見出し画像

スピ嫌いだった私がスピ女に成り上がったワケ

スピってる人ってどう思います?
「スピる」とは、「スピリチュアルにハマる」の略語だ。

「スピリチュアル」とは占いや霊的なものなど、目には見えない力や神秘的な世界のことを指し、理屈では説明できない科学的な分野やパワースポットなど不思議なもの全般を示す言葉として使われているらしい。

その「スピリチュアル」なものにハマることを「スピる」と呼んでおり、あまり良い思いは込められていない。

以前働いていた会社でのできごとだ。

私は大学卒業後、約5年間小さな商社の営業部で働いていた。

営業事務の先輩に、仕入れ先から受け取った納品書を手渡そうとした。

その時、先輩の手首にブレスレットがぶら下がっているのが見えた。

ピンク、透明、黒、様々な色の石がきらめいている。

「うわー! きれいなブレスレットですね!」

「あ、これ? 有名なスピリチュアルの先生に作ってもらってん。
『気』を入れてくれてるからめっちゃええわ」

と興奮気味に話していた。

胡散臭すぎる。石はただの石だ。

しかし、石をつけていたのは先輩だけではない。

よく見ると、他の女性社員も手首に石のブレスレットをつけていた。

色合いやデザイン的におしゃれとして付けているようではない。

みんな手元に「いい気」をまとっているのだ。

仲の良い同い年の社員と飲みに行った際、
私はこの大いなる発見について話した。

「ブレスレットねえ……」

この女、人生10周目だ。

物事を達観するクセがある。

ブラックIT企業、リクルートの営業を経て今の会社に転職し、かなりハードモードな人生を経験してきた強者だ。

「女ってある程度年齢を重ねると、スピリチュアルなものにハマってくるもんなんですよ。そういう石とか。あと風水とか占いとかパワースポット巡りとか。前世のカルマとかそういうことを話し出したり……。何かにすがりつきたくなるんです」

ぽつりと呟いた。

そういうものなのだろうか。

人生って自分で意思決定して、歩んでいくものではないのだろうか。運命は自分で作っていくものだ。家族や親しい友人の言葉でもなく、訳の分からない占い師の言葉を信じるなんて。宇宙からパワーもらう? 弱ったメンタルにつけ入る胡散臭い霊感商法だろう。そして騙された本人は、周りの友達に壺とか聖なる水とか売り出すのだろう。

私は絶対にこんなスピってるおばさんになんかなりたくない。


その約5年後の現在、私はインスタグラムで『ゲッターズ飯田の毎日占い/名言』をフォローし、毎日欠かさずチェックしている。

どうでも良いかもしれないが、私は銀のカメレオン座だ。

先日、高校から仲の良い友達にゲッターズ飯田のLINE公式アカウントがある事を教えてもらい、時速100kmの速さでLINE友達に追加した。朝7時と夕方6時にゲッターズ飯田からありがたい名言を頂戴している。


運気や風水といった存在を認めるようになったのは、恐らく新型コロナウィルスの脅威によって、世界中が大混乱におちいった頃からだったと思う。

韓国人彼氏との結婚準備のため、韓国で同居している中でこの大混乱が起きた。

わけの分からないウィルスが韓国でも広がり、私はまだ感染が拡大していなかった日本にとりあえず帰国することにした。

ところが、私の日本帰国とほぼ同じ時期に、韓国政府が全面的に韓国国内への入国の制限をすると発表し、私は日本で足止めを食らうことになった。


結婚が無期限延期となり、お先真っ暗な時期がきたのだ。


それまでの私は「やる気と努力さえあれば99%のことは解決できる!」という少年ジャンプの主人公さながらの爽やかな考えの持ち主だったが、この時に「自分の力ではどうにもできないことが世の中にはある」という無気力感を習得し、少し瞳の濁った大人へと成長した。

「世の中には、自分の力では抗う事の出来ない運命的なものがある」と実感した私は、できるだけ悪い運気の波に乗らないよう、最善を尽くすようになった。些細なことではあるが、「水回りはめちゃくちゃ綺麗にする」とか「玄関は綺麗な状態にしておく。整理整頓」などといったことだ。全て運気の流れをよくするための大切な習慣らしい。
私調べだが。

日常に風水的なものを取り入れ始めた私は、確固とした「スピ女」へと変貌していた。


そしてコロナ下の混乱が落ち着き始めた頃、私は約3年越しに韓国の土地を踏みしめた。

3年ぶりの私は、久しぶりに旦那と義家族に会い、再会の感動を噛みしめた。

韓国での新生活が始まってから数か月後、義母の経営する料理屋さんに顔を出した。

義母は何かを思い出した表情で

「そうそう! あんたに渡すもんあんねん! お寺に行って占ってもらってな……」

と喋りながら、スタッフルームへと消えていった。


ちなみに韓国では、なじみのお寺のお坊さんや、『ムダン』と呼ばれる祈祷師に占ってもらうことが多く、義母のように他の皆さんも割と頻繁に占ってもらっている。めざましテレビの「今日の占い」を見る感覚だ。決して怪しい行為ではない。


スタッフルームから足早に義母が戻ってきた。

手渡されたものを見てみると、それはピンク色の石のブレスレットだった。

中央には蓮の花が形どられた銀色のパーツがはめ込まれている。

「日曜日にお寺に行って色々占ってもらってな、それで、これ! もろてん! そこのお寺のお坊さんの『気』が入ったブレスレットやから着けとき!」

と言いながら、義母みずから私の手首にブレスレットをけてくれた。


昔の私なら「やばい! 胡散臭いもん渡された! 怖い!」と思っていたかもしれないが、今はそんなことは思わない。


少し義母の考えていることが分かったのだ。

私が少しでも多く、幸せに健康に楽しく過ごせるようにという気持ちを込めてこのブレスレットを渡してくれたのだ。

その気持ちが、ただ嬉しかった。


私自身スピリチュアルなものの存在を受け入れるようになってから「なぜ人は目に見えない偉大なる力を信じようとするのか」という謎が解けた気がする。


それはきっと、生きている間にあまりにも色んなことを経験してしまうからではないのだろうか。


何が私にこんな辛い試練を与えようとするのか。
何で私はこの人に出会ったのだろうか。
何が私をこんなところまで連れて来たのか。
私はこれからどうなっていくんだろうか。
運命ってあるんだろうか。


皆、とても気になるのだ。

会社の先輩、義母、そして私自身も、自分や大切な人の行く末を心配し、これから先の人生が幸せ溢れるようにと祈っていたのだろう。

でも、最後にちょっと言いたいのは、石のブレスレットに関してだ。もうちょっとおしゃれな感じで何とかしてはくれないだろうか。

シック代表の『CHANEL』あたりで「気の入りブレスレット」を作ってはくれないだろうか。

そうなると誰の「気」が入るのだろうか。

パリジェンヌの「気」だろうか。


知らんけど。


この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?