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読むまちづくり

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#読書感想文

「デス・ストランディング ディレクターズカット」をクリアしました

「デス・ストランディング ディレクターズカット」をクリアしました。面白かったです。 これ、オリジナルは2019年末に出たのか。コロナ禍の影響を受けたような描写もあったが、それより早かったことに驚く。優れたSFにはそういうことがある。 2010年代末というのは、グローバリズムの進展、アメリカ(に代表される先進国、日本も含む)における、リバタリアニズムとコミュニタリアニズムの葛藤、ポピュリズムの台頭、社会の分断。反出生主義の流行。20世紀的な国民国家的統合に由来する社会の崩壊

書籍感想文 深川光耀「私発協働のまちづくり」

花園大学の深川先生から献本いただきました。ありがとうございます。 現在、Amazonで予約注文を受付中だそうです。 せっかくご献本いただいたので、これから本書に興味を持って手に取る人が増えることを願って、感想をメモしておきたい。 師弟三世代に渡る「私発協働」理論のリレー本論文は、故・延藤安弘氏の「私発協働」をキー概念として用いている。私発協働とは、「<私>から始まり、まわりをゆるやかにひきつけ、ともに力を発揮しあうことを通じて”公共の幸福”に導く一連のプロセス」のこととさ

まちづくりはスーパーヒーローがいたから成功するのではなく、まちづくりが成功する地域は制度的にスーパーヒーローを作り出すのかも仮説〜木村隆之. (2015). 「まちづくり研究およびソーシャル・イノベーション研究の理論的課題に関する一考察」.

従来のソーシャルエンタープライズ論は「社会起業家」の特異な能力に偏っていた 木村隆之. (2015). 「まちづくり研究およびソーシャル・イノベーション研究の理論的課題に関する一考察」.『経営学論集』第26巻第1号を読みました。  日本でもゼロ年代から盛んになったまちづくりにおける社会的企業、ソーシャル・エンタープライズの研究だが、本論文は、まちづくりの成立プロセスの説明が社会起業家という特異な能力者の存在に依存しがちであった点を指摘する。 それゆえの限界もあったと指摘

クリエイティブクラスの緊急避難現象を考える〜藤村靖之『月3万円ビジネス 非電化・ローカル化・分かち合いで愉しく稼ぐ方法 新装版』

 藤村靖之『月3万円ビジネス 非電化・ローカル化・分かち合いで愉しく稼ぐ方法 新装版』読みました。面白かったです。  すごく大雑把にいうと、「低収益だが、関係資本と時間資本をたっぷり使うことで大企業では参入できないジャンルのビジネスを、地方の田舎暮らしで支出を減らすことと無借金経営で可能としようぜ」というお話。地域の活性化やローカルビジネス、まちづくりなんかに関心を持つ人にとっても親和性が高い話だと思う。

「話が合いすぎる友人」としゃべるような、楽しさと、気恥しさを感じた、って話。

 話題の『世界は贈与でできている』読みまして。なんていうか、「話が合いすぎる友人」としゃべるような、楽しさと、気恥しさを感じたんですよね。

「つながり」を一発で作って孤独を解消すれば色々問題が解決できるはず、という夢を打ち砕く。

 話題の『社会的処方: 孤立という病を地域のつながりで治す方法』を読みまして。  本書で、海外にはリンクワーカーという職があるということを知りました。例えば、孤立している人にヒアリングをして、「ああ、この人は歌が好きなんだな」とわかったら、地域の聖歌隊グループにつなげる、みたいなことをして孤立を解消していく仕事で、孤立している人を社会に包摂することで病気や犯罪などに対処する方法を社会的処方という。私達もまちづくりの現場でしばしばやる仕事だけど、それ自体を職名として担う専門家

僕らは暴力から自由になれるのか − 山極寿一『暴力はどこからきたか−人間性の起源を探る』NHK出版、2007

 本書は、性と食をめぐる争いを人類がどう回避してきたかということを、ゴリラを始めとする霊長類研究者の観点から考察するものである。  狩猟採集民の研究から、彼らには共通して採集した資源を「分け与える」のではなく「分かち合う」事を重視する「共在のイデオロギー」が在ることがわかっている。誰が獲得してきたものであれ、キャンプをともにする人々に等しく分け与えられ、所有は徹底的に避けられる。竹内潔は、彼らが食物を直接手渡ししないことを記述している。肉は「放り投げられる」のである。黒田末

非リア充の声を聞くためのパッシブ参加のコストをどこまで下げられるのか − 東浩紀『一般意志2.0』講談社文庫、2011

 本書で著者は、「萌えキャラとしてのルソー」を描いているように私には読めた。キレキレなんだけど、キラキラした人たちのサロンが鼻持ちならないと感じる、一人が好きな哲学者。本書は、そんなルソーの人となりや哲学を、現代の技術を利用することで徹底できるのではないか、という話を通じて、現在の民主主義や対話の限界を指摘している。  市民社会的世界観や、まちづくり分野では、「言葉での話し合い」とか「コミュニケーション」が尊ばれるが、現場にいればいるほど、その理想論性というか、無理っぽさを

クリエイティブ・クラスの緊急避難としての地方移住 − 松永圭子・尾野寛明編著、2016『シリーズ田園回帰5 ローカルに生きる ソーシャルに働く 新しい仕事を創る若者たち』一般社団法人農山漁村文化協会

 本書を出版する一般社団法人農山漁村文化協会(以下、農文京)は、もともと農林水産省所管の公益社団法人で、2013年に一般社団法人に移行した出版社である。その性格ゆえ、農業、健康、教育などの分野の書籍等を扱っている。  農文京の理念は下記のように説明される(農文京ホームページ:「ご案内」より )。<近代化は、あらゆる場面で生産効率を高め便利な生活をもたらし>た。しかし一方で<自然と人間の関係を敵対的なものに変えて>しまっている。これを解決するために<都市と農村の関係を変え、自

世間とは何か

 阿部謹也さんの同タイトルの本があるが、改めて考えてみよう。  安冨歩さんが「立場主義」という考えを提唱している。立場主義のアルゴリズムは、安冨歩によれば以下のように説明される。  「立場」とは、辞書的には「その人の置かれている地位や境遇。また、面目」という意味だ。「苦しい立場に追い込まれる」「負けたら立場がない」などのように使われる。  ここで「立場≒面目」という表現が出てきた。面目とは「世間や周囲に対する体面・立場・名誉。また、世間からの評価」のことだ。  では「

上手な権力の使い方 − 岩竹美加子『PTAという国家装置』青弓社、2017

 政治理論における「権力」とは「他人の望まない行為を強制する力」のことである。それは例えば「我々に従わないと攻撃するぞ」という脅しというかたちで発揮される。しかし、そういうあからさまな権力の行使は、権力者に対する反感を招き、やがて反撃される危険性を帯びる。  その点において、上手な権力の使い方をする「賢い権力者」は、あからさまに姿を表して権力を行使したりはしないだろう。著者は、PTAを国家の権力装置とみなし、その権力作用を分析する。  そもそもPTAとは何か。おそらく誰もが