ピエロ

3章
犬鳴島は、呪われた島と言われている。古くは江戸初期、四国を中心に存在していた「犬神憑き」の家系の者を、当時高松を治めていた松平某がこの島に隔離したのが名の由来らしい。故郷に帰れない悲しみの鳴き声が島から聞こえたという。
さて、私は高田とともに犬鳴島を訪れた。島唯一の港・犬鳴港には六人の若者が待っていた。
「彼等が、ピエロに狙われた人たちかしら」
歳は私より少し若い位の、恐らく30代。高田は手にしたステッキをくるくる回している。高田のステッキについては変わった事件が関与しているが、物語とは関係ないので省く。
彼等の内の一人が私を見て、
「ミステリー作家の虹浦光一先生ですね?」
「ああ、虹浦先生か。うちのサークルでも話題になりましたよ。駄作しか書けないミステリー作家ってことで。そろそろ別な仕事探したらいかがです?」
私は不遜な者たちだと思いながらも、そこは大人の対応で
「探そうにも、就職難の時代だからね。君たち、いい仕事があったら教えてよ」
彼等は私が挑発に乗らないためか、軽く舌打ちして私たちから離れていった。
「フフッ、確かにあれじゃあ誰に恨まれていても可笑しくないな。どうにも彼等を守れそうもない」
高田は何処か寂しく、また楽しそうとも思える奇妙な表情で言った。私たちは、例のJWGの新たな手紙に書かれていた目的地・白雷邸(はくらいてい)を目指し、島の内部へ入っていった。
白雷邸は駒場公園にある前田邸のような洋館で、ぐるりを鬱蒼と森が囲んでいるためか、ある意味殺人の舞台には持ってこいの様相だった。
館の異様さに戸惑っていると、中から執事らしき老人が出てきた。
「虹浦様に高田様、もう皆様お集まりです。早く中へ」
「これは驚き桃の木山椒の木って奴だ。どうやら僕が此処に来ることも折り込み済みだったようだよ」
執事の名前は諸熊寿二(もろくま・としじ)と言った。私たちは諸熊に案内され、白雷邸の客室に通された。
「午後6時より晩餐会がありますので、応接間に来て下さい」
6時迄は2時間ある。私は仮眠をとることにした。高田は相変わらず古書をリュックに詰め込んで持ってきていた。リュックから出したのは浜尾四郎『鉄鎖殺人事件』だった。

6時5分前になり、私たちは応接間に行った。果たして異様な光景だった。主の座る位置にいたのはピエロである。ピエロが徐に話し始める。「役者が揃いました。皆様のご想像の通り、あなた方を此処に呼んだのは、宝探しの為ではありません。ある謎を解いてほしいのです。諸熊さん、例の写真を」
「はい」
諸熊は私たちに写真を配った。写真に写っていたのは頭から血を流して倒れている中年男だった。場所は
「本屋?」私が写真に写っていた本を見て言った。
その時だった。「茶番だ‼」
港で私に別な仕事を探すように忠告した男が写真をびりびりに破って言った。しかしその声は何故か震えていた。他の5人も何故か動揺している。一体何故?彼等は写真の人物を知っているのか?
ピエロはフフッと笑い、
「茶番と仰られますか?では仕方がありませんね。諸熊さん、お願いします」
諸熊はピエロの仮面を外した。ピエロはマスクだったのた!マスクの下にあったのは…。

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