_旅とわたし2

22歳の冬 ロンドンでみつけた、僕だけの旅。(「#旅とわたし」企画に寄せて)

「ひとり」の楽しさを決定的に覚えてしまったのは、22歳のロンドンだ。

「だって今行かなくちゃ、きっと一生後悔する。」そう自分に言い聞かせながら、チケットカウンターに座る22歳の僕。
例えるなら、友達に無理やり拉致られ、ノリと勢いで並んでしまったジェットコースターの順番待ちの気分だ。

もっとも、今回そんな友達はいない。強いて言えばそれは、「何か学生時代じゃないとできないことを・・」と見栄を張ったもう一人の自分。
初めての海外一人旅を思い立ったのは、卒業を間近に控えた大学4年生の冬だった。

大学に入ってから人生で初めて海外に行ったのだけど、それは帰国子女の友人のアメリカ里帰りにお邪魔するというもの。
その時は完全に連れまわしてもらったので、自分一人の力で海外に行く、というのは当時の僕にとってかなりのチャレンジだった。

そもそも国内旅行だってそんなに行くわけではないし、ましてや一人旅自体したことがない。
今思えばどんな文脈で「思い立った」のか記憶がないのだが、まさに吉日と言わんばかりに、その日中にはチケットを申し込んでいた。
時間が経って冷静になれば、きっとヘタレしまうだろうというのもわかっていた。

子供の頃からずっと行ってみたかった街があった。それが、ロンドン。

ハリーポッターやシャーロックホームズが好きで、もともと興味のある街だったのだけど、一番は大英博物館に行ってみたかった。

中学で初めて世界史を教えてくれた先生の授業が面白くて、ピラミッドは実はロケットの先っちょで、地球が滅亡する日には地下から本体がゴゴゴゴと飛び出していくというバカみたいな話から
スフィンクスは「ピラミッドの守り神」と言われているけど実はピラミッドの文明より遥か前に作られた可能性があって、今でも何のために存在するのかわからない、というドキドキする話まで色々してくれた。

そのエジプトの古代文字を解読する手がかりとなった、ロゼッタストーンという石板が展示されているというのが大英博物館。

大英博物館のすごさは、イギリスが大英帝国時代に世界中から宝物をかき集めた結果、人類が積み重ねてきた「世界の歴史」そのものが集まっているだけでなく
それが無料で入れて、大人から子供まで市民に開かれているということが、どれだけイギリスという国の文化の成熟に貢献しているか、ということを先生は熱く語ってくれた。
僕はそれ以来、「死ぬまでに一度は大英博物館に行って、本物のロゼッタストーンを見てみたい」と話していたのである。

そんな大英博物館だが、あまりの広さと展示の多さに「本気で見れば優に丸一日はかかる」と言われている場所。
というわけで、博物館から徒歩20分ほどの市内のホテルを教えてもらい、そこに泊まることにした。
これが大正解で、結果としてあまりに好きすぎて、5泊7日の滞在の中、僕はほぼ毎日ここに通い詰めることになる。
初日に開館から閉館までどっぷり入り浸り、それでも足りなくて、観光地に出かける前の朝の時間に立ち寄ったり
遅くまで開いている金曜日の夜は、ちょっと違った大人な雰囲気を味わったり。

来るまでは結構念入りに、何日目にはココとココを見て・・とプランを立てていたのだけれど、途中から何だかどうでも良くなって、その日その時に行きたいところへ行くスタイルに変えた。道路や地下鉄もわかりやすくて、移動がしやすい街並みにも助けられた。

おかげで当初予定して行けなかったところもあったけど、地図を片手にロンドンを旅する日々は、最高に楽しかった。
時間が経ち、歩けば歩くほど、憧れのロンドンが「僕の街」になっていく。

曇りの多い冬のロンドンには珍しい、きりっと晴れた空の下を歩きながら、自由だ、と思った。

見たいものがあれば、思う存分見ればいいし
行きたいところがあれば、気の向くままに行けばいい。

誰と合わせるまでもなく、その時の自分の心に任せて。

子供の頃に想像していた街に僕はいま立っていて、
夢は望めば叶えられるし、歩き出せば必ずたどり着く。

ちょっと大げさだけど、本当にそんな感覚だったのだ。


帰国後そのあと3日と間を置かずに、こちらは友人5人でトルコ旅行に参加したのだけど、そのふわふわとした感覚がどこか忘れられずにいた。
ツアー中の自由時間では一人でフラフラしてしまって、みんなで撮りあった写真には極端に僕の姿が少なかったのはちょっと後悔している。
(もちろん、大学時代を共にした仲間たちと過ごす時間も最高に楽しかったのだけど。)

それ以来、僕は完全に味を占めてしまって、休みがあると直前まで予定を立てず、行きたくなった場所に一人で出かけるようになった。
そして、一人旅というだけでなく、「ひとり」が好きになった。

知らない街を歩いてみたり、初めての店でご飯を食べてみたり、ぼーっとしてみたり。
僕のことを誰も知らない、すべては自分次第という、心地良さや開放感、時にはスリル。

「みんな」が嫌いなわけじゃない。誰かと一緒にいたいと思ったり、不安になる時もある。
でも、ロンドンで味わってしまった高揚感の残滓が、どこかずっと僕の中に残っている。

あの一週間が、僕という人間のOSを決定的に変えてしまって、だから言ってしまえば今も、僕はロンドンからはじまった一人旅の途中にいるのだ。

いや、少し違う。僕らはこの世界に生まれてから、ずっと人生という旅を続けている。
旅路の途中で幾多の出会いや道連れはあれど、結局はひとりで生まれてきて、ひとりでこの人生を旅をし、ひとりで死んでゆく。

僕の人生の旅は、僕ひとりきりで、僕だけのもので、だから、自由だ。

旅するように生きたい。
僕は僕自身で、僕の行く先を決めていきたい。


◇◇◇

「旅するようにいきる」「旅は暮らしの反対側ではなく、暮らしの"中"にある」をテーマに、ちょくちょくnoteを書いています。よろしければご覧ください。


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