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3年で読者からの直接売り上げ比率を50%に。コロナ禍で無傷ではいられなかった編集者の新たな目標

引き続きのコロナ禍。ヨーロッパでは相変わらずロックダウンが続いています。個人としては新しい日常に慣れつつあるものの、編集者としてのビジネスへの影響は今も尾を引いています。そうした中で、いや、そうした中だからこそ見つけた新たな目標をみなさんにも聞いてもらいたいと思います(Photo by Lukas Hellebrand on Unsplash)。

無傷ではいられなかったコロナ禍

日本でコロナが深刻な問題として認知され始めたのが昨年の初頭。しかし、それがビジネスにとってどれほどのインパクトをもたらすのかということが、多くの人にとって自分ゴトとして捉えられるようになるまでには、もう少し時間がかかりました。

それは編集を生業とする僕にとっても同じこと。当時は、主に媒体社向けに海外の動向に関する記事を書き、また事業会社向けには、比較的好調な事業のブランディングに資するような情報発信、そのための記事コンテンツの企画制作を行っていたからです。

それが少しずつ、状況が変わり始めたのは春ごろのことでした。事業会社の業績やその見通しに陰りが生じ始め、その川下的な取り組みである情報発信への投資に対する影響が、数カ月の時差をもって顕在化し始めたのです。僕は当時のメインクライアントを失いました。

それでもなお、それほどまでの危機感は抱きませんでした。一社に依存していたわけではなく、媒体社向けの仕事においては、むしろコロナ禍だからこそ海外の情報に対するニーズが高まり、自分やチームが果たせる役割は大きくなっているとさえ感じていました。

それに、コロナ禍だからこそ伸びている産業や、「今こそ勝負に打って出よう」という起業家からの相談で新たな案件が始まったりもして、当時はまだ「クライアントのポートフォリオが変わっただけ」と、ポジティブに受け止めてもいました。

しかし、これは「第一波」のこと。今年に入り、第二波、日本では第三波とも呼ばれるものが来る中で、いよいよ意欲、あるいは財務的な体力のある企業にも我慢の限界が訪れ、目先の利益は追わない投資的な側面の強い情報発信の取り組みを諦めざるを得ないところも出てきました。

支えとなったのはポッドキャスト

そうした中で、いよいよ仕事を選べるような状況でもなくなり、多少我慢やストレスを引き受けてでもやっていかなければいけない。そのように状況、あるいは自分のマインドが変わっていきました。「仕事だから仕方ない」と言い換えてもいいと思います。

そんな中で、僕にとって支えとなったのは「ポッドキャスト」でした。奇しくもこのコロナが日本で大きな問題として認識され始めた昨年初頭、その1〜2カ月前に始めていた取り組みでした。もちろんそのころは、コロナがこんなに長引くとは思ってもいませんでしたが。

とはいえ、ポッドキャストが金銭的な支えになるなんてことはありません。それでも毎日、仕事がどんな状況であっても「やりたい」と向き合えるものがあること。そして、意識を外に向け続けることをリマインドしてくれる取り組みとしての存在感は計り知れませんでした。

仕事の低調と反比例するかのように、ポッドキャストのリスナーは増える一方で、またコロナ禍で人との出会いが減る中、彼ら彼女らとのオンライン上でのインタラクションはますます濃くなるばかり。読者と直接つながることへの興奮を覚えたのもこの時期でした。

そのうちに、ポッドキャストは僕の中でライフワークになっていきました。週に3回、スマホに向かって収録する。しかも、発信する内容は「本当にみんなに知ってほしい」と思えること。そして、声で発信するというフォーマットもまた自分の性に合っていたようです。

次第に周囲からの評価も自分の充実度に追いついてくるようになりました。Spotifyのポッドキャストチャートが昨年始まり、日本では総合ランキングに入れてもらいました。Spotifyの番組のフォロワーも、個人のTwitterのフォロワー数を超えるまでに増えました。

クリエイター・エコノミーの台頭

そうした中で、自分の意欲や取り組みとは離れたところで、去年から「クリエイター・エコノミー」という言葉が登場。一過性のバズワードではなく、今年に入ってからもプレイヤーが増え続け、業界再編が進み、いよいよ産業として確立されつつあります。

