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いつもの配達先で

配達サポートのアルバイトをやっていた時。

荷物の配達と集荷をするのが、私の仕事。午前中と午後に3時間ずつ。社員の方が運転する車で配達場所まで移動して、台車に載せられるだけ、荷物を積む。載りきらない荷物は、ポイントとなるビルのエレベーター前に降ろしておいてもらう。私は配達を済ませ、台車を空にしながら、そのポイントに急いで向かう。それを繰り返すので、仕事中はほぼ走っている。車に乗れるのは、その作業を始める前と後くらい。時間に追われているから、全力で走る。台車を押しながら。

私が担当していた地区は、オフィス街。1つ1つの荷物は小さいけど、大きなビルが多かったので、配達件数が多く、それに伴って配達個数も多くなった。

大きなビルの配達は割と楽だった。件数は多いけど、移動距離は短いし、クーラーも効いている。辛かったのは小さな雑居ビル。廊下の空調は効きが悪く、中にいる時間も短いので、汗がひく暇もない。

おまけにビルの谷間での仕事だから、アスファルトからの輻射熱もある。

私は汗かきで、ほんの少し走っただけでも、汗をかく。夏のカンカン照りの日だったり、雨の日でカッパを着て仕事をしなければならない日は、水でも被ったかのように、制服のポロシャツは汗でビショビショに濡れていた。

ある夏の暑い日。

その日も、午前着指定の荷物を配達していた。少し大きめの雑居ビル2階へ配達する荷物があった。お昼の12時までは、ほぼ全力疾走で走り続けるので、その日もすでに、汗だく。

お客様の荷物を自分の汗で濡らさないように気を付けながら、できるだけ汗を拭いて、お客様のもとへ。

「〇〇便でーす」

インターホンがない会社も多かったから、ノックをして、大きな声で呼びかける。その会社は小さな会社だった。入るとパーテーションなどはなく、全体が見渡せる内装にしてあった。奥の方から、にこやかな表情をしたおじさんが出てくる。

「サインね。ここでいいのかな?」とか言いつつ、配達票にサインをしてくれるのが、いつもの流れ。

でもその日は、少し違ってた。おじさんは手に、新品のタオルを持っていた。そして私に、

「いつもおおきに。これ使ってや」

とそのタオルをくれた。その会社の名前が入ったタオルで、その会社のお客様へ配っているものみたい。

そして、他の社員さんに合図。そしたらその社員さんが、冷たい麦茶を持ってきてくれた。おじさんは、

「暑かったやろ、これ飲み!」

その後の仕事はいつもより、軽快に走れた気がした。



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