お花屋さん(三題噺)

花 笑顔 携帯電話

あるところに、体から花が生えてくる女の子がいました。その花はとても美しく、女の子はたまに大切な人にそのお花を渡すのですが、もらった人はみんな幸せになる、魔法のお花でした。
さて、その子のお父さんはお花屋さんでした。ある日、その魔法の花の噂を聴いた街の人が、花を売ってくれないかと頼みました。
お父さんが女の子を呼んで相談すると、女の子はいいよ、と言ってお花を渡し、お客さんは高い代金を支払いました。
「恋人に渡すんだ。ありがとう」
そう言って丁寧にお辞儀をして、お客さんは帰ったのですが、幸せの花の噂はどんどん広がり、花を売ってくれないかと訪れる人も増えました。
お父さんはこれはチャンスだと思い、女の子の部屋の温度を整えて、日当たりを良くし、栄養のあるものを食べさせて、お花がたくさん生えるよう工夫しました。そして、花が生えるとそれを切って、魔法の花として売るのでした。
女の子は、最初はお父さんやお客さんに喜ばれることが嬉しかったのですが、どんどん花を生やすことにだんだんと疲れていきました。急いで花を生やすことも体力が必要でしたし、お父さんが「花を咲かせるモノ」のように自分を扱っているように思われて悲しかったのです。女の子は携帯電話を握って、震える手でお父さんのお母さん、つまり彼女の祖母に相談して叱ってもらおうと考えたのですが、女の子は幼く、自分の気持ちをどう伝えたらいいかわからなかったので、結局なにも言えませんでした。
女の子は泣きました。一晩中泣きました。泣けば泣くほど花が萎れていきました。やがて朝がやってきて、お父さんがお花を摘み取る時間がきました。
「おはよう」といいながらドアをノックして開けると、女の子の萎れた花と泣き顔、やつれた表情をみて、お父さんは驚いて、自分がしたことに気づいたのでした。
「ごめんなさい。最初はあなたと幸せに生きるために花を売っていたのに、悪いことをしてしまった。ああ、どうやったら償えるのだろう。ぼくが悪かった」
そう言ってお父さんは泣きました。それを見て女の子も泣きました。落ち着いてから、二人でたくさん話をして、仲直りができました。
そして、そのとき、女の子の体から綺麗な花が咲きました。今までで1番綺麗な花でした。女の子はその花を折って、お父さんに渡しました。
「ありがとう。もうあなたの花は売らない」
お父さんがそう約束すると、女の子は笑顔になりました。
お父さんはもらったお花を大切に飾って、もう二度と女の子からお花を切ることはありませんでした。


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