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母の蘭

雨の降る日
息子がやって来た
話しがしたいと

前を向いて歩こうとしている息子

母の大事にしていた蘭の花が今年も一輪咲いていた
母と二人で「来年も花が咲く」といっていた蘭の花

本当は二輪だったけど

お母さん、ちゃんと咲いたよ
見ているよね


わたしは過去ばかりをふりかえる
母との思い出に浸っている
何をどうしたらいいの
現実を見るのがこわい

こわいから前を向けない

足踏みを繰り返す

そんなのさ
気にしなくていいんだよ
表に出すか出さないか
人それぞれ違うから

重いこころが離れない
母が旅立ってから
ズシンと来てる
どうやっても 
ピタリと張りついて
離れない
いつまで経っても

これがみんなの言う
かなしみなのか
苦しみなのか

もう会えない、もう会えない

本当はわたしには見えないだけで 
いつもそばにいるという

花が咲き、時は流れてゆくけれど
わたしの時間は止まったまま
かなしい、かなしい物語

主人公はわたし 

観客は蘭の花
母が残した一輪の蘭の花


#創作大賞2023

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