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私という人①


私は昔から見知らぬ人に話しかけられたり、道を尋ねられることがよくある。150センチの小柄な身長と特に特徴のない顔。ちょっと小太りの無害そうな人。たぶんそんなふうに見られている。

ある時仕事用の白衣(ちなみに医療従事者ではない)を着たままスーパーの前を通りかかると、「あの〜、なんか指に刺さっとるんだが、抜いてくれんかね?」といきなり横から見知らぬおじいさんに声をかけられ、ふとその指を見ると、確かに黒い棘が刺さっている。「なんか抜けそう!」と変な自信が湧いてきて、私はおじいさんの指からエイやっと棘を抜くことに成功した。「ありがとうございます!ありがとうございます!」とお礼を言われて、「いえいえ。大したことじゃ…」と颯爽とスーパーへ入った。いいことしたなあ。

さらに別のある日、地元の道の駅で旦那と買い物をしようとレジに並んでいると、また横から「奥さん!奥さん!」と呼びかける声が。何?とそちらを向くと、またまた見知らぬおじいさんが2人。レジの横に「ついでに買って行きなよ!」と言わんばかりに置いてある超巨大な梨を指差して、「奥さん!これ、なしかね?これ、なしかね?」と聞く。

すぐに意味を理解できなかった。超巨大ではあるが、それは梨にしか見えない。「なし…ですねえ」なぜ、目の前にいるレジの人に聞かないのだ?私は客である。呆気に取られていると、「きしょくわるか〜!!という感想と共にその梨をレジのテーブルに置いた。「え⁉︎買うの⁉︎気持ち悪いのに⁉︎」私は心の中で呟いた。おじいさんってよくわからない。(いっしょくたにしてごめんなさい)

そしてさらに月日は流れ、私は日用雑貨のお店の前にある、園芸コーナーで花の苗を見ていた。少し余裕ができたので、久しぶりに花でも植えてみようと思ったのだ。

花の苗もなかなか高いものなので、じっくりと品定めしていたら、「奥さん!奥さん!」と呼ぶ声が。「え?こんなところで何用?」と恐る恐る向くと、ここにきてまた見知らぬおじいさんがそこにいた。


「奥さん!奥さんは花が大好きなんだねえ❗️」と言う。え?なに?花を見る私に一目惚れして告白?見渡すと、花が好きで買いに来ていそうな奥さんだらけだ!なぜ私が選ばれたのだろう?すると、「花の種いらんかね?」と唐突に言われた。え?なぜこんなところで?しかし「ただ」という言葉に弱い私。ふらふらと知らないおじいさんについて、駐車場に停めてある白い軽トラのところまで行ってしまった。

「今が植えどきなんよ」おじいさんが見せてくれたのは、無造作に根元から刈り取られて山と積まれたカラッカラに枯れた何かの花だった。「なんの花ですか?」と聞くも、「☆☆☆☆だ。」と何やら難しい横文字の名前を早口で言った。たぶん覚えきれん。聞き返すのは諦めた。で、どこに種が?と思ったのも束の間、おじいさんはその荷台に落ちている籾殻のようなもの(茎も混じっている)をかき集めてビニール袋にゴッソリと詰めてくれた。「はい。芽が出たら間引いてね」「ありがとうございます」これが種?どこが種?何も聞けないまま、そのよくわからない物体を持ち帰った。

なんの花かもわからない。しかし、見知らぬおじいさんが親切でくれたもの。よし、植えてみようじゃないか。「今が植えどき」という言葉を信じてその籾殻ごと鉢植えの土に薪き、その上から軽く土をかけてみた。籾殻を砕くと中から種が出てくるのではとは思ったが、めんどくさい。ジャーっと水をかけて1週間ほど様子を見たがうんともすんとも芽は出ない。

そして数ヶ月が過ぎ、忘れた頃にその日はきた。いつものようにベランダに洗濯物を出そうと窓を開けた時、謎の種を蒔いた鉢植えにホントに米粒よりも小さな小さな芽がビッシリと出ていた。「おおっ!芽だ!ホントに芽が出た!」私はおじいさんに言われた通り、芽を間引いて待った。芽はだんだん大きくなり、伸びていき、ある日いくつかの蕾をつけた。「おおっ、ホントに花の種だった!」ここまできて私はおじいさんの言葉を半分ほどしか信じていなかった。どこまで疑り深いんだ。そして翌日ついに、謎の花は開いた。「おおっ!なんか見たことある。けど名前がわからない!」謎の種からは鮮やかなピンク色の可憐な花が咲いた。

不思議なおじいさん(勝手に思っている)からもらった不思議な種は数ヶ月経って本当に花を咲かせた。気の短い私にしては、気長に育てたものだ。ピンク色に混じって一株だけ白い花が咲いたのもなんだか不思議な気持ちになった。後からその花の名前は、リビングストンデイジーということがわかった。やはり、あの時の私が覚えられるはずはなかった。名前ながっ。

振り返ってみると、今まで老若男女色んな人に偶然話しかけられたと思うけれど、印象に残っていて事細かく覚えているのは、不思議なおじいさんたちとの会話だ。私は女性だし、まだわりと若かったし、1番遠くて何を思っているのかわからないのは老齢の男性だったと思う。不思議で謎な存在の面白かわいいおじいさんたち。リビングストンデイジーの芽は今年も元気に出てきている。夢じゃなかったんだなあ、と思う。

☆ちなみに、トップの写真はそのおじいさんからもらった種から実際に咲いたリビングストンデイジーの写真です。




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