ピエロ

第2章
〈オハヨウ!高名なミステリー作家・虹浦光一先生。君の頭脳に挑戦したい。いや、君の頭脳ならこの程度の宝探しなぞ、児戯に等しいかな?香川県の犬鳴島にある村上海賊の宝物を是非とも見つけていただきたい。実は幾人かが宝探しゲームに名乗りをあげている。しかし、彼等では見つけられないのではないかと思い、君に依頼するのだ。
そして、事実この宝探しゲームは、恐るべき何かが起きそうでならないのだ。君はその「何か」を防ぎ、宝を手にしてほしい。宝探しゲームの時期は追って知らせる。

JWG〉
高田に会って三日後にこの手紙が私の元に届けられた。 JWG、一体何を表すのか。
「差出人が、JWGなんだろう?簡単じゃないか。ジョン・ウェイン・ゲイシー、殺人ピエロだ」
事も無げに高田が言った。電話越しだったが、えらく詰まらなそうな様子が犇々と伝わる。普段の彼ならここからミステリー作家の想像力を小馬鹿にした話が延々続けられるのだが、今日はどうしたわけか続けられない。気持ち悪い沈黙が流れる。
「犬鳴島について調べてみたんだが、村上海賊の宝物が眠る云々の話は皆無だったよ。ただ、数年前にある金持ちが島をまるごと買ったらしい。その金持ちが」
「ジョン・ウェイン・ゲイシー?」
「ジョークか?面白くないな。遠藤平吉という名前だそうだ」
「あれ、何処かで聞いたことが」
「怪人二十面相の本名だよ。その名前が初めて登場した回が「サーカスの怪人」、ピエロに関わりのある名前だ」
「犯人かな」
「決めつけたくないが、おおよそその通りだろう」
「だが、もし犯人が殺害する人たちを島に招待するとして、村上海賊の宝物探しを餌にしているとしたら、彼等はそれに乗るだろうか?」
「村上海賊云々は、君を呼ぶためだけの餌だと思う。犯人は彼等を拉致している可能性も大いにある。まあ、人を犬鳴島に招待する手は数多あろうよ。もし彼等に後ろめたい何かがあれば、尚更招待しやすかろう」
「後ろめたい何か、か」
高田はフフッと笑い、
「ま、これは僕の勘だ。ジョン・ウェイン・ゲイシーや遠藤平吉の名前を出し、ピエロの人形を犯行現場に残しているわけだ。かなり綿密な事件が考えられる。行くなら覚悟をしておきたまえ」
「そうだな」
事実、小説のタネがなくなって、困っていたタイミングだ。乗らない手はない。宝探しも立派なミステリーだ。現にポーの「黄金虫」も宝探しが関わる推理小説だし、そんな古い物を持ち出すまでもなく、横溝正史の『八ツ墓村』がある。そのような名作が生まれるやもしれぬ。しかし、私は知らなかった。犬鳴島に蠢く陰謀を。

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