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【映画レビュー400本達成記念】 私蔵の映画のガイド本を大公開

このブログの映画レビューも気づけば400本に到達しました。

「映画が好き」で「本が好き」な私ですが、一番好きなのは「映画に関する本」です。

きっかけは、コラムニストの中野翠さんとイラストレーターの石川三千花さんの対談本『ともだちシネマ』(1996年) この本を読んで以来、映画はこんなにも面白く見ることも語ることができる、となり、そこから映画と映画本の沼にハマり今日に至ります。

ちなみにこちらが私の映画ガイド本の書棚です。

私が映画を楽しむうえで欠かせない映画本たち。さらに映画レビューを書くときに参考にする解説本や批評本などを公開します。

なにぶん古い本が多いので現在入手できるかどうかは定かではありませんが、興味があるものがありましたら是非読んでみてください。


好き嫌いで何が悪い?! 映画のことをとにかく語りたい本

私の所蔵する映画本の大半がコレです。映画について映画好きの著者が語りまくる。批評や考察というよりも「好き嫌い」の世界。映画好きの血肉となった本をご紹介します。

『VIDEOまっしぐら』(1994年/中野翠・石川三千花)

前出の『ともだちシネマ』と同じお二方の共著。こちらは対談ではなくそれぞれが文と絵で映画の見どころを紹介しています。70年代~80年代の映画(洋画多め)をレンタルビデオで見ていた時代も懐かしめる1冊です。

『中野シネマ』(1997年/中野翠)

小説新潮に1993年~96年まで連載されていた映画コラムを書籍化したもの。この期間に限らず広い年代(当然1996年以前ですが)の映画が取り上げられています。初っ端はロバート・アルトマン監督の『ザ・プレイヤー』(1992年)

好き嫌いで何が悪い?!と思う。映画をはかるものさしは見る人の好み、結局のところ、これに尽きると思う。「好き嫌いだけでものを言うのは批評ではない」という言い方は、半分正しいが半分まちがっている。好き嫌いがきっちり根底にすわっていない批評ーつまりその人間の生理や体感と結びついていない批評は、たとえ正しいことを言っていても説得力がない。迫力がない。つまらない。

『中野シネマ』より

との書き出し。
そう言いつつ、「好き嫌いだけでものを言うことは極力避けたいわけだが……」と続く。私も稚拙ながら映画レビューを書いていていつも思うことです。映画の楽しみかた、語り方(書き方)において大きな影響を受けた1冊です。

『ぺこぺこ映画日記 1993-2002』(2002年/中野翠)

こちらは『クリーク』(現在は休刊)と『GINZA』 というファッション誌に掲載されていたコラムの書籍化です。情報量もたっぷり。巻末には映画作品と人名の索引もついています。

『勝手にごひいきスター』(2017年/長沢節・石川三千花)

デザイナーで映画評論も手掛けた長沢節さん(1917-99)がファッション雑誌『装苑』(現在の『so-en』)に30年間(!)連載していた映画コラムを抜粋し、セツ・モードセミナーの愛弟子でもある石川三千花さんが編者として加筆した本です。

ダニエル・デイ=ルイス、ジェレミー・アイアンズほか長沢先生がお気に入りの役者ごとにその代表作を独自の美意識で斬った節さん。その節さん亡き後、当時美少年だったレオナルド・ディカプリオがどうなったのか、の三千花さんのコメントがー。

セツ先生!こういっちゃなんですが、私らの好きだったレオはもう完全に別ものになっちまいました!今ではオスカー俳優となり、予想通りにハリウッドを代表する大物になりましたが、体はもっと大物です。顔だって寸詰まって、角のない四角状態です。「ギルバートグレイプのころのポッキー体型は、幻のようです。

『勝手にごひいきスター』より

いろいろと刺激的な1冊です。

『勝手にシネマ』ほか(1995年/石川三千花)

まとめてのご紹介になりますが、石川三千花さんの著書も多数所蔵しております。イラストの端書がとにかく笑えます。映画の内容を超えた面白さです。

『こんな映画が』(2001年/吉野朔実)

漫画家の吉野朔実さん(1959-2016)の映画コラム集です。とにかくマニアックです。挿絵が素敵すぎる。

『シネコン111』(2008年/吉野朔実)

