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「回数を競う長縄跳び」から「表現することを楽しむ長縄跳びへ」ーフュージョンを通した実践ー

1 はじめに

 小学校では、体育の授業や学校行事で長縄跳びを行うことが多い。学級やチームで団結し、1回でも多く跳ぼうと取り組む姿は素晴らしいと思う。また、先生方の指導にも熱が入り、休み時間等も使って練習する姿も見られる。
 しかし、そのような取り組み方では、以下のような問題があると考える。
①勝利史上主義に陥りやすい。
②教師からの一方的な指導、または運動が得意な児童の一方的な指示で成り立つ場合が多く、思考する場面が少ない。
③学級内でのヒエラルキーの顕在化につながる。
 そこでダブルダッチの「フュージョン」という種目をもとに、回数を競うのではなく、音楽のリズムに合わせて、縄の跳び方や縄への入り方、跳ぶ人数等を工夫することを楽しむ授業展開を考えた。(フュージョンの基本的なルールや運動特性については、後述する。)
 勤務校では、体つくり運動(5時間)の中で長縄跳びが設定されている。その為、5時間展開で授業を考えた。また、授業を考える際には、アカデミック先生の「体育デザインに必要な3つのポイント」をもとにした。

2 ダブルダッチ(フュージョン)の競技特性

基本ルールは、以下の通りである。

◯2本の縄を使う。
◯音楽と演技を融合(フュージョン)させた。
◯3分以内で演技を行う。
◯メンバーの人数は無制限。
◯演技中にジャンパーとターナーが入れ替われる。
日本ダブルダッチ協会

 上記のようなルールから、以下のような競技特性をもつと考えた。
 ◯ジャンパー(跳び手)とターナー(回し手)のコンビネーションが発生する。
 ◯リズムよく縄を跳び、縄の外へ抜ける。
 ◯縄への入り方や縄の跳び方の工夫する。
 ◯友達と協力して演技の工夫を考えたり、演技したりできる。

 上記の特性を楽しく味わわせる為には、2本の縄を使うと難しいと考えた。そこで縄を1本にすることで、全ての児童が楽しくフュージョンのもつ競技特性を体験できるのではないかと考えた。

3 授業実践

①基本ルール

 今回は3年生で授業実践をした。基本的なルールを以下のように設定した。児童が自由に演技できるように、極力制限を少なくした。

・1チーム5〜6人
・課題曲(Hundred Twentyの「HandClap」3分14秒)を設定し、その中で演技を行うこととした。
・演技中にジャンパー(跳び手)とターナー(回し手)が入れ替われる。

②フュージョンのエッセンシャル・スキル

 フュージョンにおけるエッセンシャル・スキルを以下のように考えた。

<ジャンパー>
・縄に入る
・縄を跳ぶ
・縄から抜ける
<ターナー>
・縄を回す

 運動の難易度としては易しいが、これを速く、正確に行うとなると途端に難易度が跳ね上がる。8の字跳びは、正に上記のスキルを速く正確に発揮することが求められる為、苦手な児童にとっては、難しい運動になってしまう。
 そこでフュージョンでは、友達と一緒に運動したり、ゆっくり運動したりできる場面を取り入れることで、エッセンシャル・スキルのハードルを低く設定することができた。

③単元の流れ

 以下の表に示した流れで授業を進めた。その際、単元の中で「知る、みる、する、支える」活動を充実させ、多様な関わり方を学べるようにも工夫をした。

フュージョン単元計画

 第1時では、ダブルダッチのフュージョンの動画を見せ、フュージョンという競技の説明をした。その後、日本ダブルダッチ協会のホームページやYoutube等で跳び方やルールを調べた。残った時間で、フュージョンを実際に体験し、1時間目は終了した。
 第2時〜第5時は、同じ流れで行った。まず、授業の始め10分程度を使って基礎感覚・技能を身に付けられるような運動を設定した。次に、各時間に設定されためあてに向かってチームごとに練習を行った。授業の最後に、チーム練習の成果を発表し、振り返りを行った。各時間のめあては、以下のように設定した。

第1時 フュージョンについて知ろう。
第2時 色々な跳び方で縄を跳んでみよう
第3時 チームのテーマにあった演技を考えよう。
第4時         〃
第5時 まとめの演技をしよう。

