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阪神サイン盗み騒動がもしメジャーで起こったら

メジャーだったら矢野監督はクビだ

プロ野球ファンの皆さん、先日の対ヤクルト戦、矢野監督がブチギレしたあの一件ですが、どう思われますか。

7月6日の阪神・ヤクルト戦で阪神2塁走者の近本光司の左手を水平に何度か上げ下げした“仕草”が、投手の投げるコースを打者佐藤輝明に伝達していたのではないかと、ヤクルトの三塁手・村上宗隆がアピールし、矢野監督がそれを口汚く罵ったという件です。

ちょうど僕の手元に、1年半前のThe Wall Street Journal(2020年1月27日)のまさにアメリカにおけるこの問題を取り上げた野球の記事があり、この件に非常に示唆があるので紹介したいと思います。

今回の阪神の問題は、英語でいうとチーティング(cheating不正行為)ということです。

この記事は野球イコールルール、であり、それを守らない行為はすべてチーティングであり、チーティングは野球の全てを破壊する、というのがその趣旨なんです。

記事を書いたのはフェイ・ビンセント(Fay Vincent)さんで、1989年から92年までMLBのコミッショナーをつとめた人物です。

ちょっと彼の言い分をまとめてみましょう。記事は、今回の阪神の事件を思い起こさせるような一件から始まります。

2017年のヒューストン・アストロズがサイン盗みをした事件です。これは二塁ランナーがバッターにサインを教えた疑惑じゃなく、ダッグアウトからバッターにサインを送っていたのです。ビンセントさんはこう書いています。

「ダグアウトにいる誰かが、そこに置いてあるテレビでキャッチャーのサインを盗み、ダッグアウトの壁をどんどん叩いて、バッターに次の投球を知らせたのだ。コミッショナーのロブ・マンフレッド(Rob Manfred)は監督とゼネラルマネジャーを解雇した」。

この伝でいけば、今回の阪神の疑惑の当事者は全員クビってことになりますが、NPBのおえらいさんも、現場の審判さえも声を上げないってどういうことなんでしょうか。さあそれはまた後で考えるとして、記事の考察を続けましょう。

取り消されたピート・ローズの最多安打記録

さて、この記事が言いたいことは、野球はルールのスポーツである、ということです。野球とはルールであり、ルールによって定義され、ルールから離れて生存できない、ということなのです。その敵こそチーティング、不正行為なのだ、と言いつつ、ビンセントさんはMLBの苦い歴史についてこう語ります。

「野球のコアにあるものは、フェアな競争だ。残念ながら野球賭博でMLB永久追放人になったピート・ローズ事件、ギャンブル、薬物でパフォーマンスをあげるなどの不幸な出来事があった。フェアな競争への脅威となるこれらの事件に対し、MLBは戦ってきた」。

で、コミッショナーの仕事はルールを説明することだというのです。

「ルールはたしかに複雑だが、その複雑さゆえルールはしっかり守られ、実行されないとならない。コミッショナーはルールを行い、守り、説明することを求められる」。

彼は続けます。「野球は現代のテクノロジーから孤立した時代遅れのゲームなどではない。たしかにルールが複雑であり、その複雑さゆえにルールは厳格に守られ執行されることが非常に重要である。私のコミッショナーとしての仕事はそのことに加え、なぜそのルールが適用されるかを説明することだった」。

不正行為が絶対悪という理由

「不正行為は野球というゲームをだいなしにする。それを許せばプレーヤーの才能や鋭敏さ以外の要素が野球に導入されてしまうからだ。

ルールは野球の構造と設定を詳しく規定するもので、不正行為はそれを変えようとするものである。化学物質を使ってパフォーマンスを上げようなどは、不正行為の最たるものだ」。

ビンセントさんは、しかし、不正行為は時に定義が難しいとも話し、こんな例を出します。

「裁判官のポッターズ・スピュー氏(Potters Spwh)がこんなことを言っている。『私はポルノを定義することは出来なかったが、それを見た時にはこれがポルノだ、とわかった』。

彼はまた、不正行為が大目に見られてきたこともあると、歴史を振り返ります。

「ボールにツバを付けたり、油状の物質を塗ってボールの動きを変えることは、古いカタチのずるい行為である。これをスピッターと言うが、多くの素晴らしい投手がスピッターを投げた。禁止されても長いこと投げていた選手もいて、殿堂入りしたものさえある。スピッターは不正行為なのに、不正行為としては目こぼしを与えられる、と考えられてしまった」。

巧妙化するサイン盗み、でも見て見ぬふりも

キャッチャーのサイン盗みはやはりMLBでもポピュラーなものと見えて、ビンセントさんはこう語ります。

「キャッチャーはサインが盗まれると、より入り組んだサインをピッチャーに送るようになり、不正行為の有利を薄めたかに見えた。しかし、根本的な療法が追求されなければまた表面に上がってくるだろう。

ニューヨークジャイアンツは1951年のナショナルリーグのペナントを獲ったが、それはドジャースのキャッチャーのサインをテレスコープを使って盗んだからだ。でも、今更それを蒸し返しても詮無い事だ。世間も妥協したのだから」。

ビンセントさんはこう話をまとめます。

「選手組合が不正行為に断固とした声をあげるべきだ、それはプレイヤーを守ることにつながる。野球は単なるエンタテイメントではない」。

野呂の感想:ベースボールも本音と建前がある

野球はルールがすべてという主張ですが、話をよくよく聞いてみると、ルール無視がまかり通ったり、根本策がいまだに講じられてなかったり、目こぼしされていたり、面白かったり、勝ったりの経済的利益に負けていたり、ルールそのものが不備だったりという、それとは相反する現実がある、そう感じました。

野球はルールありきですが、わざとそれを厳格にしたり、はっきり定義付けをしてないのです。

それはビジネスのため、じゃないでしょうか。

アメリカ人の中でどこかそういう”集合的無意識”が働いている、そんな気がしてならないのです。

大谷選手がマウンドで審判に異物をボールに塗ってないか確かめられた一件、審判団には選手に退場を命じたりの権限が与えられましたが、今までスピットボールが大目に見られてきたことでもわかるように、やっぱりどうせポーズなんでしょう。

でも、ルールはあるけれども、その運用は適当に、という一種のご都合主義が、MLBをここまで永らえさせてきたのも事実ではないでしょうか。

日本も同じだよねえ、おそらく。誰も阪神の今回の問題、突っ込まないものねえ。

今日も最後までお読み頂き、ありがとうございました。

また明日お目にかかりましょう。

                             野呂 一郎

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