同じく吉野さんの映画コラム。さらにマニアックな選出が嬉しい。
ロドリゴ・サントロ主演の『ビハインド・ザ・サン』(2001年)について

悲しかった。美しくて苦しくて強い映画だった。「泣ける映画」が売りになるなら、本当に泣きたいなら、こういう映画を観ればいいのに。 

『シネコン111』より

という書き出し。ストレートでしびれます。
1作品を見開き1ページでという分量もちょうどいい。すべてを学びたい1冊です。

『観なかった映画』(2017年/長嶋有)

初めて映画館で観た映画は『スター・ウォーズ 帝国の逆襲』(が、ほとんど覚えておらず)ちゃんと観た最初は『E.T.』という著者。ほぼ同年代です。

なんだか映画って、過剰に「すごすぎ」だぞ、と思うようになった。たしかにすごいけど、すごいと「言う」ジャンルだともいえる。

『観なかった映画』より

と「映画を語る」楽しみに言及しています。ほかとはちょっと切り口で面白い1冊です。

その他(書籍名、著者名だけのご紹介)

『気分deシネマ』(2002年/ナンシー ペスケ、ビバリー ウエスト)
『女子映画スタイル』(2006年/山崎まどか)
『あの映画見た?』(2018年/井上荒野、 江國香織)
『新しい出会いなんて期待できないんだから、誰かの恋観てリハビリするしかない』(2021年/ジェーン・スー、高橋芳朗)
『おすぎです。映画を観ない女はバカになる』(2004年/おすぎ)
『シネマ・クローゼット』(2008年/高松啓二)
『ウイスキーアンドシネマ』(2014年/武部好伸)(*続編も発刊されています)

映画の理解を深めたいときに読む本

映画は好き嫌いでいいんです。が、それだけじゃ説得力がない。「映画好きを自称するからにはー」という見栄(?!)もあるし、カッコイイ映画レビューを書きたいという欲もある。そんなときに役立つ本をご紹介します。

好き勝手に語る本に比べたら面白さはアレですが、「なるほど、この映画はこういう見方が!」と勉強になる本たちばかりです。

『アメリカ映画100シリーズ(80年代/90年代/ゼロ年代)』

渡部幻さん、佐野亨さん、町山智浩さんほか映画評論家による各年代の重要作品を100本選出し、それぞれの作品の解説と、その時代の「アメリカ社会と映画」を論じた名編です。

(*同シリーズでs60年代と70年代もあります)

『映画のどこをどう読むか』(2006年/ドナルド・リチー)

映画を見て「面白かった」だけじゃいかんな、と思い「批評」を独学で勉強しようと思い立った時に手に取ったのがこちらの本です。

初版は1984年。日本映画に造詣の深い評論家ドナルド・リチーさん(1924-2013)が10本の映画から、映画監督が自分が見せたかったものをどんな方法で見せたのかを解説した本です。

昨今、映画批評家は煙たがられたり嫌われたりする存在ですが、この本を読むと「批評は愛なのだ」と思えてきます。深い深い、映画の奥深さの探求のガイド本。おすすめです。

『仕事と人生に効く 教養としての映画』(2021年/伊藤弘了)

この本は映画の見方をわかりやすく指南したものです。「映画の見方なんて自由でいい!」は、たしかにそうなんですが、これを読むと「そういう見方もあるのか」「映画ってこういう見方をするともっと面白くなりそうだ」という素直な発見があります。

古典、名作といわれる作品のほか、『海街diary』や『ボヘミアン・ラプソディー』など新しめのメジャー作品も取り上げられています。映画レビューの書き方としても有用な内容(最終講 「あなたの感想が世界を変える―情報を整理し、表現する力」)の1冊です。

『ヨーロッパを知る50の映画』(2014年/狩野良規)

アメリカ映画とはまた別の魅力のあるヨーロッパ映画。本書は50本の映画を通じてヨーロッパの文化やヨーロッパの人々の人生観などを論じたものです。

トリュフォー、ゴダール、シャブロル、といったヌーヴェル・ヴァーグはもちろん、カウリスマキ(フィンランド)、ベルイマン(スウェーデン)、ブニュエル(スペイン)、フェリーニ、ヴィスコンティ、アントニオーニ(いずれもイタリア)、タルコフスキー(ロシア) )、ワイダ(ポーランド)といった知っているとちょっと”通”ぶれる監督の名作を解説しています。