④表現することを楽しむ(する)

 学級の中には、長縄跳び(8の字跳び)に対して、苦手意識を持つ児童が少なからずいた。その為、発言力のある児童の「休み時間、みんなで長縄跳びの練習をしよう!」という声に対して乗り気でない児童もいた。しかし、フュージョンを体育で始めてから、ほとんどのチームが休み時間にも進んで長縄跳びをしていた。
 その要因として考えられるのは、エッセンシャル・スキルを低く設定したことである。そうすることで、技能習得よりも、「もっている技能をどのように表現するか。」「表現するために、どのような技能が必要か。」という思考を促すことができた。また、縄を跳ぶこと以外にも、ポージングや仲間とのシンクロ等で注目を集める児童もいた。そういった面からも、様々な表現方法で楽しんでいたといえるだろう。児童から実際に以下のような感想が聞かれた。
・「速いテンポのところは、走っているように跳んでみよう!」
・「一番盛り上がるところは、360°ワンフットを入れようよ!」
・「全員が同じタイミングで、違う場所から入ればかっこいいんじゃん!」
・「〇〇さんの決めポーズがいいね!みんなでそれに合わせようよ!」
 音楽に合わせて演技をすることで、「長縄跳び=回数を競う」というイメージを取り除くことができた。「長縄跳び=回数を競う」では、技能の習得が最優先されてしまう。児童の「長縄跳び=回数を競う」という意識を取り除くことで、長縄跳びの新たな可能性を見出すことができたのは大きな成果だと感じている。

⑤「知る、みる、する、支える」活動(する活動を前述した為省略)

<知る> 
 まず、単元のはじめにダブルダッチのフュージョン種目の動画を見せ、児童に運動のイメージを持たせた。また、自分達が今まで経験してきた長縄跳びとの違いを感じさせた。動画を見せた後、児童から「どうやったらあんなふうに跳べるの?」や「どういう跳び方があるか知りたい。」という声が上がった為、調べる時間を設けた。扱う運動によっては、児童に運動を経験させてから調べる活動を設けたほうが良い場合もあるが、今回は、児童の調べたい意欲が最高潮に達したため、単元はじめに調べる活動を設定した。また、自主学習でもフュージョンについて調べてくる児童が多くいた。

<みる>
 フュージョンは、特に「みる」活動を楽しめる競技である。友達の跳び方やリズムに合わせた動き、ポーズ等を見て歓声が上がる場面がたくさんあった。
 さらに、「みる」活動を充実させるために以下の視点を示した。

・すごいと思った動き
・真似してみたい動き
・体形の工夫
・コンビネーション
・音楽、リズムに合わせた動き

 視点を具体的に示したことで、競技の観戦を楽しむだけでなく、自分の動きにも取り入れようとする姿が見られた。

<支える>
 支える活動として以下の活動を設定した。

・用具の準備、確認
・音楽の再生、停止
・動画撮影
・友達へのアドバイス
・演技の分析
・競技の普及活動

 まず、安全に運動をするという意識を持たせ、用具の準備、確認を徹底させた。次に、タブレットを用いて演技を撮影した。それをもとに自分達の演技を振り返ったり、友達へのアドバイスを行うようにした。
 今回、競技の普及活動という視点を与えた。児童は、「知る」活動で日本ダブルダッチ協会のホームページを活用した。そこで、スポーツの普及活動ということを知識として伝えた。
 今年度は、学校の縄跳び大会を「8の字跳び」から「フュージョン」の発表会とした。そこで、3年生には下級生に競技を普及する役割を担ってもらった。具体的には、縦割り班活動や休み時間に下級生に教えるというものである。児童の「支える」活動の視野を広げることができた。

4 まとめ

 今回の実践で最も大きな成果だと感じたのは、児童の持つ「長縄跳び=回数を競う」という意識を変えられたことだと思う。当然、回数を競うことは一つの楽しみであることは、間違いない。しかし、それ以外の楽しみ方を知らないというのは、スポーツとの関わり方を制限してしまうことになる。
 そこで、今回は長縄跳びと音楽を「フュージョン」させることで表現する楽しみを味わわせることができた。また、「知る、する、みる、支える」視点を学ばせることで、多様な関わり方を体験させることもできた。

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