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ゆめが教えてくれたこと その1

息が詰まりそうな寝室にダブルベッドが寂しげに1つおかれている。
私はそのベッドの上で窮屈さを感じながら外を眺めてうとうとしていた。
今夜は新月なので、星がきれいに見える。

あぁ、瞼がおちて現実と夢の境目がわからなくなってきた。
眠りについたのだろうか。遠くの方で声がしている。

“私たちの声をきいて”

ふと、草花の声が聞こえていたことを思い出した。
小学校低学年頃だっただろうか。
草花に話しかけてはひとりの時間を楽しんでいた。
休み時間は一目散に運動場へ行き、草花とおしゃべりしていた。
授業中はつんできた花を机の引き出しに入れておいて先生の目を盗んで眺めていた。

自分が一人であることは全くもって気にならなかった。
むしろひとりだったことすら気付かずに、草花に夢中だった記憶しかない。
今思えば変わった子供だったと思う。


確かあの日は雨が降っていた。
いつもなら一目散に運動場に行くのに、教室でつまらなくしていた。
いつも教室にいない私が教室にいる。
周りは珍しく思ったのだろう、声をかけられた。

“いつもすぐに外に行ってるけど、何してるの?”

“草や花とおしゃべりしてるの”

一瞬にして空気が凍りついたのがわかった。


次の日、先生に呼ばれた。

“草や花から声は聞こえません。クラスのお友達と遊びなさい。”

この人は宇宙語をしゃべっているのかと思った。
人としゃべればいいってこと?
草花との時間を人と過ごす時間に置き換えるってこと?
昨日話しかけてきたクラスメイトが、化け物でも見るような目でこっちを
見ていたことを思い出した。自分が悪いことをしていたのだと思った。
草花とおしゃべりして遊んでいたのに急に取り上げられてしまった。
混乱した。草花と過ごしていた時間をどうやって埋めたらいいの?


またあの声が聞こえてきた。

“その時間は人では埋められないよ。私たちの声をきいて。”

目頭が熱くなる感覚があって目が覚めた。
窓の外はうすぼんやりと明るくなり、星に代わって太陽が出たそうにうずうずしていた。

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