見出し画像

好きに生きるんで、お構いねぐ

能登半島大震災の犠牲者の方々のご冥福並びに、被災者の方々へのお見舞いを衷心より申し上げます。

2024年の初投稿が、2月の下旬になってしまった。
今年もマイペースな投稿にると思われますんで、どうぞお構いねぐ。


東日本大震災から
二ヶ月経った 2011年5月

原宿の純喫茶『アイドル』へ
ドアベルを鳴らして
勢いよく入ってくるアキ


アキ

ママ
おら岩手さ帰りでえ
北三陸さ帰りでえ


春子

本気なの?
つうか、これ何回目だ?

ほんとにさ
やりたい放題なのよ
あんた!


アキ

ごめん


春子

普通はね
次のチャンスに向けて
踏ん張るの

ここであきらめたら
B級アイドル止まりよ


アキ

あきらめる
わけじゃねんだ

ただ
今はお芝居どが
歌どがよりも
気になることがあって


春子

何が気になってるのよ?
言ってみなさい
自分の口で


アキ

夏ばっぱのことだ

それから
ユイちゃん、北鉄
海女カフェ、リアス…



アキは、決して思いつきで帰りたいと言ってるわけではなく、いろいろ悩んだ末の決断なのだ。

アキの言う「気になること」…
それは夏さんのメールだろう

アキ📱

夏ばっぱ
今年の夏は
潜らないよね?


夏さんからはこんな返事が
返ってきました。


おがまいねぐ…


この素っ気ない返事を
アキはどう感じたのか?

こっちは大丈夫だから
気にするな


と、気遣っているようでありながら
突き放されたような印象も否めない…

「夏さんが、お構いねぐって言うんだから、気にしなくていいんじゃないの?」

春子に打ち明けたなら、こう言うかもしれないが、アキは納得しないだろう。

海の底で交わす海女の符丁(ふちょう)みたいな、謎めいたメッセージは、アキだからこそ響いたのかもしれない。

娯楽に関わる多くの人が
自分自身に問いかけました

ドラマや映画や歌がなくても
人は十分生きていける
 
でも、水や食べ物
電気や燃料がないと
人は困る、生きられない

世の中が
すっかり変わってしまった

3月10日まで
日々どんな気分で暮らしていたか
アキもまた思い出せず
自分がどうしたいのか
わからないでいました

このナレーションからは、のんさん製作の映画『Ribbon』と共通するものを感じる。


コロナ感染拡大の影響で、美大の卒展が中止になり、芸術活動の意味を自問する主人公のいつかに…



鈴鹿ひろ美

寄せては返す波のように
なんて歌詞…
東北の方々に申し訳ない


この本(台本)に書いてあるとおりに
生きる事にしたの…

と言う鈴鹿ひろ美も、ハッピーエンドのはずの台本にはなかった大震災という嘘のような恐ろしい現実に、どう対処したら良いかわからない。

🎀Ribbonでも視ない?


震災のショックで、なかなか仕事が手につかない鈴鹿ひろ美

そんな鈴鹿に、春子は発破を掛ける。

東北の人間が
働けって
言ってるんです!


夏のメッセージからは

お構いねぐ…

鈴鹿さんにも
そう伝えてけろ


そんな〝下の句〟も連想される。

それは後に、天野家で現れる。

夏と鈴鹿、ふたりの会話…

鈴鹿

≪寄せては返す
波のように≫

こちらの皆さんが
聴いたら
津波を連想するんじゃ
ないかしら?


するね…

それが、何か
問題でも?

歌っても歌わなくも
津波の事は
頭から離れませんから

どうぞ、お構いねぐ


東京と北三陸を、それぞれ象徴するような登場人物として、鈴鹿ひろ美と天野夏は対照的だ。

ふたりの会話は、和やかな雰囲気ながら、それぞれ大きなものを背負って来た者同士が腹を割る、貴重な瞬間に感じた。

春子は
東京さ出てったが

あんたのように
アイドルには
なれねがった

んでも
めんこい孫連れて
帰ってきた

いやぁ
おらの人生
大逆転だ

ハッハッハッハッ


と高笑いするが

鈴鹿はどう思ったのか
さらに夏に尋ねる。

ねえ、おかあさん
ちょっと聞いて

春子さんが…


言いかけるが

ただいま~


元気に帰ってきたアキ
忠兵衛、大吉、かつ枝

お~い夏さん
一本つけろてじゃ


景気が良い忠兵衛に
夏は、ご機嫌で

はい はい はい


鈴鹿には

何か言いました?


