M-1グランプリ2023準々決勝直前。注目すべきは有名どころより、知名度が低い無名のグループ

 11月20日(大阪)、21日(東京)、22日(東京)の3日に分けて行われるM-1グランプリ2023準々決勝。昨年に続いて史上最多を更新したエントリー総数8540組のうち、現時点(準々決勝)まで勝ち残っているのは123組。本気で決勝を目指すグループにとっては、その本番というか、本当の勝負はここから。そう言っても差し支えない。準々決勝の戦いぶりを見れば、この先どのくらい行けそうかある程度占うことができるとは、前回の準々決勝の配信を見て思った率直な感想になる。

 準々決勝の次、決勝よりもある意味レベルが高いとも言われる準決勝が行われるのは12月7日。そして敗者復活戦及び決勝が行われるのは12月24日。この文章を書いている1ヶ月後には、また新たな漫才王者が誕生するというわけだ。
 
 「早いな」とはこちらの正直な思いだ。少なくとも筆者はM-1というご馳走をいま目の前に出されても、いまひとつ食欲は湧いてこない状態にある。その理由はわかりやすい。先月行われたキングオブコンド2023決勝が、あまりにも面白かったからだ。その余韻がいまなお僕のお腹にはまだ残っている。そうしたなかで「さあ次はM-1だよ」と勧められて困惑した状態にある。

 M-1決勝まであと1ヶ月。それまでにキングオブコントで満たされたこちらのお腹の消化具合はどうなっているのか。たぶん大丈夫だとは思うが、それはそのまま今回のM-1の見どころにもなる。M-1はキングオブコントに勝てるのか。その出来栄え対決も、今回僕が目を凝らしたいポイントのひとつになる。

 大会直後にもこの欄で記しているが、キングオブコント2023決勝は滅茶苦茶面白かった。優勝したサルゴリラも凄かったが、それよりもこちらの印象に強く残っているのは、カゲヤマとニッポンの社長の2組になる。ファーストステージのトップバッター(カゲヤマ)と2番目(ニッポンの社長)という不利な出番順ながら、両者ともに圧巻のネタを披露しファイナルステージに進出。優勝こそサルゴリラに譲ったが、この準優勝と3位の2組も、それこそ優勝に匹敵するような活躍ぶりだったと僕は思う。さらには上記のコンビに負けないくらいウケまくっていたジグザグジギーが敗退するなど、過去に類を見ないほどレベルの高い戦いだった。
 ちなみにそんなキングオブコンド2023決勝を戦ったグループのなかには、これから行われるM-1にも参加しているグループが多く目につく。現時点で残っているのは先述のカゲヤマ、ニッポンの社長、ジグザグジギー、それに隣人を加えた計4組。先月のキングオブコント決勝で活躍した勢いのある彼らの調子も、この準々決勝で注目したいところだ。

 現在公式サイトで公開されている各グループの3回戦の戦いぶり(ネタ動画)を見る限り、あくまでも知名度の高いグループに関してだが、まだ本気を出していないというか、100%ではないというのが率直な感想になる。ネタ時間が3分ということもあるが、今年はこのコンビが優勝しそうだ!というような確信を抱けるようなネタは特段見当たらない。全てのネタを見たわけではないのでハッキリとは言えないが、常連のグループにとってこの3回戦はいわば肩慣らしという感じだろう。

 繰り返すが、重要なのは次の準々決勝だ。ネタ時間はこれ以降、決勝と同じ4分となる。そしてこの準々決勝で披露したネタを、準決勝、決勝と、そのまま使い通すグループは実は結構いる。前回で言えば、男性ブランコ、ヨネダ2000、ダイヤモンド、さや香、ロングコートダディ、真空ジェシカがそうだった。この6組は前回の準々決勝、準決勝、そして決勝(1本目)と、3つの舞台で全て同じネタを使って勝ち上がっていった。また優勝したウエストランドが決勝で披露した「あるなしクイズ」のネタも準々決勝と準決勝でそれぞれ披露したもので、決勝ではその2本の合わせ技で見事王者に輝いた。

 何を隠そう、前回の準々決勝でウエストランドのネタを見た時、筆者はどこかピンと来るものを感じた。さすがに優勝までは予想できなかったが、決勝に行きそうな匂いはそれこそふんだんに漂っていた。「ーー今回の優勝候補の本命は、前回準優勝のオズワルド。これはまあ当然として、ではその対抗は誰なのかという視点に立つと、浮上するのはこのウエストランドになるーー」とは、前回の準々決勝直後にこの欄で記したこちらの原稿の一部だが、それだけに今回もこの舞台からは目が離せない。準々決勝で良いネタを見せたグループがそのまま決勝まで行く可能性はかなり高い。前回の決勝上位3組(ウエストランド、さや香、ロングコートダディ)がまさにそれに該当した。さや香とロングコートダディの2組は決勝の2本目で息切れしたが、少なくとも1本目は文句なしだった。両者が最終決戦でウエストランドに捲られた理由は、単純に1本目が良すぎたからに他ならない。もし準々決勝と準決勝で同じネタではなく違う2本のネタで勝ち上がっていれば、もしかしたら決勝の結果は違っていたかもしれない。

