ノルウェーに勝利も余裕はなし。結果と内容、重要なのはどちらか

 ノルウェー代表と聞いて真っ先に思い浮かぶ選手と言えば、マンチェスター・シティに所属しているアーリング・ブラウト・ハーランドだろう。昨シーズン、プレミアリーグとチャンピオンズリーグ(CL)の両方で得点王に輝いた、現在23歳の大型ストライカー。近い将来の有力なバロンドール候補の1人だ。そんなハーランドの次に名前が挙がるノルウェー人選手もプレミアリーグに所属している選手、現在アーセナルで主将を務めるマルティン・ウーデゴールになる。こちらは現在24歳だが、今後もさらに成長する可能性を秘めた中盤選手。今シーズンのCLでどのようなプレーを見せるのか、注目したい選手の1人だ。

 そんなハーランドやウーデゴールといった有力な選手を擁するノルウェー代表だが、少なくともその代表チームの成績はパッとしない。最後にW杯に出場したのは1998年のフランス大会まで遡る。最高成績はそのフランス大会で残したベスト16だ。さらに言えば、欧州選手権ことEURO本大会への出場もわずかに一度(2000年)しかない。ノルウェーが来年ドイツで行われるEUROに出場できるかどうかはまだわからないが、少なくとも現時点では、かれこれ20年以上、メジャー大会への出場は叶わずにいる。欧州の中堅国よりもう少し落ちる国。ランク的に言えばこの辺りろうか。

 一方、女子のサッカーノルウェー代表は、そんな低迷を続ける男子とは異なり、W杯優勝(1995年)やオリンピック金メダル(2000年)など、過去に華々しい実績を残している。最新のFIFAランキングでも12位につけるなど、ノルウェーは女子の世界では歴とした強豪の部類に入る。サッカー界においては、男子よりもその立ち位置は遥かに上だ。そうした点を踏まえると、日本とノルウェーは似たもの同士の対戦とも言えた。

 女子W杯。決勝トーナメント1回戦、日本対ノルウェー。筆者が試合前に見たブックメーカーの倍率は1対2ぐらいの関係だったので、3-1で日本の勝利という試合結果は、ほぼブックメーカーの予想通りと言ってもいただろう。しかし内容に目を凝らせば、日本とノルウェーにそこまで大きな差は存在しなかった。ほぼ互角。むしろ決定的なチャンスの数ではノルウェーのほうが上回っていたほどだ。日本に運があった試合。この試合をざっくりと言えばそうなる。

 前半15分、日本の先制点は相手のオウンゴールだった。だが、宮澤ひなたがゴール前に入れたボールにノルウェーのDFが触らなければ、おそらくあれは入っていなかったと思われる。そのままスルーしていればおそらく何もなかったであろう、いわゆる単純な放り込みだった。しかも時間は前半早々だっただけに、日本にとってはまさにこれ以上ないラッキーな得点だった。また決勝点となった清水梨沙のゴールも、結果的にそのアシストとなったのは相手の致命的なパスミスによるもので、日本が高い位置からプレスを掛け続けて作ったチャンスではない。ゴール前に詰めて行ったら、たまたま目の前にボールが来た。まさにそんな感じだった。

 この試合で最も正当性の高かったゴールは、前半20分にノルウェーが挙げたスコアを1-1とした同点ゴール。少なくとも僕はそう考える。引いて守る相手に対しては、サイドを使え。右サイド(日本の左サイド)深くから折り返したセンタリングを中央にいた選手がヘディングで決めたシュートだが、これはまさしくお手本のようなサイド攻撃だった。

 ノルウェー選手がマイナスの折り返しを送ったその時、日本の選手たちは、ボールとゴール前に詰めてくる相手選手の動き、その両方を同時に視界に捉えることができなかった。守備の人数は十分揃っていたにもかかわらず、いとも簡単にボールを捉えられ奪われたゴール。これこそが本来日本が目指すべき形ではないかとは、筆者の率直な意見になる。同点となったことよりも、日本がやりたいプレーを相手にやられたということのほうが、少なくとも僕的にはショッキングな出来事だった。

 ノルウェーがこうしたサイド攻撃をもっと徹底していれば、そのチャンスはもっと多く作れたと思う。だが、試合の大半の時間を日本と似たような(5バック気味の)守備的な布陣で戦ってしまった。スペインに大勝した日本を恐れたのかどうかよくわからないが、引いて構えるノルウェーは日本にとって怖い存在ではなくなっていた。

