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【小説】 六時十度三百九m/s その3

 超高層エレベーターは、その軌道となるタワーの支柱を中心に、等間隔に十二個設置されている。ちょうどケーキを十二等分した、その円周側にエレベーターが配置されている。そして北側を向いて、全く時計の文字版のようにエレベーターは番号が採番されて並んでいる形になる。つまりエレベーターの一番北は12番で、南が6番になっている。雄太は真南の6番エレベーターに案内され、第一回搭乗者だから、ほとんど待たされることなくその中へと案内された。
 エレベーターの中は、エレベーターというよりホテルのエントランスのような広い一室であった。コンビニのような簡単なショップもあり、観葉植物なんかもそこかしこにあって居心地はよさそうだ。壁は全てガラス張りであって、そこからエレベーターの外の様子が分かった。本来、エレベーターの構造上全面ガラス張りなら、エレベーター内部の機械や吊り上げるためのロープなどそういうメカニカルな部分が見えるはずだが、タワーの外側に設置されたカメラによって全周映像が叶えられている。入り口の扉が閉まれば、その扉まで透明になり、完全な360度の視界になるという。そしてもちろんエレベーターの速度に合わせて景色が変わっていくのだ。部屋中央に高級そうなワインレッドのソファーが円状に並び、そこに座ればちょうど外の景色がよく見えそうである。
 4人のスタッフジャケットを着た男女がエレベーターを見回し、規定人数いることを確認すると、エレベーターの入り口は音も無いのに重々しく閉まった。そこで初めて雄太は自分以外の客の存在に気づいた。自分を含めて30人ぐらいだろうか。意外と少ない気はしたが、よりエレベーターを貸し切りで使っているような、選ばれた人間だという思いが生まれ悪い気がしない。

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