マガジンのカバー画像

読むまちづくり

460
まちづくり絡みの話をまとめています。随時更新。
まちづくり絡みの記事をまとめたマガジン「読むまちづくり」。 月額課金ではなく、買い切りです。なので… もっと詳しく
¥990
運営しているクリエイター

#SF小説

短編SF小説「壁に向かう」

 私の父はYouTuberだった。私が父の姿で覚えている一番古い記憶は、父が誰もいない壁に向かって熱心に何かを話している後ろ姿だ。  今にして思えば、壁に立てかけたカメラに向かって話しかける動画を撮影、あるいは、ライブ配信をしていたのだろう。  おかげで私は、人というのは、大人になったら誰もいない場所に向かって話しかけるようになるものなのだ、と思って育った。小学生になる頃には、大抵の大人はそんなことしない、と気づいたが。

SF短編小説「山奥の仙人様」

「ねえママ、ちーちゃん、お話を聞きたい。お話してー。」 「いいわよ、ちーちゃん。そうね、じゃあこんな話をしましょう。お題は、山奥の仙人様。」  昔々、あるところに、若いお坊さんがいました。  お坊さんは、自分の修業が行き詰っていることを感じ、寺を出て、山奥の小さな小屋に一人で隠居して暮らす仙人の元へ弟子入りを志願しました。  仙人は、一人で修業をしたいのだといって、最初はお坊さんの弟子入りを断っていたけれど、お坊さんが何度も通ってお願いするものだから、遂に弟子入りを認

SF短編小説「政治家たちの学習」

 政治家の街頭演説がうるさい。夜遅くまで仕事をして、やっとのことで眠ることができたと思った途端、朝早くから誰に対してともわからぬ演説で無理やり起こされた経験があるならば、一度はこの言葉を脳内で再生したことがあるだろう。あなたもその一人ではないだろうか。  とすると、おそらくあなたも「街頭演説で一度でも名前を聞いた候補は投票先から外す」というアイデアを一度は思いついたことがあるだろう。人々がその指針を維持するならば、街頭演説をする候補には票が集まらないという淘汰圧が働き、結果

とある女性起業家の独演会の記録

 みなさんは信じないかもしれませんが、実は私は、もともと魔女だったのです。 (会場笑)  決して冗談ではありません(笑)。本当のことです。黒猫のしゃべる言葉が聞き取れたりしたのですよ。  私が生まれ育った村では、13歳に達した魔女の少女は、成人の儀式として、村を出て独り立ちしなければなりませんでした。私は決して優秀な魔女ではなく、できることといえば、ほうきで空をとぶくらいのことでした。私は偶然行き着いた海辺のまちで、これまた偶然出会ったパン屋のご主人の家に、店番をかねて

音声言語を手話に翻訳するロボットハンドと、手話をカメラで解析して音声言語に翻訳するシステムで猿としゃべる夢

 とある研究施設の見学ツアーに招かれて行ったんですね。  そこには、手話を理解して人間とコミュニケーションできる賢いお猿さんが何頭かいる。しかし、手話が使えない多くの人間はお猿さんとコミュニケーションできない。  そこでこの研究施設では、面白いシステムを開発している。このシステムは、まず、音声認識で人の言葉を理解して、手話に翻訳する。そしてロボットハンドが手話で表現する。さらにお猿さんの手話をカメラで解析して、音声言語に翻訳してスピーカーから流してくれる。この一連の流れで

地域活動のICT化を完遂したとある町内会Aの話

 21世紀のはじめに発生し、非日常をもたらした疫病は、その後も変異を繰り返し、22世紀の現在ではすでに日常と化していた。  疫病への感染リスクを避けるために、地域活動のICT化を完遂した町内会Aでは、誰も家を離れることなく、すべてのコミュニケーションがオンラインで完結する。  回覧板は町内会のチャットルームで送受信される。ログが遡れて便利だと評判だ。  地域の清掃活動は、町内会で保有するルンバが街に放たれて行われる。ルンバでは回収しきれない大型のゴミが発見された場合、位

公営住宅密室殺人事件

 大学院時代の同期であった高橋が死んだ、という報を聞いた長野は、告別式に参列するために10年ぶりに、院生生活を送った広島へ向かった。  高橋は、52歳だった。死ぬには早いだろう、と、告別式に集まった仲間とぼやきあった。同時に、自分たちもまたもういつ死んでもおかしくない年なんだなと、長野は思った。かつてまだまだ青白い大学院生だった仲間たちもやはり一様に老けていたし、かくいう自分も客観的に見て明らかにおじさんであった。  式が終わり、同期の仲間でも多忙の者は早々に日常に帰って

30年目のステイホームを終えて

 西暦2050年、ある一人の男性がメディアの脚光を浴びることになった。  2050年の春、西賀茂の山裾の道路で、男性が倒れているのを、地元住民が発見。男性は、長いひげに、白い布をかぶっただけの質素な姿で、見ように寄ってはタイムスリップしてきた縄文人、あるいは伝説の仙人のようであった。男性は空腹と遭難で弱っており、彼を発見した住民はすぐに通報し、病院に搬送された。翌日、意識を取り戻した男性は、当初ひどく怯えた様子であったが、徐々に落ち着きを取り戻し、身元を供述し始めた。その結