クリエイター・エコノミーとは、一言で言えば、個人のクリエイターが収益化するための環境整備のこと。トップアーティストやセレブリティーが自らの作品でオンライン上で収入を得るということは以前からもちろんありましたが、その裾野が広がってきています。

例えば、多くの人にとって身近なところでは、Twitterが今後有料サービスを始め、自らのツイートをかぎられたユーザーにのみ有料で公開できるようになったり、あるいはすでに投げ銭機能を始めているYouTubeが、今後はコマース機能も実装すると言われています。

そうした大手SNSだけでなく、「Substack」などの有料でニュースレターを配信できるサービス、「Subtext」というこちらは有料でテキストメッセージを発信できるサービス、さらに「Patreon」のような個人のクリエイターをパトロンとして継続的に支援できるサービスも盛り上がっています。

そうした世の中の動きにも刺激され、個人的に日本のクリエイター・エコノミー市場の有力なプレイヤーだと感じている「note」で有料記事を配信し、読者から直接課金してもらうという希有な体験と、そこから新たな気づきを得ることもできました。

そのことで、これまでの媒体社や事業会社といった、クライアント企業の情報発信を支援することで対価を得られるBtoBビジネスとは異なる、読者という個人から直接金銭的にサポートしてもらえるBtoCビジネスの醍醐味、またその今後の拡大への期待感も抱きました。

3年で読者からの売り上げ比率を50%に

そこで、今後3年間で、僕のチームの売り上げに占める読者からの直接課金による売り上げの比率を50%にしようという、まだ漠然とはしているものの、僕にとっては大胆かつ息の長い目標を着想し、それに向き合っていこうという心の準備ができました。

具体的な方策については、まだなにも決まっていません。まずは、またnoteの有料記事を試していくかもしれませんし、少し先では、コンテンツではなく、自分が運営するコミュニティーへの参加など、新たな付加価値を生み出すことも試してみたいと思っています。

そのまえに、すでに見えているところとしては、Spotifyでのポッドキャストの収益化です。もちろん、今運営している番組のコンテンツをすべて有料化するということは考えていません。しかし、今年下半期にも、Spotifyはなんらかの課金機能を実装してくることでしょう。

これまで、読者に課金してもらうことについてはむしろ抵抗感を感じていました。「自分のコンテンツにお金を払う人なんかいない」という自信のなさはもちろん、それよりも有料化することでコンテンツにふれる読者が減ってしまうことが嫌だったんです。

しかし、その考えは少しだけ変わりました。それはポッドキャストのリスナーのおかげです。自分が書いた無料の記事が100万人に読まれることも嬉しいけれど、100人のリスナーと濃く関わる時間も増やしていきたい。その信頼関係の土台が少しずつ築かれている手ごたえがあるからです。

本質的に大切なことは変わらない

それでも、大切なのは収益化の方策云々では決してありません。

そもそも、クリエイター・エコノミーというコンセプトが台頭してきたのは、SNSで雑多な情報が溢れる中、信頼する個人からの質の高い情報にはお金を払ってでもふれていたい、というニーズが顕在化してきたからです。それを満たすことこそが、本質的には大切なこと。

これからも、自分にしか届けられない情報はなにか、という問いに真摯に向き合い、そしてこれからは、情報を受け取ったオーディエンスに「情報を届ける以上のこと」でなにかできることはないか、想像力を膨らませ、目標を達成するためのトライ・アンド・エラーを繰り返していきます。

編集者/Livit代表 岡徳之
2009年慶應義塾大学経済学部を卒業後、PR会社に入社。2011年に独立し、ライターとしてのキャリアを歩み始める。その後、記事執筆の分野をビジネス、テクノロジー、マーケティングへと広げ、企業のオウンドメディア運営にも従事。2013年シンガポールに進出。事業拡大にともない、専属ライターの採用、海外在住ライターのネットワーキングを開始。2015年オランダに進出。現在はアムステルダムを拠点に活動。これまで「東洋経済オンライン」や「NewsPicks」など有力メディア約30媒体で連載を担当。共著に『ミレニアル・Z世代の「新」価値観』『フューチャーリテール ~欧米の最新事例から紐解く、未来の小売体験~』。ポッドキャスト『グローバル・インサイト』『海外移住家族の夫婦会議』。


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