでありながらも、長時間乗っても耳が疲れない心地よさを実現しているか……。

まさに職人が一工程一工程を確認しながらものをつくり上げていくように、アールズ・ギアのマフラーをはじめとした製品は作られるのです。

もちろん、バイクのパフォーマンスをアップさせる機能部品なのですが、樋渡は外からほぼすべてのパーツが見えるバイクの場合は、そうであると同時にライダーの所有感を満たすドレスアップパーツであると考えています。だから、「工芸品」と呼ばれることさえある美しさにも徹底的にこだわっているのです。

モリワキレーシング、そしてスズキのワークスライダーを経て、再びモリワキレーシングに戻ってからプロライダーとしてのキャリアを終えた樋渡と筆者は、もう40年近い付き合いで、バイク雑誌の編集者だった筆者は新参マフラーメーカーとしてアールズ・ギアを立ち上げた当初から彼が生み出す製品を注視してきました。

設立当初は、当時、まだマフラー用としては珍しかった高級素材であるチタンパイプ(とても軽くて、とても強靭で硬い)を流れるようなアールを描くことが可能な「手曲げ」で加工することが話題を集め、他の誰もが曲げられないような太いチタンパイプを一切のシワや歪みもなく美しく曲げる樋渡の技術が脚光を浴びました。

しかし、アールズ・ギアのものつくりの本質はそんなところにはなくて、美しさと確実な性能アップを両立することにありました。

高価なモノでは20万円を超えるバイク用のマフラーですから、購入するライダーは多くのものを求めます。

性能の向上はもちろん、装着した自分のバイクがカッコよく見えるか、大きく重いビッグバイクを押し引きするときにマフラーを換えたことでの軽さを感じられるか、ノーマルとは違うスペシャルなエキゾーストサウンドを得られるか……。

生来、ものつくりが好きで、学生時代は自分が満足のゆくレベルに達するまで課題の提出期限が過ぎてもひたすら造り込みに集中していた樋渡。もちろん、学校だと提出期限を守ることも求められるため、通常よりも時間を費やすことはマイナス評価につながりました。

しかし、自社のエンブレムを付けて販売する製品には、そんな時間制限などによる妥協は必要ありませんから、どこまでもどこまでも自分が理想とするもの、そして購入してくれるライダー、お客様が絶対に満足してくれる性能と美しさを追求してしまうのです。

今回、アールズ・ギアのウェブサイトで「ものつくりSTORY」を連載するにあたり、長時間にわたってオンラインで樋渡にインタビューを重ねましたが、その中で何度も出てきた言葉が、彼がスタッフに言う「いまのままでも十分だけど、ここをこうしたらもっと良くなるんじゃない?」、そしてその言葉が「自分たちを苦しめちゃんだけどね」、というものでした。

どんなに美しくても、バイク用のパーツはいわゆる工業製品ですから、当然、コストも考慮しなければいけなくて、製造工程がひとつ増えればそれは販売価格に反映してしまいます。それでも樋渡は、ひと手間、ふた手間かけることを決して厭わないのです。

他にはないいいものを作れば、購入してくれたお客様はうちのファンになってくれる。そしてそこから長い付合いが始まる。それがアールズ・ギアのものつくりのポリシーだと樋渡代表は言います。

40年近く付合ってきたにもかかわらず、今回のインタビューでは初めて聞く、驚くようなものつくりに対するこだわりがたくさんありました。アールズ・ギア、そして樋渡のものつくりの真摯さ、丁寧さを誰よりも深く知っているはずだった筆者すら「そんなことまでしているのか」と感動し、ときには呆れるほどひたすら理想を追い求めるものつくりの姿勢がありました。

美術品や伝統工芸品など、多くの人が知る機会があり、社会的にも高い評価を受けるものに対し、バイクに乗るもの以外には知られることの少ないバイク用パーツですが、アールズ・ギアの製品を見て、どうやって出来上がってきたのかを知るときっと多くの人がその精緻さや美しさに感動するに違いありません。

アールズ・ギアの「ものつくりSTORY」

バイクに乗る人はもちろんですが、バイクに乗らない、興味がない人にもぜひ読んで欲しいと思います。

そして、それがきっかけになり、少しでもバイクのことが気になるようになれば幸甚です。





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