4章

「ま、牧田」
茶番と言った男のみならず、私たちもその光景に驚き、言うべき言葉が見つからなかった。
仮面を外されたピエロはさらに言葉を続ける。
『さて、飯野浩介、田宮梨華、花村貴一、澤市優子、萩生田和哉、十村信治。君たちは牧田邦明を知っているだろう。君たちが彼に何をしたか?此処に罪を認めたまえ、命のある内に…』
名指しされた6人は恐怖に震えていた。茶番と言った男・飯野は恐る恐る牧田のところへ行き、頬に手をやった。
「何だ、ただのマネキンだよ。ビビることないよ。茶番だ茶番だ」
「そ、そうね、牧田君の悪戯よ」
「悪戯も何も、牧田は死んだよ。新聞にも出ている」
私がそう言うと、飯野は私を馬鹿にしたように
「やっぱり虹浦先生は鈍いですな。牧田はフェイクを新聞社に流したんだよ。現にS新聞しかその事件は報じていない筈だ。つまり、牧田は自分の知り合いのS新聞の記者に自らの死を記事に書くように言った」
「なるほど、それは面白い。君たちは牧田さんを知っているからそういう推理ができるというわけだ。じゃあ、教えてくれよ、君たちが彼に何をしたかを」
高田はハイエナのような冷酷な眼差しで飯野を見据え問うた。飯野は高田の視線に耐えられずに目を背け
「あなた方には、かかり合いのないことです。つまり、話す理由もないし義務もない」
6人は怯えたように震えながら、部屋を出た。
「ふむ、何やらとんでもないことをしたようだな。他人様に言えないようなことを」
そしてピエロの犬鳴島における殺人は、この日の夜に起きてしまう。

コッコッとドアをノックする音がする。男は眠い目を擦りながら
「なんだよ、こんな夜更けによ?」
来客のピエロはフフッと笑ったかのように見えた。
「あ、あんた…」
ピエロは男の顔面を殴り、昏倒させた。

翌朝、朝食の時間になっても荻生田が食堂に現れなかった。私達は昨日のことから不安を覚え、荻生田の部屋に行った。鍵が掛かっており、執事の諸熊がスペアキーで開けた。中には荻生田は居らず、ベッドは綺麗なままだ。枕元にはA4程のサイズの白紙に殴り書きで
「罪人の処刑
展示室にて」
とあった。
「諸熊さん、展示室ってどこ?」
「こちらでございます」
諸熊に連れられ、私達は展示室に向かった。
「しかし、展示室とは。一体何を展示しているのかしら」
「遠藤平吉様は、世界中の処刑道具に魅力を感じておられたようで。マニアというかなんというか」
「ほほう、手紙の通りじゃないか」
高田は愛用の棕櫚のステッキをくるくる回して、何処かしらこの状況を楽しんでいるようにみえる。
高田が連れて来たのは、白雷邸の雰囲気に似合わぬ、重厚な鉄の扉の前だった。「この奥が展示室でございます」
私はその重い扉を引いた。
確かに、断首台や絞首台、様々な処刑道具が揃えられている。
「しかし、何処にいるんだ?」
その時だった。突如音楽が流れて来、ピエロの哄笑が始まった。
「この音楽は何だ、オペラのようだが」
飯野が首をかしげて言った。
「大卒といえども、この程度なんだな」
高田がせせら笑いを浮かべて言う。
「『復讐の炎は地獄のように我が心に燃え』、所謂夜の女王のアリアだよ」
私は高田の皮肉めいた言い方を彼らしいと思い、少しだけ笑った。しかし、ピエロが笑う対象を見るや、笑いは凍りついた。
「鉄の処女、か」
私は高田と共に、その悪魔の処刑具の扉を開いた。



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