(*同著者による続編『続ヨーロッパを知る50の映画』もあります)

『ドイツ映画の基礎概念』(2022年/古川裕朗)

ドイツ、特に戦後の現代ドイツ映画を深掘りするための1冊です。
なかなか難しめな内容ですが、『グッバイ、レーニン!』『善き人のためのソナタ』ほか好きなドイツ映画の深い解説はかなり勉強になりました。

『映画にみる心の世界』(2007年/中村道彦)

厳密にいえば映画のガイド本ではないのですが、非常に有用な1冊なのでご紹介します。
精神科医である著者が映画の中で描かれている心の世界を解説した本書。『カッコーの巣の上で』『サイコ』『タクシー・ドライバー』といった”いかにも”な映画のほか、この映画にもそんな見方が!という1冊です。

その他(書籍名、著者名だけのご紹介)

『シネマ頭脳』(2002年/ロバート・グラッツァー)
『現代映画ナビゲーター』(2004年/鬼塚大輔、新田隆男・編)
『映画史を学ぶクリティカル・ワーズ』(2003年/村山匡一郎・編)

ザックリした情報なら、映画データ本

『ぴあシネマクラブ 外国映画編2004-2005』

2008年の休刊まで毎年発売されていたコレ。「ソフト選びのための映画辞典」とあるように、電話帳並みの分厚さに12,000本以上の映画データが掲載されています。

監督、脚本のほかカメラマンや音楽のリストも。ネット社会の今、もう本として更新されることはありませんが、一家に一冊はあってもいいんじゃないか(弱気)と思う1冊です。

『[洋画]ビデオで見たいベスト150』(1992年/ 淀川長治・佐藤有一)

日本を代表する映画評論家、淀川長治さん(1909-1998)の数多ある著作の一つ。雑誌「映画の友」の編集者、佐藤有一さんとともに淀川先生がチョイスした150本の名作の解説です。

佐藤さんによる短めの「あらすじ(物語)」と「解説」「俳優」+淀川長治のONE POINTという構成です。

週刊文春「シネマチャート」全記録(2018年/週刊文春・編)

1977年にスタートした週刊文春の映画評「シネマチャート」の40周年を記念して発刊された総ガイドです。初代の池波正太郎さん、小森和子さん以下、歴代の29名の評者たちの短評とともに洋画ベスト200と邦画ベスト50が選出されています。

映画特集なら買い! 侮れないムック本と雑誌

『時代を刻んだ映画300』(2012年/ニューズウィーク日本版)

1912年ハリウッドに映画スタジオが誕生して以来100年。映画が時代をどう映してきたかをまとめたものです。戦争やクーデターなど世界を大きく動かした出来事と映画をリンクして理解できる1冊です。

『懐かしき俺たちのアメリカン・ニューシネマ』(2017年/GEIBUN MOOK)

『イージー・ライダー』『明日に向かって撃て!』など1960年代後半から70年代のアメリカン・ニューシネマと呼ばれる作品のガイド本。写真も多めです。

『TSUATAYAシネマブック』

2018年まで毎年発刊されていたTSUTAYAの映画特集本。当時の話題作ほか映画好き著名人のおすすめ映画などが紹介されています。これで200円という破格の値段。休刊が惜しまれます。

その他

「POPEYE」や「&Premium」「BRUTUS」(ともにマガジンハウス社)の映画特集号は買いです!業界人、批評家、映画好きのコアな映画談義が楽しめます。

まとめ

本離れが進む今、映画を語る場はTwitterなどSNSが主戦場となっています。
さまざまな好みや価値観の人々が目にする場では尖ったことも言いにくく、当たり障りのない、迎合的な語りになってしまうのもしかたがないのかもしれません。

今回紹介した古い本にはそんな配慮(?)のないもの(ネットだったら炎上必至)もありますが、これも映画の楽しみ方の一つとして、これからも愛読していきたいと思います。


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