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むかしむかしの物語り

母の実家のすぐそばに浜がある

夏になると海水浴場になるその場所は人がいっぱいやって来る
夏休み
わたしも母の実家に行く

わたしは酒屋の配達について行き
伯母の仕事中
ひとりで海に行く

波打ち際をちゃぷちゃぷする

波の引いたその間
どろどろになった砂を手で掬う

そんなことを詩にかいた
あれは小学三年生

伯母に見せたら
「ノリかなの感性は普通と違う、面白いことを書いとるわ」

伯母はすぐさま母に伝える

母は伯母とは違い
ただ、ふぅ~んと言っただけ

母がこの世を旅立つ少し前
昔話をいっぱいした
その時に母はわたしの作った詩のことも思い出す

「伯母ちゃんは驚いとったよ、でもあれはどこかで見たものを真似ただけだと思ってた」

「それ違うから、わたしの感じたことを書いただけ
誰かの真似なんかしてないよ」

あの時の詩の言葉はしっかり覚えていないけれど

「海の砂はどろどろ、べたべた」と小学生が普通では思いつかない表現をしていたはず

ずっとずっと娘の才能を見抜けない
母だけど

母が好き
今もまだ母がいないと
生きている意味が見いだせない
さみしいよ
かなしいよ
せつないよ
つらいよ
そんな言葉を自分の内で繰り返す

無口になった
心のなかに澱を溜めて
生きている

寒くなる冬の入り口に
翼をもらっていなくなる
まもなく一年

もうあのときの無邪気な自分に戻れない

今は昔のもの語り

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