 後半、時間が深まるにつれ、1点リードされているノルウェーは同点ゴールを目指して徐々に積極的に前に出てきた。そして実際、決定的な惜しいチャンスを2度ほど作っている。だが、そこで疑問が浮んだ。なぜ最初から引かずに、普通に戦わなかったのか、と。最初からノルウェーにガンガン攻めてこられたほうが、日本にとっては圧倒的に嫌だったはずだ。もっと言えば、試合自体もさらにより面白いものになったはず。リードされた終盤、反撃を試みるノルウェーのサッカーを見ていると思わずそう言いたくなった。

 とは言え、日本のサッカーも決して褒められたものではなかった。1点目と2点目は滅多に起こらない相手のミスによるもので、ダメ押しとなった3点目は、同点を狙って前掛かりになっていた相手の裏を突いたカウンターだった。サイドの深い位置に侵入して相手を崩すシーンは、この試合でもほぼゼロ。だが、それはある意味では当然の話になる。日本の布陣は前回のこの欄でも述べた通り、3バックと言いながら簡単に5バックになる3-4-2-1だ。この布陣の場合、サイドに位置する自軍の選手は両サイドのウイングバックただ一人。ノルウェー戦で言えば右の清水と左の遠藤純になるが、このウイングバックが高いに進出しない限り、ん 得点の可能性の高いサイド攻撃は決まらない。だが繰り返すが、日本のウイングバックは多くの時間、最終ラインで5バックを形成している。仮にそこから攻め上がったとしても、サイドでその攻め上がりをサポートする選手がいないので、(ウイングバックが)単独での突破を余儀なくされるわけだ。もちろんサポートがない分、その突破の確率は低い。日本が両サイドの深い位置にボールを運べない理由、縦に早くボールを運ぼうとするカウンター系のサッカーに陥る理由は、採用している布陣の特性を踏まえれば自然の成り行きだ。

 これまでそれなりにサッカーの試合を観戦してきた人がこの試合(スペイン戦もそうだが)を観れば、日本が守備的なサッカーを演じていることは一目瞭然になる。ある程度サッカーに詳しい人にとっては初歩的な話。まさにイロハのイだ。それは相手にボールを持たせることを肯定する、守備的なサッカー以外の何ものでもない。

 スペイン戦同様、このノルウェー戦でも守備的なサッカーを披露した池田太監督率いるなでしこジャパンだが、この試合ではそれ以外にも心配になる采配が目についた。それは、最大5人まで可能なメンバー交代を1人しか行わなかったことだ。後半27分にセンターフォワードの田中美南を植木理子に代えたのみ。それ以降、ひとりも選手を交代をさせることなく、試合終了の笛を聞いた。

 前回(4年前)のフランス大会でオランダに敗れベスト16に終わっていた日本にとって、この決勝トーナメント1回戦は何がなんでも突破しておきたかった。その気持ちは十分理解できる。実際、主将の熊谷紗希も「準々決勝(ベスト8)くらいからじゃないと観てもらえないと思う」と、大会前のインタビューで述べている。だがそれは、勝てば官軍的な考え、結果至上主義以外の何ものでもない。

 サッカーはたとえ試合に敗れても観る者を感動させることができる競技。負けても何かを残すことができる競技だ。それこそが世界でサッカーがダントツの人気を誇る大きな理由だと言ってもいい。そのサッカー独自の特性を踏まえれば、結果至上主義はサッカーとの相性が良くない考え方。内容を度外視した考え方だと言ってもいい。

 なでしこジャパン及び日本の女子サッカーへの注目度は、たしかにある時期をピークに現在は右肩下がりの傾向にあるのかもしれない。だが、そうした状況を変えようと、内容的には決して良くないサッカーをしてでも勝とうするその考え方は、今後のサッカーの普及や発展を踏まえたときにはたしてどうなのか。新しいファンは増えるのか。それよりも可能な限りよいサッカー(攻撃的サッカー)を目指すほうが、長い目で見れば今後のためになる。日本はもちろん、世界のサッカーファンをも満足させることができる。そちらの方が遥かに格好良い。少なくとも僕はそう思う。

