創作は、頭の中にある内が、一番輝いてる。

漫画家のかっぴーです。「左ききのエレン」など描いてます。

たまに「漫画家の仕事漫画を描いて欲しい」と言われるんですが、私もいつか描きたいと思っています。ただ、あれはキッチリ売れた漫画家が描くから重みが出るものなので、まだ10年早いと思っています。

ジャンプ+版の「左ききのエレン」が終わる少し前くらいに、作画のnifuniさんとお茶してる時に「いつかnifuniさんと漫画家の漫画を描きたい!」と言いました。漫画家としてキッチリ売れる事ができたら、改めて御願いしに行こうと思います。

その日のため、という事に限りませんが、漫画を描く上で「これかっ!」と思う発見があったら、忘れないようにメモをするようにしてまして、今日はメモがてら最近気がついた「これかっ!」について書こうと思います。

・0を1にするのは、その日のうちに

漫画に限らず創作は「0→1」に最もカロリーがかかります。私にとっての「1」は「テキストネーム」というもので、要は文字だけの「脚本」です。

この「1」の定義が人によって違うんですが、私は明確に基準があって「他人に見せられる最小限の状態」を「1」としています。わざわざこう定義する理由は、頭の中でいくら面白いアイデアをこねくり回しても、他人にシェアできない状態では、まだ「0」だという戒めです。もちろん、その状態が大事なのは言うまでもありませんが、漫画とは言え仕事なので「見せられる状態」になっていないと「1」では無い。そう考えるようにしました。

また、得てして「創作は、頭の中にある状態が、最も素晴らしい」と思っているので、その素晴らしさを大事に大事に飾って置きたくなるもの。それをしないためにも、まず「1」にする必要がある。形にして見せたい相手は編集者だけではありません。一番見せたい相手は自分自身です。どこまで行っても自分の作品はバイアスがかかって客観的に見にくいものですが、頭の中にある状態よりも、視覚を通して見た方が幾分マシです。「アイデアを(物理的に)見える形にする」これが、私にとって最もカロリーのかかる「0→1」です。

次に、なぜ「その日のうちに」なのか。これは、新連載を始める前に1000ページくらいボツネームを描いた経験がある人は共感してくれると思うのですが、一番最初に描いたネームの勢いだけは、なかなか計算では作れないという事です。

「もっと磨く」という工程は、経験があればいつでもどこでも、それなりの時間で出来ますが、そもそもの「魅力の原石」は、そう頻繁には現れません。私が思うに、その鮮度が高いうちに描くのが大事だなと。

誤解を恐れずに言うなら「15を75にする」のは経験があれば簡単で「0を1にする」のは経験だけでは無く、運とか勢いとか熱量とか、何らかの見えないエネルギーが必要で、それを活かすならば頭に浮かんだその日の内に描く必要があります。

で、今言った事を実現するには「1日で30〜60P分のテキストネームを書く」という「スキル」が必要になってきます。いくらやろうと思っても、慣れていないとテキストネームだろうが時間がかかりますよね。裏を返せば、私が職業作家になれたと思ったのは、これが出来るようになった頃でした。

最近は打合せが終わって「編集者が出版社に電車で帰って自席に着くまで」をイメージして、1時間以内を目標に30〜60Pのテキストネームを書くようにしてます。元々ネームを作るのは早い方でしたが、最近は書いてる量がエゲつないので、1年前と比べて1.5倍速くらいになった気がします。

もう一つ、その日の内に「0→1」をした方がいい理由があります。それは、別の「0→1」が生まれる余白が頭の中に作れるからです。一人暮らしのアパートをイメージしてもらえると良いんですが、まだ形にしていないアイデアが頭の中にあると、それは場所を取ります。もちろん経験によって、1ルームだった容量が4LDKくらいに広くなる事はありますが、いずれにせよなるべく余白を空けておきたい。

ですから、たまに「アイデアが枯渇しないんですか?」と聞かれますが、発想が逆で、早く今寝かしているアイデアを全て出し切って、新しいアイデアが置ける空間を作りたいと思っています。早く出し切らないと空気が循環しない。

最後に、ここまでの話を精神論を交えて総括します。

アイデアも才能も「本当はあるんだよ」と、人目のつかない自室に飾っておいた方が傷付かなくて済みます。人に見せたら大した事無いと言われるかも知れないし、何より自分が自分に対して思ってしまうかも知れない。頭の中は美化されるし補正されるし、それが厄介なんです。でも、私の漫画キャラも「トロフィーを飾るな」と言っていましたが、まさにそれだと思います。何かに固執すると、新しいものが入ってきません。

さっき部屋で例えましたが、冷蔵庫の方がわかりやすかったかも知れません(笑)食材は置いておいてもいつか腐る。ガンガン取り出して料理に使って、どんどん買い出しに行く。それを日常にする。それが料理人のあるべき姿かなと思います。

最後に料理人の話になってしまいましたが、そんな感じで今日は終わります。

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