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私のおみおつけ

『赤いハンカチ』という映画にこの場面は出てくる。
あの浅丘さんの最初の登場シーンだったと思います。
彼女が「私のおみおつけ」と軽快に口走るのです。
彼女はまち工場に自転車通勤する娘で、豆腐売りを呼び止めて、豆腐を買うんです。そして、裕次郎扮する刑事にこうかけるのです「私のおみおつけとっても美味しいんですよ」と。そして娘は勝手口でおみおつけをご馳走するのです。
このわずかなやりとり。彼女が口走る「私のおみおつけ」という言葉の響き。
屈託のない表情、軽やかな声の響き。
「へそまであったまる」と嬉しそうな男の顔。
あの家はどこにあるだろう。あの長い塀。もう横浜にも失われた風景だろう。

ふと、おみおつけと言う人と味噌汁という人の違いを考えていた。
私は、おみおつけ派。なんだかそっちの方がしっくりくる。
それにしても浅丘さんの「私のおみおつけ」は格別だが。
そういえば、おみおつけみたいな女っていなくなった。
あったかくて、へそまであったまるような。
私は、一杯のおみおつけになれたらいいんだろうな。
出汁のきいた、60手前のイイ出汁のでてるやつ。
へそまであったまって、勝手口でそっと振る舞って、おしまい。
そんなおみおつけをちょっと欲しくなる、人は時にあったまりたくなるものだもの。それだけでいい。大した人助けだ。
それ以上はダメよ。




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