「アイとアイザワ」第21話

これまでの「アイとアイザワ」

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アイザワはルミの話を一部始終聞きた後、少し間を置いてから話し始めた。

「安西ルミさんの客であった“堅気では無い男”の願いを聞いて、例のバックを受け取ったと…。しかし、モーリスは人違いでした。その時刻、歌舞伎町を中心に半径20kmで起こった事件をマッピングしてみましたが…。残念ながら、そのバックを本来受け取るはずだった外国人は喫茶リユニオンにたどり着く前に警察に捕まった様です。」

「そう…。」

ルミの瞳を伏せ、静かに答えた。ルミの客だった男がどうなったかは分からない。無事に逃げ切られたかは今となっては分からないし、いずれにしても、きっとルミが男と会う事はもう無いだろう。

愛は、モーリスが抱えているバックを見た。
「モーリス、カバンを開けてみて。この駐車場なら人目も無いし、監視カメラも向いてない。」

「…分かった。その…フラグってやつが何なのか良く分かってねぇが…こいつの中身を改めれば想像つくかもな…どれ。」

モーリスはゆっくりとバックのファスナーを開けた。中には新聞紙が丸めて敷き詰められており、それをどけると…。

「…ジーザス。」

モーリスは、すぐにそれを取り出さなかった。愛を手招きし、覗く様に促した。

「これって…本物なの?アイザワ…。」

「愛、どうやら本物のようですね。スミス&ウェッソン社が1950年に開発した小型回転式拳銃、M36です。実弾が2発装填されています。」

モーリスは恐る恐る、指紋がつかない様に新聞紙で包んで取り出した。

「…ワオ。製造番号が削り取られらぁ…。この銃はアメリカできちんと正規ルートから購入すれば所持する事はできる。しかし、製造番号を削るってのはそれだけで重罪なんだぜ。足がつかねぇ様に細工するってのは、悪さする気満々って事だからよ…。」

「ヤクザさんが誰かを暗殺するために用意したスペシャルエディションって訳?その拳銃がモーリスに渡る事が…巡り巡って戦争を食い止める事に繋がるって事は…。考えられるのは、この銃弾で死ぬはずだった誰かがキーパーソンである可能性か…あるいは日本でおいそれと存在が許されない極悪魔改造拳銃がここにあるって事自体に意味が…?」

「愛、チェーホフの銃という言葉を知っていますね?」アイザワの言葉に愛ははたと顔を上げ、こくりと頷いた。青ざめる愛を見て、モーリスはつられてぞっとする。

「おい、何の話だ?愛。説明しろ!」

「…チェーホフの銃ってのは、小説など脚本を書く際のテクニックの一つよ…。物語に無関係な小道具を登場させてはいけないって考え方ね。フラグって言葉を交えて言うなら、回収されないフラグは物語に出してはいけないよって話。元々は、チェーホフって劇作家が書いた手紙の一節に由来していて…。」

「それは…どんな?」

愛は、改めてモーリスが掴んでいる拳銃に目をやって呟いた。

「…“誰も発砲することを考えもしないのであれば、弾を装填したライフルを舞台上に置いてはいけない。”って…。」

モーリスは生唾を飲み込んだ。

「この銃は…誰かを撃つためにオレ達の手に渡った…って事かよ?」

次の瞬間、アイザワが何かを察知した。

「愛!フラッシュトークの許可を!」

愛は驚き振り返った。アイザワの警告が無ければ目視した所で見逃していただろう。駐車場に停まっている黒い車の背後、何かの影がある。それが僅かに動いた。

「アイザワ!フラッシュトーク!!!」

愛はその影が飛び出してくるのと同時に、奥の手を叩き込む。今回はスマホを3回もフル充電できるしっかりした充電器もある。フラッシュトークも打ち放題だ。予期せぬ発光に、モーリス達も巻き添えになり目が眩んだが、直撃していなければ失神はしないだろう。そう思った瞬間。

「まるっきし…バカの一つ覚えじゃねーかよ。お前は賢いし、アイザワはもっと賢いのになぁ。賢いヤツらって言うのは案外バカだよなぁ。自分が正しいと思っているやり方を失敗するまで続けるからな。」

