又吉直樹さん×西加奈子さんの『人間』トークイベントで学んだこと

2019年10月20日(日)に行われた、又吉直樹さん × 西加奈子さんの『人間』刊行記念トークイベント@紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA に行ってきました!

この日、来場したのは、報道によると約350人。2人の知名度からすると、もう少し大きな会場でもよかったかもしれません。自分は募集が開始されてすぐに申し込みましたが、その時点で「残席わずか」になっていました。

言葉酔いしそうなくらい、超濃密な1時間45分。参加できなかった方のために、僭越ながら内容をシェアさせていただきます。

1.出だしのやりとり(又吉さん&西さん)

西  「『人間』の中に◯◯◯のシーンがあったんやけど、わかる?」
又吉 「わかりますよ」
西  「あ、そっか。だって、又吉さんが書いたんやもんなぁ~(笑)」
又吉 「はい(笑)」

2.『人間』を読んだ率直な感想(西さん)

脳みそが飛んでいきそうになった。凄いプロレスの試合はいっぱいあるけど(※西さんはプロレスの大ファン)、たまに何が凄かったかわからない試合がある。説明するのに言葉に詰まるような。

『人間』はまさにそんな感覚になった。「なんやったん、今の!?」ってなって、ページを戻ることがたくさんあった。人間が人間であることの未熟さを、最初の方のページで全部語っている。気付かずにそういう構成にしているなら、天才的やと思う。

3.新聞連載で気をつけたこと(又吉さん)

普通の長編だったら、ドラゴンボールの元気玉を貯めているだけの回があってもいいけど、新聞はそれではダメ。1回の原稿の中で、その日一日、心にひっかかるような、セリフや描写を入れたいと思った。

4.奥と永山の会話のシーン(又吉さん&西さん)

「再会するのがとても楽しみだった。それは書いている自分次第なのに、”もうすぐ会える”と思ったら、テンションが上がった」(又吉)

「普段からここまでレベルの高い会話をしたいんやったら、又吉さんは絶対友達おらんやろなと思った(笑)」(西)

5.芥川賞のスピーチ(又吉さん)

普通のことを言うのが一番面白い。ここで言うべきことを言うのが一番面白い。だから、芥川賞のスピーチもめちゃめちゃ真面目にしゃべった。芸人がこの場にちゃんと馴染んでるという面白さ。「芸人なんやから笑いをとれよ」と言う人もいたが、それは旅館の部屋を汚しまくるくらい失礼なこと。僕は「来たときよりも美しく」と思っていた。

芸人仲間が何人か受賞式にきていたが、必ずジャケットを着てくるように言った。立食でもあまり動き回るな、このゾーンから絶対出るなと指示した。

6.なんでもいい。全部一緒。同じ。(又吉さん)

最近、「なんでもいいんちゃうか」というふうになってきた。今までは誰かが決めた価値に振り回されたり、とらわれすぎたりしていた。でも、最近その輪郭が淡くなった。食べようか、やめようか。食べたらこう、やめたらこう。全部一緒やん、同じやんと。

7.「登場人物=あなたですか?」と聞かれることについて(又吉さん)

これまでいろんな小説を読んで、「これはまさに俺や」と公言してきた。で、いざ自分が小説を書いて、「この中に俺はいない」はありえない。それだと書き直しをしないといけなくなる。自分でもあるし、自分でもない。私小説ではないが、どこかでは私小説でもある。全部一緒。同じ。『一緒』というタイトルにしたらよかったかも(笑)

8.私小説であるかは、誰が決めるのか?(又吉さん&西さん)

小説は、作家が書こうとしていることの「純粋な再現」になっているとは限らない。普段はいくつものことを同時に考えて、処理している。でも、小説でそれをそのまま書くと読者は酔ってしまう。意味が分からなくて混乱してしまう。

だから、小説は一本調子で、説明立てて書かないといけない。心の中をそのまま書くわけにはいかない。これを私小説と言えるか?私小説なのか、そうでないのか。全部一緒。同じ。

9.今後の出版活動について(又吉さん)

芥川賞をとったら、何年間で何冊とか決められるけど、そういうのに左右されたくない。自分で全部決めたい。誰かに書かされるのはよくない。自分が書きたかったら書けばいい。まだ3冊で、小説の書き方もよくわからない。習うもんでもないし、習ってもいい。全部一緒。同じ。

10.芸人なのか、作家なのか(又吉さん)

「両方でええやん」と思うけど、それは通らない。「どっちなんですか?」と聞いてくる人は、元からフラットな目線で見ていないから。まずカテゴリーができてしまう。自分のやりたいことや表現したいことは二の次。

便宜上、肩書きが必要なときもある。でも小説は、便宜とはかけ離れたところにあるものだから、もっと自由であるべき。芸人であってもいいし、作家であってもいい。全部一緒。同じ。

11.終わりのやりとり(その1)

司会者 「すみません・・・」(壇上に上がり、紙切れを又吉さんに渡す)
又吉  「あと2時間しゃべってていいです、って書いてあります」
西   「えーーー、あと2時間も!?」
又吉  「間違えました、そろそろ終わって下さいって(笑)」

12.終わりのやりとり(その2)

この日、参加者全員に新刊の『人間』が配られたのですが、紀伊國屋のビニール袋に入っていました。本を出したりしまったりすると「カサカサ」という音がするんですね。もうそろそろ終わるということで、みんな一斉に本を片づけ始めて、会場には「カサカサ・・・カサカサ・・・」という音が。

西  「なんなん、この音。めっちゃ怖いねんけど」
又吉 「袋の音かな?」
司会者「はい、参加者の方に配った『人間』が入っている袋です」
又吉 「”人間が入っている袋”って!その表現、怖すぎるやろ(笑)」

まとめ

又吉さんの著書『夜を乗り越える』の中に、「世界は白と黒の二色ではなくグラデーション。二択ではない」というフレーズがありましたが、又吉さんは物事すべてにおいて、二択のどちらかを選択するのではなく、曖昧なグレーの部分を大切にしていらっしゃるんだな、と思いました。

西さんが「言葉にすると、整理されてしまう」と仰っていたのですが、「登場人物は僕です。これは私小説です」と言い切ってしまうと、本当にそうなってしまう。だから、あえて曖昧な言い方に留めているんでしょうね。私たちは、なんでも「白か黒か」の二択で決めがちですが、「グレーもある」ということ、芥川賞&直木賞作家から学びました。大満足です!

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