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この秋にどうしてもしたいこと

わたしの好きな作家さんのひとりに
上田三四二(うえだみよじ)さんがいる
その方が川端康成賞をとった「祝婚」の
書き出しを紹介しよう

旅ごころは風景を新しくする。
新幹線の窓から見える東京の街は、有楽町界隈の見慣れた建物のたたずまいも、新橋を過ぎてひらけてくる浜離宮あたりの眺めも、初めてのように新鮮だ。白い雲が浮かび、光が遍満(へんまん)していた。桜が咲いていた。桜は思わぬ狭い囲いの中にもあった。高架から見下ろす視線はあるところでは街筋の遠くにまで及んで、平遠な眺めの奥の霞にはこころをそそられるものがあった。奥には海があるはずだった

川端康成賞全作品集Ⅱ祝婚より

これは、著者が直腸がんの手術をうけたあと、
久しぶりに奥様と一緒に
従弟の娘さんの結婚式に出席するため
東京から京都へ新幹線で旅をするときの冒頭の文章だ
医者でもあり、歌人でもある著者の文章は
無駄がなく、東京を知らないわたしにも
その光景が目に浮かぶほどの素晴らしい

著者とは全く違う理由だが、
わたしたち夫婦はコロナウイルスのせいで
もう5年以上旅行というものはしていない
高血圧の薬をもらうだけでも
いちいち、県外に行ってないか?
県外の人と会ってないかと聞かれるのだから
高齢者は遠くへは行くな!
と言われているのと同じようなものだ

この春から徐々にコロナに関する規制が緩和され、
ようやくわたしたちも旅に行けるようになった
しかし、夏の暑さと冬の寒さと雨を避けるとなると
10月11月と4月5月くらいしか遠出はできない

夫が7月末で定年退職して
「お互い40年間ごくろうさまでしたこれからもしばらくお願いします」
の旅をする予定だ。京都・大阪1泊2日の旅である

そして文章はこう続く

列車は品川をすぎたところで大きく迂回して風景をひと振りしたあと、一路どこまでも伸びる街並み分けて広い河原のある多摩川に出、軽快な音に川幅を挽き終わると、横浜はもうそこだ。

川端康成文学賞全作品Ⅱ

川端康成賞は
その年にはっぴょうされた短編小説の中で
最高傑作短編に送られるものだ
純文学作家の中でも最高の賞だとわたしは思っている
小説を書きたい人には 
ぜひ手に取っていただきたい一冊です。1とⅡと2冊ある

こういう文章が書きたいと思いやってきましたが、
どうにも才能が遠く及ばない
語彙も、描写力も格式も違う

若い時に読んだものだが
今回の旅にはこの本をもってゆきたいと思っている

一緒に出る機会はめったになかったが、そういう時でも彼は時間が余りさえすれば書斎の続きのように文字の羅列の中に心を静めて取り残された妻の心の内を顧みることはしなかった。顧みたとしても、習慣をあらためるにはあまりにも余裕のない時間のやりくりを、彼は毎日の自分の上に課していた。
『今は毎日が遊びのようなものだ。今は、生きているのが位だ。』
 還暦の年に襲ったおそろしい病気が、生活を根底から変えていた。歳が還るのを待っていたかのように、体が変わり、心が変わった。他人から見えばただの衰えに過ぎないものを病を凌いできたものの受け取り用はまた別であった。かれはかつてない閑暇に身を置いて、それを後ろめたく思う必要のない自分を一方では憐れみながら、そういう暮らしの許されている今の身の上を何者かに向かって感謝した。

川端康成文学賞全作品Ⅱ

この文章は
著者がわたしの年より若い時に書いたのだということがショックだが、
それはそうとして仕方のないことである。

旅というのは
まず計画を立てるときから楽しいものだ
長く運転をするのも疲れる年齢になったので
わたしたちも今回は列車の旅に決めた

ホテルを予約する
切符を買いに駅に行く
バックに着替えや化粧品を詰める
必要な薬を用意する(高齢者限定)
持っていきたい本を考える
スマホの充電器は忘れていないか
それでもいつも何かは忘れてコンビニのお世話になる

1日目は何度行ったか分からないほど好きな三十三間堂に行きたい
午後からは京都競馬場に場所を変え
押し馬の応援をする
今年のわたしの押し馬はリバティーアイランド
牝馬3冠なるか!リバティーのパドックが上手く撮れたらいいな
優勝の化粧布の掛けられた写真が撮れればなお良い。

2日目は娘や孫と一緒に動物園に行くことになっている
動物園は何十年ぶりだろう
わたしは本当は今治にはない猫カフェに行きたいのだが
それはひとまず抑えよう

その日まで
どうかコロナにもインフルエンザにもかかりませんように
と嫌だったワクチンも打った
あとは15日を待つばかりだ
どうか晴天に恵まれることを祈るばかりだ
これこそ普段の行いであろうと心得ている


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