黒服。NIAIの追手だ。フラッシュトークが効いていない理由は一目で分かった。

「黒服にサングラスっていかにもで嫌なんだけどよ…。マトリックスの悪役を思い出すよな…名前は忘れたけど。てか、フラッシュトークはそもそも相手を気絶させるために作ってねぇから。こんな原始的な方法でも防げるんだよ。」

愛は広尾の挑発的な余裕綽々の台詞を聞くまでも無く、次の一手を考えていた。嫌でも頭を過る。愛達は、この上無い武器をすでに持っているのだから。

「相手は二人…弾は二発…。」愛の唇は微かに震えていた。

「んー?何か言ったか?お前ら…さっきコソコソ喫茶店で受け渡ししてたバック、ありゃ何だ?」

モーリスは霞んだ目をこすりながら叫んだ。

「愛!お前…やめろよ…!?NIAIの末端は自分らが何やらされているかも知らないしがないサラリーマンなんだろ!?ただアイザワを取り戻す様に言われた下っ端だ!他に手はある!ほら…アイザワ!考えろ!別の手を!」

愛はアイザワを手に取り、視線を送った。しかしー。

「愛、撃っちゃおう!」

「アイザワ!?」愛とモーリスの声が重なった。

「何言ってるの!アイザワ!」ルミはやっと視力が回復してきた。さすがに二連続のフラッシュトークは堪える。

「まさか…?」愛は液晶の表示を確認した。

「3G…!」


「効果テキメンだぁな。」広尾は背中に隠してあった見慣れない機器の先端を愛に向けた。

「こいつは電波をカットする機械だよ。ほれ、迷惑通話とかの対策で圏外を作為的に作り出す便利グッツって知らないか?あの延長だと思えばいい。アイザワを知能の根幹であるクラウドに繋げなくする装置って訳だ。オレ達はこれを“傘”と呼んでる…。ま、普通の傘と違って、雨対策ならぬ、雲(クラウド)対策って代物よ。」

「愛!ぼくのアイデアを言います!ぼくたちは銃を持っている!だから撃っちゃおう!」

「アイザワ!うるさい!」

「ははは!なるほどー。バックの中身は銃だったのか。あぶねーな。オレ達が回収して、こっそり警察に預けてやるよ。もちろんNIAIと仲良くしている身内の警察にな。大丈夫、安心しろ。お前らをムショに打ち込ませたりはしねーよ。ただ、研究所に大人しく付いて来てもらうぜ。あっと、言わずもがなだけどよ、出力を最大にすればアイザワを圏外にする事もできた。そうしないのは、バカはお喋りで都合がいいからって理由だ。そして成功。」

広尾と大谷は、じわじわと愛達に近寄ってくる。広尾はモーリスと同じくらいの体格だ。取っ組み合いになったらどっちが勝つだろうか…。問題は大谷。あの巨漢なら愛とルミと花、女3人くらいなら一人で担ぎ上げられそうだ。広尾は身構えるモーリスに向かって牽制する。

「やめとけよ?そこの外国人。オレはこう見えて黒帯だ。分かるか、黒帯。」

「KUROOBI…!」モーリスは、昔ケーブルテレビで見た柔道選手が熊と戦う映像を思い出し、たじろいだ。

「わあああああ!」花の雄叫び。隙をついたつもりだろうが、立ち上がって大声を上げて広尾に突撃するまでに8秒くらいかかった。広尾はビクともしない。ビクともしないが、明らかに困っていた。

「ちょ…おい。やめなさい。やめなさいってば!大谷!愛を捕まえろ!」

逃走を恐れ、拮抗が崩れた。大谷が愛に向かって突進してくる。モーリスは鈍い音と共に吹き飛ばされた。

「アイザワ…!フラッシュー」

大谷に向けて掲げた手が、胴体に弾かれ、アイザワは空中に放り出された。

「アイザワ!!!」

「愛ー。」

アイザワの声は、地面に激突すると同時に途絶えた。


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かっぴー

アイとアイザワ

「左ききのエレン」「アントレース」作者の短編小説です。この小説を原作とした同名の漫画も発売になります。よろしくお願いします。
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