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「湖の女たち」舞台挨拶付き先行上映会

吉田修一の小説「湖の女たち」。
推しの俳優・福士蒼汰氏の主演で映画化するというので、まず原作を読み、そして昨日試写会に行ってきた。

この作品では、主人公である圭介と佳代はただひたすらSMチックな関係を展開するだけで、そこにはストーリーと言えるような流れがない。
周囲でいろいろな深刻な出来事が動いているのに、主人公たちが直接的にそこに関わることがない。
原作に対しては、「この二人、なに?」「この小説に必要?」と感じ、消化不良な読後感となった。

だから映画化に対しても、ましてや俳優として大事な時期にいると思われる福士蒼汰が圭介を演じることに対しても、疑問しかなかったのだけど、でもとにかく観てみない事にはなにもわからない。

ということで、ぴあから舞台挨拶付き先行上映会のお知らせが届いた時に応募してみたら、運よく当たったのだった。
やったー\(^o^)/、福士蒼汰くんに会える(正確には見れる)ぞー♪

◆舞台挨拶を見聞きして

舞台挨拶では、主演のお二人=福士蒼汰と松本まりかの、すごく正直な言葉が聴けた、と思う。
福士くんは原作を読んで「やろう、やれる」と思ったという。
それは俳優としての自信だと思う。
この人物を役として攻略するぞ、という気持ち、できるという手応え。
長年母のような気持ちで応援してきた自分にとって、すごく嬉しく頼もしい発言だった。

鑑賞のヒントになった言葉があった。
「生産性のない美しさ(うろ覚えだけどそんな意味)を感じ取ってもらえたら」
生産性・・・?そんな話だったっけ・・・?
と、その時は思ったが、映画が始まってみるとその言葉が主人公たちに近づく手掛かりになった。

松本まりかはさらに正直だった。
考えて考えて、観客に届く言葉を探して、自分もわからなかったが役としてどうアプローチしたか、どう落とし込んだか、それは理解というには及ばないかもしれないけど表現は出来たのではないかと思う、と。
それがみなさんにも届いていたらいいと思う、と。

女として佳代を理解して演じることは難しいと、確かに思う。
だけど佳代になろうとする作業、俳優としての裸の部分をさらけ出して語ってくれたことに、「圭介と佳代」と「この作品と松本まりか」の関係性が重なって見えた気がした。

監督からは、作品の内容に対する思い入れ、のような熱量は感じなかった。
観終わってみて思ったのは、映画監督としてこの小説をきっちり、作者を満足させる映像作品に仕立てたんだな、ということ。
もしかしたら監督も、この小説の芯の部分までは理解してないかもしれない。
が、原作に書かれている通りに作ったということは、原作の大事な部分を損なわずに映像化されているということで、映画監督としてきっちり仕事したんだな、というリスペクトを感じた。

◆「湖の女たち」という作品について

「湖」と「女たち」がこの作品のキーポイントなんだよね・・・
「女たち」については、なんとなくわかる気がするけど、その視点は今は少し時代とのズレを感じる気がする。
でもそれについては作者の主観だから、そのまま受け止めることにする。

問題は「湖」。
開けている「海」ではなく閉じている「湖」・・・うーーーーーん。
小説内で取り上げられている事件たち、は確かにどれも「解決」という外界への開放がなく、閉じられた世界で水面下に沈んで水底に澱むばかり。

理解の手掛かりを探していろいろ見ていたら、「好書好日」のサイトに原作者のインタビュー記事を見つけた。

ああ、ここに「生産性」の言葉が。そして「優生思想」か。なるほどー。

人間の業と言えるような「優生思想」が渦巻く中心にいる、本能だけで繋がる圭介と佳代。

ということなのかなー。

とにかく、この小説においては事件は解決されるべきものとしては置かれておらず、渦巻きの中心は真空であるかのごとく主人公の二人は無意味で、でもそこが「世界の中心」二人が「主役」というところをしっかり頭に入れて読み、観たら、なにか掴めるかもしれない、と思う。

◆映画について

会場となったテアトル梅田はミニシアター系の映画を多く上映しているところで、シアターが小さく、福士蒼汰くんは至近距離で見れて嬉しかったけど、この映画を見るにはちょっと小さすぎた気がした。
総じて画面のトーンが暗いので、暗すぎてなんだかわからなかったことが何度か(え?トシのせい?)
ラストに展開される琵琶湖の美景も、もっと大きなスクリーンで観た方が感じるものが違ってくるのでは、と思った。

キャストは豪華で見応えがあった。
特に心に残ったのは、まず、原作では男性だった記者・池田を演じた福地桃子。
この人の存在が多分、一番観客に近いんじゃないかな。
若いけど、いい意味で若さを感じさせず、その心情を的確に伝えてくれた。
もう一人は、三田佳子。
この方はもう、すごいの一言しかない。
私の中では、吉永小百合を超える当代随一の女優。
1シーンしか出てこないけど、その1シーンのためにもう一度観に行きたい。

映画としては、内容は重たいし、長いし、画面は暗いし美しいのは景色だけ、という感じのものなので、ヒット、というわけにはいかないかな、と思うけど。
私にとっては久しぶりに脳みそを活性化させてくれたし、印象的なシーンも数々あったので、リピートしようと思わせてくれる映画だった。



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