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現代人の「生き方」としての「JAGUARさん」について

【JAGUARさんが星に帰っていった】
千葉県では、今でもJAGUARといえば、あのクルマのことではなく「ロッカー」で有名な「JAGUARさん」のことだ。ここで、重要なのは「JAGUAR」ではなく「JAGUARさん」というところである。ということはともかく、そのJAGUARさんが「星に帰還した」とのニュースが入った。所属事務所がホームページで発表した。2021年10月4日。そして、6日には帰還中と思われるJAGUARさんのtwitterが更新されて、更に「帰還の謎」は深まった。JAGUARさんは本業が洋服直しチェーン店の経営者とのことで、そこで成した財を、自分のスタジオや、地方テレビ局の枠の買取などに使った。千葉県市川市が本拠で、年齢その他の詳細は不詳、とのことだ。私は特に面識があるわけではないが、遠くから見ていて、その存在の面白さにはかなり惹かれるものがあった。JAGUARさんは「星に帰還」とのことだが、本人の言い置いた言辞によってその人間界での真相は非公表、とのことだ。

【JAGUARさんを軸に「仕事をする人の生き方」の変化を見る】
JAGUARさんが「デビュー」した頃は、YouTubeもなく、インターネットも無かった。会社の経営などでは、少し先の世の中の「見通し」などを持って経営を行う必要がある。現在だけを見て「良し」とはできない。従業員のこれからの生活も考えなければならない。従業員だって人間だから家庭もあれば、遊び場もある。そんな経営を「現実の靴を履きながら、理想の帽子を被って歩む」と、よく言う。そして、JAGUARさんはその「経営」をしながら、「JAGUARさん」を演じていた。二足のわらじ、とよく言う。JAGUARさんが「JAGUARさん」を始めた時代と現代は違う。現代はかつてのように産業が大きな力を持っていた、という時代ではなくなってきている。「この企業なら100年以上は大丈夫だろう」と言われるような企業もかなり減った。そして、ここ20年くらいで、仕事をする人たちも多様になった。以前なら「サラリーマン」をして、その後定年になって、老後を過ごし、働く人は一生を終えた。今はそういう人がどんどん減っていて「所属」よりも「実績」という時代になった。「組織」の意味もかつては「共同体」だったものが、今は「事業体」である。事業をするために集うところになり、個人的生活まで会社で抱え込むことはできないし、しない、という世の中になった。一生同じ会社にいる、ということも「普通」ではなくなった。この変化が起きている間、JAGUARさんは中小企業の経営者として生き、一方では「JAGUARさん」という架空のキャラクターで世間に知られる存在となった。それが理想的であるのかどうかはわからないが、この器用な一人の人間の持つ、二足のわらじの「ギャップ」が楽しかった。本人も楽しんでいただろう。

【おそらく、だけどJAGUARさんは】
おそらく、だけど「JAGUARさんという存在」そのものに、世の中が変わってきたのかもしれない。だからそのキャラクターが周りとの違いを楽しめた時代ではなくなった。みんながみんな「他人との違い」を求める時代に変わった。ひっそりと社会の片隅で営々と努力して生活を維持するなんてのは、流行らなくなった。仕事がないときはYouTuberでもやってみるか、てなもんである。誰もが「何らかの者」になる入り口までは行ける。サラリーマンであることも、役所のリストラも当たり前にある世の中だ。それまでの生き方が安定を意味しないなら、好きなことをやっていいじゃないか。そんな雰囲気が世界に溢れ出している。周りを見渡せば「JAGUARさんだらけ」。いずれにしても、その真相が何であれ、JAGUARさんはこんな日本から「帰還」した。

【「楽しい仕事」ばかりじゃない】
折も折り、品川駅のデジタルサイネージの広告で「今日の仕事は、楽しみですか。」という文言が流れ、それにSNSで批判が殺到した、というニュースが流れていた。「ビジネス」とは言うが、今日本には様々なビジネスがあり、楽しいと思えるものもあれば、そうではなく、今日一日を給料のために耐え忍んで仕事をする、って言うのもある。非正規でいつクビになるかわからない仕事もあれば、正規社員だって、会社がいつまで同じでいるかさえわからない。やりたくないことでも耐え忍んでやる、ってことももちろんあるはずだ。品川駅という「公共の場」では、そこでどんな人がこの広告を見るかわからない。批判を受けることがわかっていてこの広告を出したのではないのは、批判があってすぐに引っ込めたのでわかる。「思いも寄らない批判を多く受けた」のだろう、と推察するしかない。広告を見る側のリアクションに想像が及ばなかったのだろうな、ということなんだろうな。つまり今の日本では「労働」そのものが、一律でわかりやすいものではなくなっている。辛い、と每日呟きながら仕事をしている人も、仕事以外で自己を発散する場所を持とうと思えばなんとかなることが多くなった。「二足のわらじ」は積極的に履け、って言われる世の中になった。JAGUARさん、あなたは今の「普通」になってしまった。

【「千葉のローカルタレント」という冠】
ところで「JAGUARさん」には、いつまでも「千葉のローカルタレント」という呼称がついて回っている。「ローカル」は許容するにしても「ロッカー」ではなく「タレント」である。しかし、楽しかっただろうな、地球は、と思うばかりだ。そして、地球が楽しくなくなったから、彼は「帰還」したのじゃないか。そう、勝手に私は思っている。

無事の帰還を祈る。

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