 男子のカタールW杯の時にも述べたかもしれないが、W杯を観ているのは日本人だけではない。日本戦は日本人はもちろんだが、それ以上の世界中のサッカーファンが目にする試合でもあるのだ。そのことを忘れるべきではない。つまらないサッカーをすれば、それはそのまま日本サッカーのイメージとして世界中のサッカーファンの記憶に残ることになる。守備的で退屈なサッカーを演じれば、その印象が以降の4年間、人々の頭にインプットされ続けるわけだ。

 今大会では5バックで守りを固めながらカウンターで得点を狙うサッカーが主戦術となっている日本。それは監督の趣味や趣向の問題なので、ここではこれ以上言及することは避けるが、選手交代に関しては話は別だ。このノルウェー戦で1人しか選手を代えられなかった監督の姿を見て、ベンチに座る選手たちははたしてどう思っただろうか。接戦だったことは事実だが、多くの選手は自分への信頼度は高くないと、少なからずモチベーションを下げた可能性は否めない。

 試合終了の笛が吹かれた直後、中継画面ではおそらく投入直前であっただろう、ユニフォーム姿になっていた背番号20、浜野まいかが映し出されていた。グループリーグの3試合で、フィールドプレーヤーでは唯一出場機会のなかった選手である。その浜野をなぜもっと早く投入しなかったのか、理解に苦しむ。ダメ押しとなる3点目が決まったのは後半36分。この時点で日本の勝利は9割以上動かぬものとなった。その直後に選手交代を行なってれば、アディショナルタイムも含め、少なくとも10分は浜野を含む2,3人に出場機会を与えることはできたはずだ。

 しつこいようだが、浜野は今大会まだ1分たりとも出場していない。言い換えれば、その使い方の目処が全く立っていない。にもかかわらず、重要なこの先の試合ではたして彼女に出場機会が与えられるだろうか。おそらく3位決定戦がせいぜいだろう。そのためには次の準々決勝で勝利を収める必要があるが、ノルウェー戦のスタメンを見る限り、次戦のスウェーデン戦のスタメンもすでにある程度見えた状況にある。

 スウェーデン戦はノルウェー戦とほぼ同じスタメン。これまでの選手起用を見ていると、思わずそう断言したくなる。逆にそれ以外のスタメンが見えない。ノルウェー戦で選手を1人しか代えられなかった池田監督だが、逆に言えば、ノルウェー戦に出場した選手はそれだけ信頼度が高い、代えたくなかったメンバーだということは明らかだ。もっと言えば、ノルウェー戦のスタメンは初戦のザンビア戦とほぼ同じだ。3バックの右が石川璃音から高橋はなに変わったのみで、他の10人は顔ぶれは全く同じ。この時点でチームはレギュラーとサブではっきりと区別されている。そう言わざるを得ない。

 グループリーグの3試合でA(ザンビア戦)、B(コスタリカ戦)、C(スペイン戦)と選手を入れ替えながら臨んだ池田監督。そんな池田監督が決勝トーナメント1回戦でスタメンに並べたのはAだった。そして、そのAのメンバーを試合中ほとんど変えないまま4試合目(ノルウェー戦)を戦った。これはこの先もAで行くことがほぼ確定したと言っていい。次のスウェーデン戦のスタメンをノルウェー戦から4,5人も入れ替えそうな匂いは全くしないのだ。

 ここまで順調そうに見えるなでしこジャパンだが、そのサッカーの見栄えは決してよくない。そして、ノルウェー戦ではメンバーを交代させる余裕すら見られなかった。このままではこの先、手詰まりになる可能性大。昨日行われたアメリカ対スウェーデンを見る限り、スウェーデンはノルウェーのように引いて構えることはないと見る。オーソドックス4バックの攻撃的なサッカーで向かってくるはず。日本の劣勢を予想するが、はたしてそこで流れを変える選手交代をうまく決めることができるか。そして、ノルウェー戦からスタメンを何人変えることができるか。その変更が多いほど、優勝の可能性は上がる。逆にノルウェー戦と全く同じスタメンで臨めば、優勝の可能性は大きく減る。

 結果には運が作用することもあるが、内容は自分たち次第。選手は今回それなりに粒揃いなのだから、いまよりもっといいサッカーはできる。W杯は新しいサッカーファンを増やすチャンス。なでしこジャパンには勝てばオッケー的なサッカーは似合わない。後ろに引いて守るサッカーではなく、世界中のサッカーファンから賞賛されるよいサッカーを追求してほしいとはこちらの願いである。

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