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なぜ近所の老舗蕎麦屋が自称漫画家と組むことになったのか。

(このノートは、前回の投稿漫画「ソババカ〜小進庵物語〜」が生まれるまでについて書いています)

 さて、私、のり漫と蕎麦屋の企画がなぜはじまったのか。
遡ること5月。私はマンガ家を目指し一念発起して仕事を辞めた。半年間は創作活動に専念する!と、無職生活がスタートしたのである。

何かやりたい

 そんなとき、私が住む東京の深川地区で「フカガワヒトトナリ」というイベントが開催予定であるとききつける。説明会に参加。聞くに、深川地区の街歩きイベントであり、深川に縁があれば、企画参加も自由に可能であるという。説明会後、参加者の一人が蔵元であり、日本酒の試飲会をひらいてくれた。美味しい酒を飲んで気をよくし、へべれけで帰った私は夫と合流。「飲み足りない」とわめきながらクラフトビールの店に向かったものの、定休日で空振り。仕方なくビールとつまみをマックスバリュで買い込み、夜の木場公園へ向かったのであった。

 ベンチに座り、木々の上に浮かぶ高層マンションを眺めながらビールをあけ、乾杯。飲みながら、聞いてきたことを夫に話す。「何かイベントができるチャンスらしい…」と。何かをやりたい。マンガ家として何かを発表したい。そう思うものの、マンガ家を名乗りだしたばかりの自分だけでは実力不足であり、楽しんでもらえる催しができる自信は正直なかった。夫も同じことを考えているのか黙っていた。そして、しばらくして「どこか組めるところはないのかな…」と、夫。それを聞いて私は小さく、しかし力強く言った、「…そばこしなら。」

 ”そばこし”というのは 蕎麦処 小進庵(こしんあん)の略で、近所の蕎麦屋である。私たちが勝手に略称で呼んでいた。その店とはInstagramで繋がっていたのであるが、店内をリニューアルしたり、新メニュー展開など活発な様子で、「一緒に面白いことができそう!」そう二人で確信したのである。

 さっそくこの話の提案を兼ねて小進庵に蕎麦を食べに行くことになった。夫は鴨汁せいろ、私は天ざる蕎麦を美味しくすすったあと、客入りが緩んだのを見計らい、店主に切り出した。
「あの…このイベント、一緒にやりませんか!?」
すると、
「いいですね!!」「いろいろやっちゃっていいと思ってるんです!!」
「なんでもやっちゃいますよ僕は!!」
なんとも歯切れのいい返事が返ってきた。
かくして、蕎麦処 小進庵とのプロジェクトが、スタートしたのである。

公式キャラクター誕生

 果たして何をやろうか。漫画を描きたいというのは決まっていたのだが、
せっかくお店という会場があるのだから展示もしたい。
では、写真と絵を合わせて「のり漫」のキャラクターが街のあちこちに出没する様子を展示するのはどうだろう、との案が出た。

だが、どうもしっくりこない。「のり漫」が街を駆け巡ったところで、誰が嬉しいのか?冷静に考えると嬉しいのは私だけではないか、と思った。夫と二人してウ〜ンウ〜ンと唸り続け、私はいつものように畳に寝転び、ため息をついた。そして、
「蕎麦じゃねえか…?」
蕎麦屋で展示をやるのだ。やっぱり蕎麦が主役でないと…!
この意見に夫もすぐに賛同しさっそく「蕎麦のキャラクター」のデザインに取りかかった。
それと同時に仮説を立て夫はとうとうと主張をはじめた。
「ザルにのった蕎麦はいわば、仮死状態。蕎麦つゆにつけられ、すすられる瞬間に蘇るのではないか…?そう、これは言うなれば”ソバ・アライブ”という現象である。」と。
「そして勢いよくソバ・アライブした蕎麦が深川の街を飛び回っていく…」
そんなことを呟きながら一編の詩を作った。

 蕎麦キャラをデザインするには実際の様子を観察することが必要だと夫が主張し、翌日には大量の蕎麦を茹で、互いに蕎麦をすする姿を何枚もカメラに納めていた。そして夫の描いた原画と、写真を元に私がキャラクターの絵を描いた。

 第一回目のミーティング。小進庵の営業終了が21時、片付けもひと段落ついた22時15分から話し合いが開始された。私たち夫婦が恐る恐る、蕎麦キャラと詩を見せながら展示イメージを伝える。すると、すぐに店主から提案が。「このキャラ、新そばにしてはどうですか?」。
 店主によるとイベント予定日の11月頭はちょうど、”新そば”が出る時期であり、蕎麦が一年で一番美味しく食べられるという。さらに、その蕎麦は淡い若草色をしているとのこと。「この部分を若草色にして”新そばくん”ですよ!そして、私も限定メニューを作ります、その日に新蕎麦を解禁して!」

こうして「新そばくん」が誕生したのである!
                    