と振るも、鈴鹿は

私、やります


忠兵衛の「1本つけろ…」は、大吉のあんべちゃんへの再婚プロポーズの前祝いなのだが、夏にとっては「大逆転」の祝杯なのかもしれない。

おらの人生    大逆転だ


しかし「おら(アキ)のひと声で開かれた」合同結婚式の最中に、忠兵衛は黙って遠洋の漁に旅立ってしまう。

「去るものは追わず」のはずの夏が、慌てて忠兵衛を追う姿に『潮騒のメモリー』が切なく重なる。

置いてゆくのね
さよならも言わずに♪

🚢


「おらの大逆転」で、ちょっと調子に乗った隙に、一本取られたのか?

忠兵衛の「一本つけろてじゃ」は、船出の祝い酒だったのかもしれない。

鈴鹿らの〝震災婚〟を祝福しつつも、被災地でまた一人、天野家を守り続ける夏だからこそ「お構いねぐ」と言えるのかもしれないが…

そんな夏に引き寄せられるアキや鈴鹿には、共通するものがありそうだ。

バレてもね
しらばっくれてりゃいいの


と言う鈴鹿だが〝お見通し〟の夏の前では、素直な聞き役になるしかない。

夏の鈴鹿への「お構いねぐ」からは
こんな気持ちを想像する…

津波のことを
気にしてくれるのは
ありがてえが


あんたが一番気になるのは
周りの評判でねえのか?

もっと自由に、好きに
やればええんでねえの?

アキみたいに

ここでは
そんな飾りはいらねんだ…


ダブルのダークスーツに身を包んで「売名行為」の批判を気にする太巻よりも

大船渡市の避難所へ慰問したGMTの放送を視て

熱いよね…

どうせ、売名行為だろうけどさ


日本を元気にしてるよね


甲斐さんが言うように、自分の「好き」に嘘をつかないで、素直に表現することが大事なんだ、と教えてくれる。

アキだって嘘をつくけど…

恋愛禁止のなか
種市をこっそり自宅に呼んで
「誰かいるの?」
と言う電話の向こうの春子には
水口だと…

でも、すぐにバレてしまう。

東京では、アキなりに、大人の世界に合わせて来たのだろうが…

目撃したヒロシの母親を
打ち明けてしまう…

アキ

男の人と一緒だった
ごめんな、黙ってて

ユイちゃん
傷つけたくなかったんだ

だけど、もう限界だ!

ごめん、ホントごめん
でも、たぶん
帰ってこねえぞ!


ヒロシ

ありがとう!
聞かなかったことにするわ



鈴鹿は、アキに言った

やっぱりあなた
女優に向いていない

でもいま日本で
天野アキをやらせたら
あんたの右に出る
女優はいません!

だから続けなさい


嘘が下手くそで
他人や自分を騙せないアキは
女優に向いていない
ということだろうか?

逆に、嘘がなくて正直な自分を
余すところなく発揮できる…

そこが「日本一の天野アキ」
なんだろう

ユイ

アキちゃんはさ
どっちが辛かったと思う?


アキ

え?
どっちが?


ユイ

鈴鹿さんと春子さん

私は鈴鹿さんの方が
辛かったと思うんだよね


アキ
なして?


ユイ
なんとなく

ステージ見てて
そう思った



嘘か本当かなんて、どっちでもいい…

本当の自分を見失うほど、自分も他者も騙してきた、プロの辛さを「東京行ってアイドルに成りたかった」ユイだからこそ感じ取ったのだろうか?

そんな東京から
帰ってきたアキに

ヒロシは

アキちゃん
全然変わらないよ

それはでも
すごい事だと思うよ


アキは

東京がそうなのかな?

成長しねえど
怠けてるみたいに
言われるべ


成長しなきゃ駄目なのか?


と言う。
アキとヒロシは、深いところで
理解しあえる似た者同士のようだ。

成長しない、変わらないけど
輝きつづけるものもあるのだ。

磨いて光る琥珀の中の
8500万年前のアリみたいに…


太巻も海女カフェを見て
気づいた

お金かけたら
ちゃんとしちゃう

この絶妙なバランスが
崩れちゃう


何でもお金をかければ良い
っていうものじゃない。

ちゃんとしちゃったら
つまらないものもある…

〝らしさ〟を大事にしたいから

だから

お構いねぐ


なのかもしれない。


のんさん
春を受けて立つようです。

荒野の決闘みたいだ…🤺🍃
これは、応援せねば。