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リューベン・オストルンド監督は、お好きですか?

今回は、今年のカンヌ国際映画祭で二度目のパルムドールを受賞したスウェーデン人映画監督、リューベン・オストルンド(Ruben Östlund)について、過去作を振り返りながらご紹介したいと思います。

一度目のパルムドールを受賞した前作『ザ・スクエア 思いやりの聖域』は、現代美術館のキュレーターである主人公クリスティアンが、財布と携帯をすられたことに端を発して、一人の少年にしつこく謝罪を要求される状況に陥ります。クリスティアンは理知的で社交的な人物ですが、プライドが高く、なかなか自分の誤りを認めることができません。

私はオストルンド監督の作品がとても好きですが、手放しでそう公言できるか?と問われたら、少しはばかられるところがあります。というのも、どれも観る人の心をざわつかせるような、あるいは、古傷をえぐるような不快さを持ち合わせているからです。登場人物の滑稽さを笑う時、不甲斐なさにいたたまれない気持ちになる時、不誠実さに怒りを感じる時、自分自身の醜悪さをあぶり出されているような気分にもなります。

長編4作目の前々作『フレンチアルプスで起きたこと』は、スキーリゾートに訪れた幸せな一家を襲う悲喜劇です。テラスで昼食をとっている最中に雪崩が迫ってくるという突然の事態に、父親が妻子を置いて我先にと逃げてしまいます。幸い大事には至らず皆無事だったものの、家族の関係に亀裂が生じ、父親は精神的に追い詰められていきます。ひたすら気まずい空気、取り繕う人間の愚かな様子、どんどん追い込まれていく状況に、見ているこっちが逃げ出したくなります。

『フレンチアルプスで起きたこと』より前の長編作品は、日本で一般公開はしていませんが、2作目の『インボランタリー』と3作目の『プレイ』は、2015年のスウェーデン映画祭で上映されたことがあります。

『プレイ』では、黒人の少年たちが偏見やステレオタイプを利用して、身体的暴力を介さずに白人の子どもたちに対してカツアゲ行為を行います。これはスウェーデンのヨーテボリで実際に起きた恐喝事件が基になっているそうなのですが、ショッピングモールやトラムで、白昼堂々と行われたにもかかわらず、周囲の人々は無反応だったということです。『ザ・スクエア』の時にも監督自身が語っていましたが、オストルンド監督の作品には、傍観者効果や集団心理に焦点をあてた社会学的アプローチが根底にあります。

この作品は2011年の東京国際映画祭で最優秀監督賞に選ばれており、私はその上映時に鑑賞したのですが、来日されたプロデューサーの方とのQ&Aセッションの際に、最後のほうに質問をした人が「ある場面(おそらく終盤のシーンのことだったと思いますが、記憶があいまいですみません)に強い不快感を覚えた。あれはどういう意図なのか」と怒りをあらわにしていたのを覚えています。直近の2作品を鑑賞したり、監督のインタビューを見聞きしたうえで考えれば、観客が抱く不快感も監督の想定内だということが理解できますが、当時は私自身もどう消化したらよいのか戸惑い、ただぽかんとするばかりでした。

最新作『トライアングル・オブ・サッドネス』は、監督初の英語作品です。

予告を見ただけでも、最初のオーディションの場面の滑稽さや、金持ち客と船員のやり取りの気まずさがビシバシと伝わってきます。また、これまでの作品でも階級社会や格差の拡大を鋭く問いてきましたが、本作は豪華客船が遭難し、流れ着いた無人島でヒエラルキーが逆転するところから話が展開します。まさにオストルンド監督の真骨頂が発揮された作品となっているのではないでしょうか。

『トライアングル・オブ・サッドネス』の公開も、もちろんものすごく楽しみにしていますが、次はぜひ女性が主人公の作品を撮ってくれたらうれしいななどと早くも次回作を待ち望み、今後の活躍に大いなる期待を寄せています。

(文責:藤野玲充)

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