店主からのアイデアをもらい、私たち夫婦はこのイベントが成功に向かっている、そう確信しながら帰路に着いた。深夜0時過ぎのことであった。

 翌日になり考えた。ソバ・アライブした蕎麦が勢いあまって空に飛びたつ。このテーマでまとまりを見せたかのように思えたが、私と夫はある点に引っかかった。飛び立ってしまうということは、蕎麦自身は食べられたくないという気持ちなのだろうか?蕎麦の気持ちはわからない…。しかしきっと食べられたいと思っているはずだ、そう思いたかった。美味しく打たれたのだから。再度二人して考えあぐねるものの、これという考えが浮かばす、とりあえず私から先に風呂に入ることになった。ふう、風呂はなんて気持ちがいいのだ。そして風呂上がり、習慣にしているストレッチを終え、明かりを落とし、すべての音も消した部屋で瞑想に入る。(これを我が家では、”フィ〜タイム”と呼んでいる。)しばらくして私は、

「新そばくんは、蕎麦を食べて元気になった人から飛び出すのだ!!!」

そう、叫んでいた。カラダが温められ血のめぐりがよくなり、リラックスした状態というのは、ときにフッとアイデアが降ってくる、不思議な時間である。こうして、キャラクターの背景も決定したのだった。

 小進庵で蕎麦を食べ、元気になった人から、「新そばくん」が飛び出す。このイメージを伝えるには、食べに来てくれているお客さんと新そばくんの写真がほしい!と思った。ただお客さんの写真に新そばくんの絵を描くのでは、あまりにもとってつけたような印象になってしまう。「ぬいぐるみだ!!」そう思った。実体としての新そばくんを作り、一緒にお客さんと写真を撮ってもらうのだ。幸いヌイチク(手芸のこと)は昔から好きである。こうしちゃいられない、と新宿のオカダヤまで走った。

こうして作ったものがこれである。

 丸い目の下の部分に、蕎麦を縫い付けるのには苦労した。地味で伝わりにくい話ではあるが、言うだけ言わせて欲しい。

 なかば勝手につくったキャラクターではあったが、店主に認められ、めでたく公式キャラクターに昇格したのであった。

ゲリラ撮影へ

 次は新そばくんぬいぐるみを使い、ゲリラ撮影である。お客さんに声をかけ、新そばくんと写真を撮ってもらうのだ。新そばくんは長い棒の先端にテグスで吊るし、飛んでいるように見せる仕掛けを準備した。棒を操るのは私、撮影は夫と分担を決め、店に入った。ゲリラといってももちろん店主との共犯であり、厨房での調理の合間にフロアに出てきては、お客さん一人一人に撮影のお願いをしていただいた。私たち夫婦が急に声をかけたらさぞ怪しまれてしまっただろう、クッション役をしてくれた店主に感謝したい。

 そしてはじまった撮影は、しかし混迷を極めた。なぜかというと、新そばくんのコントロールが難しくテグスに釣られた新そばくんがクルクル回転して前を向いてくれない。棒も2メートル近く長さがあるので操作しにくく、お客さんの顔や蕎麦に触りそうになってしまう。そして夫も物撮りはよくしているものの、人物を撮る経験は少なく苦戦しているようだった。快く撮影を受けてくださったお客さんたちに本当に感謝いたします。子供連れの家族同士、出前がなくなってもどうしても食べたいとこられたご高齢の方、お洒落なマダムのお二人、蕎麦とお酒を楽しむご夫婦。撮影を通じて様々な世代に愛される小進庵を実感したのであった。

早朝取材

 店内展示でもう1つ伝えたかったのが、調理の様子である。どのお店もそうであるように、お客さんが見えるものは、出来上がって配膳された料理である。私たちはその裏側を知り、伝えたいと思った。夫は写真、私は漫画という手段を用いて。早朝7時前にうかがい、出汁をとる、蕎麦を打つといった様子を間近でせて頂いた。さながら、大人の社会見学である。



丁寧な出汁の取り方、そば粉が蕎麦に変わっていく様子などを拝見して、一杯の蕎麦ができる尊さを感じ、私は漫画でこのことを表現するんだ!!と強く思った。

 次は、漫画だ。小進庵は創業111年を迎えるのだが、「昔ながらの」、とか「古き良き」という言葉にはハマりきらない店で、何かこう「やるぞ!!」という意気込みを感じていた。打ち合わせの端々でも、店主のこのような姿勢を感じており、その理由を確かめたかったし、漫画に描いてみたかった。聞きたいことをまとめ、夜の営業終了後にうかがって、話をきいた。この内容については漫画を読んでいただければと思います。

 毎回、話し合いを終える頃には、深夜0時をゆうにまわっていた。しかし、店主大森さんの生き方に触れ、私たち夫婦は夜遅いにもかかわらず眠くなるどころか気分が高揚していた。二人で、「やるぞ」「やりたいことをやるぞ」そう言いながらいつも、帰路に着いたものだった・・・

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このように作られていった、蕎麦屋と漫画家とその夫によるイベントがあります!

11/10(土)11(日) 11:00〜15:00、17:00〜20:30
蕎麦処 小進庵にて(東京都江東区三好4丁目8−3)

創業111周年記念冊子(前の投稿のマンガ、他コンテンツあり)をお渡しします!
2日間の限定、味の変わる鴨汁せいろを用意
店内展示もあります

お蕎麦をすすりにぜひどうぞ。

蕎麦処 小進庵(こしんあん)
2017年にリニューアルした4代続く深川(清澄白河)の老舗蕎麦屋
純鴨汁せいろ生穴子天ざるが名物で、期間限定で食べられる様々なメニューも魅力。最近では山形牛A5ランクを使用した「黒毛和牛の極せいろ」など、型にはまらない美味しさを提供している。

この漫画について書きました

読んでいただきありがとうございます!    のり漫


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