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映画感想文 「人間の条件」の放棄

 五味川純平原作の映画『人間の條件』において、梶は初め、満州の製鉄会社で社員(中国人、朝鮮人を含む)を人間として扱おうとした。人間として扱うためにはどういう条件を満たさなければならないかを考えた。そして、それを実行に移そうとしたがために、免除されるはずだった軍隊に送られることになる。
 軍隊に入ると今度は立場が逆転する。自分が人間として扱われなくなった。どうすれば戦場のなかで、人間であることを保っていられるのか、また相手(敵味方を問わず)を人間として扱えるのか。しかし、部下に対して平然と虐待を繰り返す上官を、梶自身が兵舎の肥溜めに叩き込んで殺してしまう。
 これは報復ではあったが、相手を人間として扱いたいという梶の持論とは明らかに矛盾する。それぐらいに戦場という空間は人間を人間でなくしてしまう、あるいは人間であることを自ら放棄しないと生きていかれない場所なんだということであろう。

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