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5. 缶コーヒー

農家の家には必ずといっていいほど缶コーヒーがストックされている。10数軒農家回りをすると、4つ、5つと缶コーヒーが増えていくし、農家のお手伝いへ行ったときも冷蔵庫には大量の缶コーヒーがストックされていて、「冷蔵庫の中に冷えた飲み物あるから自由に飲んでいいぞ。」と言いながら、渡されるのは甘い缶コーヒーだった。
もちろんありがたいのだが、カフェインの分解が苦手なぼくは2缶以上飲むと具合が悪くなってしまう。

缶コーヒーというものにはこれまであまり馴染みがなかった。というのも、ぼくがコーヒーを飲めるようになったのは18の頃。それまでは“コーヒー牛乳”しか飲めなかった。そんなぼくがコーヒーを飲むようになったのは、某緑のコーヒーチェーン店でのアルバイトでシフトに入るたびにコーヒーを飲まないといけなかったからだ。コーヒーを好きになったのは、もっと後の話で京都駅前にある“kurasu”というサードウェーブ系のコーヒースタンドで美味しいコーヒーと出会えたからだ。それからコーヒー沼にどっぷり浸かってしまって、いつしかコーヒーは僕を動かすガソリンのような存在になっていた。だけど、喫茶店でコーヒーを頼むことはあっても、スーパーに並んでいるような缶やペットボトルに入って売られているコーヒーには縁がなかった。それは美味しくないからというのもあるし、コーヒーを目を覚まして作業効率をあげるために飲むものではなく、時間を楽しむために嗜むものと捉えているからである。

農家実習の話をすると、昼の休憩とは別に1日に3、4回の小休憩があった。ひっくり返したビールケースを机代わりにして、その上にお菓子の入った箱を置いて、それを囲うようにイスを並べて談笑を楽しんだ。キャンプをしているような、喫茶店にいるような、そんな気分を味わうことができた。時間の流れがとてもゆったりとしていて、コーヒーがよく合う空間だった。トラックで飲む缶コーヒーは美味しくなかったけれど、そこで飲む缶コーヒーは少しだけ美味しく感じた。

『願』@江部乙町

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