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『SUPERLIMINAL』をクリアした

おもしろかった。


スーパーリミナル ローンチ トレーラー - YouTube


ちなみにXboxのGame Passでやった。


ゲームの概要

この項目が必要かはともかく。

遠近法というものがある。遠くにあるものは小さく、近くにあるものは大きく見える法である。
そしてこのゲームはモノを持ち上げた時、プレイヤーから見たモノの大きさを固定する。
だからそのまま近くに置けば元の大きさより小さく、逆に遠くに置けば大きくなる。
本作はこのギミックを利用してステージをクリアしていくパズルFPSである。

他にもいくつかの錯視を利用したギミックはあるが、基本は遠近法の活用に終始する。
もしプレイしていない人間がこの文章を読もうとしているなら、何らかの手段でプレイしてからにしてほしい。初見でしか得られない栄養素があるから。


総評

面白かった。ストーリー性とか、最後はちょっと。あれでした。


好きなところ

・錯視を利用したギミック

私は昔から錯視とか、隠し絵とか、そういうトリックアートが好きだったから偏った意見になってしまうかもしれないが、だいぶ面白い。
通常トリックアートは自分の両目で見るから、ちょっとした拍子にタネが割れてしまうことがある。でもこれはゲームで、ゲームの主人公というのは単眼だから、不用意にタネが割れないのだ。
故に純粋な気持ちで錯視を楽しむことができる。その上、錯視を自分で操ってパズルまでさせて貰えるというのだから、もう何も文句はない。

嘘。文句はあります。


・雰囲気

このゲームで、自分以外の存在と相対すことはない。
ゲームっていうのは、なんというか救われてなきゃあだめなんだ。一人で、静かで、豊かで。

というのは過言だが、NPCがしつこく語りかけてきたり、画面の向こうの人間としのぎを削るのに、すこし疲れてしまうときがある。
そんな時に、セラピーじみた(その理由はある)このゲームをプレイするのは、多少なりとも精神にいい影響を与えるだろう。根拠はない。

決して地味な色づかいではないが、どこか安らげるテクスチャ。静謐さを保ちつつも飽きないBGM。自分と対峙するのは、パズルを通した自分のみ。

違うよね。パズルを通した先にいるのは自分じゃなくて制作側。そこのところは勘違いしないでほしい。


は?結局何が言いたいんだ


・世界観

主人公は精神の病を治療しているという立場。そして療法は「夢を見ること」、だから現実世界の主人公の周りには彼を監視する医師が存在している。
その医師から、時たま指示や助言などが飛び込んでくるのだ。
そしてそれを聞いているうちに、どうやら自分は深い場所へ行き過ぎているということを知る。

この「まずい、被験体が暴走を始めてしまう!」といった、SF御用達のストーリーライン。これ以上行くと戻れなくなるのはエヴァに代表される王道だ。

王道を陳腐として唾棄するのも結構だが、陳腐化するには理由がある。
決して奇特な物語ではないが、癖がないという点では正解である。
ただ、ストーリーは手放しでは褒められない。それについては後述する。


・開発者の声が聞ける

インディーズゲームには少なくない仕様だが、やはりこうしてオーディオコメンタリーのようなものを聞く、ということに快楽を覚える人種は一定数存在するだろう。

本作はゲームをクリアすると「製作者の声付きステージ」を遊べるようになり、頭を悩ませたあんなギミックやこんなギミックの開発事情を小耳にはさむことができる。

しかもただ単に音声を聞くわけではなく、プレイしながらとなるため、実際にどんな形でリリースされたのかという結果と対比させながら楽しめる。
ちょっとめんどくさい、って賛否両論もあるだろうけど。


気になるところ

・最後の説教

このゲームの最後には説教が待っている。
話としては至極まっとうな、確かにその通りだと首を縦に振るしかないような内容だ。

だが、違う。
私はこのゲームをしてそんなことを説教されたかったわけじゃない。

そもそもが物語性の薄いゲームだ。このゲームをプレイしようとした人は、そのほとんどが遠近法を使ったパズルが目当て、おまけに多少の世界観も楽しみたい、ストーリーになんか期待していない。そういった人々のはずだ。

少なくとも「このゲームはそこらの映画よりもダイナミックでサスペンスでハートフルな作品だ」という趣旨で評価する人間は、多くないはずだ。

だが最後に待ち受けているのは、「固定観念から逃れよう」という、何度使いまわされたかわからないような啓発文。

「あなたは既存の概念から外れ、先に進むことができたじゃないか。まさにこのゲームで」

ゲームをクリアすると、大げさにまとめればこういった内容のことを滔々と語られる。

いや、確かにね。言いたいことはわかるよ。

でもこれはゲームだから。ひとが考えて、ひとが作って、それを作った人の想定通りの方法でプレイしたひとがクリアしただけだから。

このメッセージの旨をプレイヤー自身が、自発的に思いついたのなら、それはそれでよい。

だがこのメッセージは、他人から、よりによって製作者から、よりによってゲームという箱庭の中で遊ぶ人に向けて送るものではない。


・謎のホラーパート

これ、何?

途中に挿入されるホラーテイストのステージ。
ここから主人公の罪が明かされていくのか、私たちが何気なく操作していた主人公はどんな業を背負っていたのか。

明かされませんし、触れられません。

だって、主人公はあなた自身だから。

あなた自身が犯罪行為をしていないとは言わないけど、多数は警察に大っぴらにしょっ引かれるようなことはしていないから、ゲームの主人公もしていません。

そう思えるかもしれない、ミスリードのホラーパートです。

そうですか。


・全体的なストーリー

ないです。ないない。

ストーリーがない作品と、ストーリーがあるけど語らない作品は違う。

そしてこのゲームはどちらでもない。

素人目から見ると、途中までストーリーを作ろうかと画策していたけど、めんどくさくなってありきたりな着地点を採択した、っていう印象を受ける。

途中まではめちゃくちゃ考察してやろうって気でいたんだけどな。珍しく。


・長すぎる終局

ここまでストーリーとか作者の思想とかについて非難したけど、これはゲームのテンポについての難癖。

終盤に到達すると、世界に色がほぼなくなる。
白と黒の世界。

確かにきれいだし、悪くはないけど、ずっといると飽きる。

それがずっと続くのが問題。しかも慣性でクリアしたい終盤に。
パズルが単調だったのもよくないかもしれない。

どちらにせよ、ちょっと最後がダレた感じがある。
でもまあ、いいのか。ストーリーとかないし。


最後に

良い点→悪い点で書いたせいで、この記事を通しで読んだ人には「こいつこのゲーム嫌いなのか」って思われそうだけど、そんなことはない。

遠近法に限らないギミックも秀逸だったし、なにより雰囲気が好き。ポータルの序盤みたいな。

最初はしっかり作りこまれた施設を行くのかと思いきや、段々と雲行きが怪しくなって、バックヤードに誘い込まれていくのは面白い。スタンリーパラブルもそんな感じあるよね。

夢なのか現実なのかを曖昧にする演出もよかった。毎回自室で目が覚めた時、目覚まし時計を止めるかどうか悩んだし。

ロード画面も気が利いている。進捗を示すバーが意表を突く動きをする。

これに関しては、いつかロード中だと思ったら実はプレイパートでした、っていうのが1回はあると思ってたんだけど、残念ながらなかった。くそ。

という感じで、このゲームに対する評価としてはかなりGoodです。

気が向いたらぜひやってみてください。
こういう文句は普通リリース直後に述べるべきなんだけど。


ここはどこだ