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映画「カラオケ行こ!」を観て、部活動のあるべき姿を見た

結論
綾野剛ファンもいいけど、中学生に見てもらいたい映画

ヤクザの親分の誕生会で、上手くカラオケを歌わなくてならない若頭の狂児(きょうじ)は、初めて会った聡実に「カラオケ行こ」と誘う。

という始まりなんだけど、もう少し細かく説明すると、
雨の中、狂児は偶然合唱コンクールの会場の前を通りかかる。合唱部の部長・聡実は、忘れ物を取りコンクール会場に戻る。
コンクールが終わって誰もいなくなった薄暗い公民館の階段で、狂児は聡実を見つけ、冒頭のセリフ「カラオケ行こ」と誘うのだった。

舞台で歌っている場面を狂児が観ているシーンはなかったんだけど、きっとこのヤクザは聡実の歌声を聴いたのだろう。そしてそれに感銘を受けたのだ。それはなぜか、というのはこの後の展開でわかる。
しかし、おっかない顔をした知らない大人にいきなり「カラオケ行こ」といわれるシチュエーションがどれだけあるのか。そんなことをいってしまうと元も子もないのだが、特に驚くとか、逃げる、とか腰抜かす、とかそういうことは一切なしで、少年は一緒に行ってしまう。そして出かけたカラオケ屋でなぜ誘ったのか、が説明される。組の親分の誕生日会で上手くカラオケを歌わないと困ったことになる、と言うことを中3男子に切々と語るところを見ると、このヤクザの若頭は、相当切羽詰まっていたんだな、というのがわかる。
とりあえず、一曲歌って、アドバイスがほしいと言ってX JAPANの『紅』を熱唱する。

その歌声がキモかった。
綾野剛ってこんなキモく歌うんだ、って思ってしまった。
いや、この彼は綾野剛じゃなくて狂児なんだけど。

これにコメントするのか〜それはいくらなんでも酷ではないか。
中学生だったらチビっちゃうよ、ヤクザの歌声にコメントなんて。

しかし、だ。

この中学生、聡実は怯んだりしない。相手はヤクザだよ?ご丁寧に名刺までくれたこのヤクザは若頭だ。中学生がこの若頭という“役職“を知っているかどうかはわからないが、ナンバー2だ(多分)。一般企業だったら専務くらいの権限がある(多分)。私だったら怖くてビビってしまい、多少下手でもヘラヘラとほめてしまうような気がする。

しかし聡実は開口一番

「全部裏声で気持ち悪い。じゃ」

そう言って帰ろうとしたのだ。すげー。

この時点で、“中学生とヤクザ“ではなくて、
“先生と生徒“という主従関係になったのだ。
かといって、聡実は真剣に指導をするわけではなく、
とにかく自分が思ったことを言う。せいぜい、
「自分の音域に合った曲の方がいいと思います」くらいのアドバイスだ。
狂児も「そうかー」と素直に意見を聞く対応らしく、
「なんだとぉ?ああん?」とかなんとか言い出すチンピラキャラではない。
この映画のいいとこポイントでもあるんだけど、
現実がどうとかは置いといて、
あくまでも”カラオケがうまく歌えるようになりたいおじさんと
それに対してアドバイスをする少年”という姿勢が貫かれている。
おじさんはヤクザを盾に脅す、なんてことはしないし、
少年はヤクザだから、と心にもないことを言ってヘラヘラすることもない。
妙な変な平等感。これがまずいい。

いろんな曲を歌いながら間間に
「くれないだぁぁぁぁぁ!!!」と絶叫する狂児。
「間に挟まんといられへんのですか」と聡実。
狂児、めっちゃ「紅」歌いたいのね。でもこれがのちに重要になる。

一方で聡実には大きな悩みがあった。
その悩みがゆえに部活にも身が入らずにいたその悩みとは
「声変わり」だった。
聡実のパートはソプラノ。少年のソプラノは変声期前の声域で、
とても美しく聞こえる。しかし、

声変わりによって、声質や音域が変化するため、以前に歌えていたパートが歌えなくなる場合があります。また、声変わりによって、声の力や安定性も変化することがあります。

一般社団法人少年合唱協会HPより

喉仏が目立ってきて、高音がどんどん出なくなる。
女子に生理があるように、男子には「変声期」がある。
声変わりによって、今まで歌えていた歌が歌えない。
ソプラノは変声期前の少年の声。だとすると、
聡実はもうじき「少年時代が終わる」のだ。
合唱部の部長として、少年として、青年になりつつある聡実はどんな気持ちだったのだろう。

そのことを知らずに、部活を休んでばかりの聡実を後輩の和田くんが攻める。それを嗜める副部長の女子がとてもいい。これこそ副部長だ。
女子だから男子の「声変わり」の辛さはわからないはずなんだけど、
しっかりとフォローをしている。
中高生って些細なことでいじめがあったりするけど、
この合唱部にはそういうことが全くなくて、
みんなが分かり合えている。
合唱部の顧問が産休だから副顧問が代わりを務めているのだけど、
どうもゆるい感じがする。むしろ生徒たちの方がしっかりしているのだけど、生徒たちは先生の陰口を言ったりすることもない。
これ、部活のあるべき姿だよね。
学校の部活動って勝敗だけじゃない。そりゃあもちろん、大会で成績を残すことは自分たちの自信にもつながるし、やり遂げた感、達成感はとても大きい。でもそれだけじゃない。主人公の通う中学校の合唱部の部員たちは、
部活動を通して学ぶべきことを学んでいる。とてもいい部活だ。
ああ、私もこの中学の合唱部に入りたかった。

さて、もうすぐ合唱部の最後のコンクールがある。
例のヤクザの親分の誕生部会と同じ日。
狂児が前にどこかの屋上から見えるスナックを指さして教えてくれた。
ちょうどこのころ聡実は、狂児と距離をとっていた。後輩和田くんとの確執があったからで、別に狂児がヤクザだから関わるのをやめたわけでもない。聡実自身の心の不安定さの結果だ。だって中学生だから。何かあるのだろうと、踏み込まない狂児。でも寂しそうに見えた、お互いに。LINEでやり取りをするまで親しくなっていたからなおのことだろう。このあたりの演出は本当に上手い。しかしすんなりとは終わらない。

そしてコンクール当日。
いつも二人で行ったカラオケ屋の前で事故があった。
その事故車両が狂児のものだった。そして血だらけで担架で運ばれる人。
コンクールに行くバスの中でその様子を見てしまった聡実。

聡実が向かった先は
聡実のとった行動は

続きはご自分の目で、耳で、確かめてくれ。
何度もいうけど、この映画は、現実離れしてる、とか、
バカバカしい、とか、ありえない、とか、
そんなん、いいねん。
そんなの超越した映画。なんかいい映画。

『観に行こ!』


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