 前回決勝を戦ったファイナリスト10組のうち、優勝したウエストランドを除いた9組が今回も大会にエントリーしている。そしてそのいずれもがこの準々決勝まではしっかりと勝ち残っている。準々決勝を戦う全123組のうち、今回準決勝まで行けるのは30組。例年に比べて4組ほど枠は増えたが、それなりに厳しいことに変わりはない。前回のファイナリスト、そして直近のキングオブコントファイナリストなど、気になるグループは多いが、今回の出場者の一覧を見て1番に思うのは、やはりというか、全体的に地味な顔ぶれだということだ。

 スター不在。前回大会、そしてキングオブコント2023もそうだが、誰もが知るような全国クラスの芸人は今回もそう多くは見当たらない。ここまで勝ち残っているなかで最大の大物は、ムーディ勝山と「サブマごり押し」という即席ユニットを組んで参加している小籔千豊になるが、これはあくまでも例外だ。もちろん彼らがどこまで行くのかは気になるところだが、記念受験的というか、そこまで本気で決勝を狙っているようなグループには見えてこない。

 小籔はあくまでも例外。それ以外の通常のグループの中でいちばんの大物は、やはりオズワルドだろうか。現在4年連続で決勝の舞台を踏んでいる言わずと知れた実力派コンビだが、今回も僕は彼らが優勝する姿を想像することはできないでいる。前回オズワルドは準決勝で敗退。その決勝進出は敗者復活戦によるもので、こう言ってはなんだが、その勝ち上がり方もあまりよくはなかった。敗者復活戦でオズワルドより面白く見えたのは、視聴者投票で惜しくも2位に終わった令和ロマンだったとは、こちらの率直な感想になる。オズワルドはいわば「人気」で選ばれたという感じで、決勝でも結果は振るわず7位に沈んでいる。

 つまらなくなったというより、賞レースを戦う芸人としての旬が過ぎたという感じだった。これはオズワルドに限らず、複数回以上の決勝を戦う全てのファイナリストにつきまとう課題になる。オズワルドを筆頭に今回そうした立場にあるのが、さや香、ロングコートダディ、インディアンス、ゆにばーす、アキナなどになる。悪く言えば見飽きたというか、決勝に進出してもそこまで新鮮味を感じない顔ぶれだ。決勝に進出することが難しいことに加え、たとえ無事決勝に進出しても、少なくとも優勝しそうには見えてこないグループになる。

 マヂカルラブリー、錦鯉、ウエストランド。過去3大会の王者は、いずれも2度目の決勝進出での優勝だった。初出場ではなかったが、かと言って、そこまで消耗された状態というわけでもなかった。また最終決戦に進出したグループも同様に、ここ数年は決勝経験組が上位を占めていることがわかる。2022年(さや香、ロングコートダディ)、2021年(オズワルド、インディアンス)、2020年(おいでやすこが、見取り図)。おいでやすこがはM-1では決勝初出場だったが、2人(おいでやす小田、こがけん)ともR-1ぐらんぷりでの決勝進出経験があったので、実質的にはファイナリスト経験者と呼んでもいいだろう。というわけで決勝初出場で最終決戦まで行ったのは、2019年のミルクボーイ、ぺこぱまで遡るということになる。はたして今回も決勝経験組が上位を占めるのか、それとも新しいグループが割って入ってくるのか。その可能性を感じるグループを見つけることも、今回の予選を見る筆者のお楽しみのひとつになる。

 ここまでまだ名前を挙げていない有名どころは他にもまだまだいる。モグライダー、アインシュタイン、すゑひろがりず、ミキ、ビスケットブラザーズ、滝音、天才ピアニスト、オダウエダ、カベポスター……。そうしたなかで個人的にいまイチオシというか、活躍を期待したいグループをあえて1組挙げるならば、吉本興業(大阪)に所属する女性コンビ、ハイツ友の会になる。このコンビのネタはかなりいい。僕が見た3回戦のネタ動画の中では最も印象に残ったグループ。サンパチマイクの前から一歩も動かない、喋りのみで笑いを起こす王道の漫才。ひと言でまとめればそんな感じになるが、舞台を動き回る漫才が増えている昨今では逆に新鮮というか、光って見えることは確かだ。

 M-1で女性コンビと言えば、前回ハリセンボン以来13年ぶりの女性コンビファイナリストとなったヨネダ2000の名前が真っ先にくるが、こちらは言わばランジャタイ的というか、大雑把に括れば異端派に属する。しゃべくり漫才ではない、動き回って笑いを生み出すタイプだ。ハイツ友の会とはまさに正反対と言っていい。前回女性コンビで準決勝に進出したのはヨネダ2000とハイツ友の会の2組だが、決勝に進出して名を売ったのはヨネダ2000で、ハイツ友の会はいまだ知る人ぞ知る域にとどまっている。

 間やタイミング、そして緊張と緩和で笑いを取るハイツ友の会のほうが個人的には好みになるが、3回戦で見せたネタはまさにそうしたセンスの良さを感じさせる面白さ抜群のネタだった。お笑い的なセンスに加え、いい意味での毒や憎たらしさも兼ね備えている。そろそろ決勝に進出してもおかしくないとは率直な感想だ。ハイツ友の会が今回どこまで行くか、個人的に注目したい。

 しつこいようだが、今回も突出したスターはいない。もちろん数年後にはここからブレイク芸人が何組も出てくるには違いないが、少なくとも現時点においては顔ぶれは地味だ。だが、そのほうが逆に面白くなりそうなことは最近の賞レースが証明している。できれば新鮮な顔ぶれが多いほうが期待値は上がる。注目すべきは有名どころより、知名度が低い無名のグループ。準々決勝に目を凝らしたい。

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