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東大寺修二会の声明(国立劇場)を拝聴して

5月20日の土曜日、以前記事でも少し触れた『東大寺修二会しゅにえ声明しょうみょう公演を聴聞するため、東京千代田区にある国立劇場へ赴きました。小雨がちらつくなか会場へ到着すると、すでに開場を待つ沢山の人が長蛇の列を作っていました。本公演の人気の高さが窺えます。

国立劇場を訪れるのは初めてでしたが、正倉院の校倉造を模した外観がとても趣きがあり、さらに規模が大きいので、立派だなぁ!と眺めました。
10月から建て替えが予定されているそうですが、この素敵な建物が見られなくなるのは少し残念な気がします。

よく見ると、入り口の案内も校倉造です
国立劇場(大劇場)

さて、入場してすぐの売店でパンフレットが売られていたので購入し、2階へ向かいます。
さすがに日本の伝統芸能公演の劇場だけあって、建物の中も芸術であふれていました。赤い提灯や、鏑木清方始め大きな日本画がずらりと壁に並び、まるで美術館に来ているかのよう。全て見て回りたかったのですが、残念ながら時間が全く足りなかったので諦めて席につきました。何しろここからがメインですからね!

会場が暗くなり、東大寺別当の橋村公英氏により今回の公演についてのお話が10分ほどありました。その後幕が上がる・・・かと思いきや、スクリーンに映像が映し出されたのです。

なんと、お松明の映像です!

火が灯されたお松明を童子どうじ(という役名の、大人)が担ぎ、それを道あかりに、練行衆れんぎょうしゅう(修二会を勤める僧侶のこと)が二月堂登廊のぼりろうを上っていきます。

ちょうど左下に見えるのが、登廊を上っていくお松明の火です
上のお松明は欄干で火の粉を振り落としているところ

上り終えると、役目を終えたお松明は欄干へ向かい、二月堂に入った練行衆は差懸さしかけ(という履物)で床を荒々しく踏み鳴らしながら内陣へ入っていく。会場に響く二月堂の鐘の音。

と、そこで映像が終了。幕が上がり現れたのは内陣を再現した舞台。
なんて粋な演出!この段階でもう、じ~んときました。

2009年にもこの国立劇場で声明公演がされた様なのでおそらくその時と同じ舞台なのでしょうが、立派な柱と壁に見立てた木組みにより空間が作られ、内陣とその外とを仕切る布の戸帳とちょうや、畳、そして中央には須弥壇しゅみだんが置かれていました。須弥壇の上には小さな御厨子やのりこぼし椿の木、そして灯火。

3色に染められた和紙を使い、練行衆がひとつひとつ作ったお花は
椿の生花に付けられお供えされます

なるほど、内陣はこういう造りになっていたのかと納得しました。
そしていよいよ行法が始まります。

私が拝聴した午前の部は、修二会行法のなかの初夜しょや半夜はんやを、なるべく本来の流れを損なわないように構成されたものでした。その全てが興味深く、どの場面も心に響くものでしたが、その中でも特に印象に残ったいくつかを紹介します。

散華さんげでは練行衆が須弥壇の周りをぐるぐる回りながら声明を唱えますが、この音の並びが最高に心地良く、何度も唱えるので自然と耳に残ります。どこか懐かしい感じの旋律で、グレゴリオ聖歌にも似ているような気がしました。
視覚よりも音に集中したいので、目を閉じ、腕まくりをして(空気の振動を直接感じるため)聴き入っていると、有り難さで体の内側からじんわりと温かくなるのを感じました。

それから宝号ほうごう、これは一番有名かもしれません。私自身も、修二会といえばこの声明がまず頭に浮かびます。
観音菩薩さまのお名前を、『南無観自在菩薩』から始まり『南無観自在』最後には『南無観』と短縮して、節を変え速度を速めながら、念珠をジャッジャッと摺り上げて力強く唱えていきます。

そしてその途中から練行衆一人によって行われる五体投地ごたいとうち。その名のとおり、体を五体板ごたいばんという板に打ち付けて悔過懴悔けかさんげの意志を表現するというものです。聞くからに痛そう・・と想像をしていましたが、実際は想像の上をいく衝撃でした。声明が心地よいので少しうとうとしていたのですが、打ち付ける際のダーンという衝撃音で一気に目が覚めました。

ここでまた心憎い演出が!
五体投地は内陣の外で行われるため、客席からは見えず音だけで始まったのですが、そこからなんと、舞台が回転し始めたのです!
180度くるりと回り、客席の正面での五体投地。
ものすごい迫力と衝撃で、緩衝の布団が敷かれているにしても痛々しく、もうそれくらいいいのでは?と言いたくなるほどでした。

そして一番耳をすませたのは神名帳じんみょうちょうです。

読み上げの前に法螺貝が吹き鳴らされるのですが、この音がまた良き。6つか7つの法螺貝が一斉に吹かれ、高い音低い音みなそれぞれの音程ですが、それが不思議と調和しています。チャクラに1音ずつ届くイメージ。これがもしピアノで同じ音を鳴らしたとしたら、不協和音で不快に感じると思うのですが、自然の音のなせる業ということでしょうか。

神名帳とは、修二会に日本各地の神々を呼んで守護していただく行です。この、仏教の儀式に神を呼ぶというところが、とてもおおらかで古代日本らしくていいなぁと思いました。呼ばれる神さまの数は一万三千七百余柱!多いですね~。

とても速いスピードで神さまの名前を読み上げていくのですが、いくつか聞き取れないか耳を澄ませてみました。金峰、八幡、大峰、竹生島、熊野、那智、しばらくして諏訪も聞こえました!
高めの声で明るく読み上げる神さまの勧請が終わると、急に低く厳かな声に変わり、読み始めるのが御霊神ごりょうじんです。なんと、怖い神さままで呼ぶのです。面白いですね。

修二会の行法は興味が尽きません。
来年以降また修二会に赴き、できることならば局で、より近く声明を拝聴したいと強く思いました。

今回は国立劇場という最高の場所で貴重な経験をすることができ、東大寺や関係者の方々には感謝の気持ちでいっぱいです。
本当にありがとうございました。

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