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ホラーや怪談はお好きですか? ほんとうに怖いものは何か

夏に怪談話をするのは江戸時代の民俗芸能に端を発し、「お盆」に帰ってくる亡くなったご先祖様の「鎮魂」のため、だそうな。

怖い話で鎮魂ってー、「どうせ帰ってくるなら楽しい話でもしようよ」という気にならなかったんですかね、まったく。

で、こちらは怖い話が苦手で小心者で小動物のような私が、なぜか怖い怖い「井戸」について書くことになり、恐怖におののきながら書いた話でございます。どうぞご査収ください。

怪談やホラー映画でおなじみの井戸

怪談話やホラー映画では、「井戸」がどのように描かれているのかを確認しておきましょう。

まずは 『播州皿屋敷』 怖い話は苦手なので超ザックリと説明しますと、

室町時代に細川家の家老・青山鉄山が、城主の座を奪おうと策略を練っていたところ、それを立ち聞きしてしまったお菊さん。鉄山はお菊さんが管理している家宝の皿の一枚を隠し、お菊さんに罪を着せて抹殺したあげく、井戸にドーン!

その後、お菊さんの幽霊が現れ「いちま~い、にま~い、……一枚足りな~い」という有名なアレです。

怪談話からもうひとつ『番町皿屋敷』

こちらの舞台は江戸時代。某屋敷の下女、お菊さん(またかいっ!)が、主人が大事にしていたお皿を割ってしまいます。激怒したご主人は罰としてお菊さんの中指をチョーン、からの井戸にドーン。

その後、お菊さんの幽霊が現れ「いちま~い、にま~い、……一枚足りな~い」という有名なアレを繰り出します。

つまり、これは『播州皿屋敷』のリメイク版でしょう。

で、次は映画から。

『リング』です。『リング』の貞子、いや、貞子の『リング』です。

大ブームとなりシリーズ化された映画ですが、私はシリーズを通して1本も見ておりません! 怖いから!原作(鈴木光司作)も読んでおりません! 怖いから!

ザックリと説明しますと、透視とか念写とか、なにやらスンゲェ能力を持ったサイキック女子、貞子が男に殺害され井戸にドーン。その後、あの「呪いのビデオテープ」が生まれ、それを見た人が次々に亡くなってしまうという有名なアレです。

もし井戸がなかったらー、

お菊さんも貞子も、殺害されて放り込まれた場所が井戸でした。つまり、井戸は、彼女たちの怨念の象徴として描かれているわけですね。

犯行の詳しい経緯はわかりませんが、おそらくお菊さんも貞子も、たまたまそこに井戸があったから放り込まれてしまったのではないでしょうか。もし井戸がなかったら、お菊さんは裏山に埋められるか、川に流されるか、焼かれるかー。いずれにしても、お菊さんの恨みが消えることはなかったでしょう。

お菊さんとて、井戸だから成仏できなかったわけではなく、井戸だから化けて出てきたわけではありませんよ、たぶん。

もし井戸がなく、お菊さんが裏山に埋められたとしたらー、

「いちま~い、にま~い、……一枚足りない」という声は、山から聞こえるのです。

「いちま~い、ま~い、ま~い……」

こだまでしょうか。(by 金子みすゞ)

よほど怖くないですか?

もし井戸がなく、お菊さんが川に流されたとしたらー、

「いちま~い、にま~い、……一枚足りない」という声は、川から聞こえるのです。

あるときには小川のせせらぎのようにサラサラと(皿だけにね)。

あるときは増水した川の濁流まじりの轟音のように「いぢま~い! にま~い!……たんねーんだよ、一枚!ゴラァぁぁ!」と。

もう、めちゃ怖い。

もし井戸がなく、お菊さんが焼かれたとしたらー、

「いちま~い、にま~い、……一枚足りない」という声は、粉塵となって飛散した灰の中から聞こえるんですよ。

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そりゃしんどいですって。

では、貞子の場合はどうでしょう。

もし井戸がなかったら、貞子はどこから出てきますか?

「水道の蛇口」ですよ。怖っ!

朝顔を洗おうと蛇口をひねったら、そこから貞子が出てくるんですよ。

シャワーの場合は、シャワーヘッドの小さな穴から「プチ貞子」がたくさん出てくるんですよ。

怖い怖い。もう蛇口ひねられんって。

古いマンションや団地の場合は、貯水槽がありますね。あの中に貞子スタンバイ!ですよ。

水道メーターの検針にやってくるのも貞子。「♪来ーる、きっと来る~」って歌いながら2ヶ月に1回やってきますよ。委託の貞子が。

水道局員も、みんな貞子。問い合わせたいことがあってお客様センターに電話したときも、出るのは貞子。コールセンターの貞子。「この通話は、内容の確認と応対品質の向上のため、録音させていただきます。あらかじめご了承ください」と先手を打ってくる貞子。

全国各地で生み出された可愛らしい水道マスコットもすべて貞子に変更。ゆる貞子。

ダム建設も貞子。ガテン系の貞子。ニッカポッカ着用で機敏に動く貞子。仕事終わりのワンカップが楽しみな貞子。

怖い、怖すぎる。

想像が「恐怖」を作り出す

もし井戸がなかったら、めちゃくちゃ怖いことになるのです。つまり井戸が怖いんじゃなくて、怖いのはお菊さんや貞子。

しかし被害者であるお菊さんや貞子本人に対して「アンタ怖いよ」とは言いにくい。なので、たまたまドーンと放り込まれた井戸に怖さを反映させたのでしょう。

ですが、考えてみれば井戸もいい迷惑です。

「さて、今日も一日よく働いたな。みなさんに水を供給したし、明日も頑張るとするか! おやすみな……、」

ドーン!

と、お菊さん(の死体)や貞子(の死体)が放り込まれるわけですよ。

「ムリムリムリ!人は無理って!ここ水だけっ!」
と思ったはずですよ、井戸も。

「すいませんが、出ていってくれませんか?」

「いや、無理よ。私もう動かれんもん」

「えーっ、困りますね。水質に影響が……」

「ちっ!わかったわよ。あー世の中、冷たいね。被害者に対してこの仕打ち。出ていけばいいんでしょ、出ていきますよ」

ってなことで、痛む心と身体を引きずって、お菊さんや貞子は井戸から這い出たんでしょう。

そう考えると、お菊さんも貞子も怖いわけではありません。ましてや井戸は怖くない。

「井戸が怖い」は、「見えないもの」「よくわからないもの」に対する想像が作り出した恐怖にほかなりません。正体が見えないために、それが自分にどんな影響をもたらすのかがわからない。害になるのか、脅威となるのかー。だから怖いんです。

想像が作り出す恐怖ー。

つまり、一番怖いのは、妙な想像ばかりしてしまう自分なのです。


というわけで、ホラー映画が苦手な私ですが、これだけは外せない必見の1本をご紹介します。

映画『サイコ』(1960年)

アルフレッド・ヒッチコックの代表作のひとつです。

会社のお金を着服した女性マリオンは、恋人の元に向かう途中でノーマン・ベイツが経営するモーテルに投宿。が、そこでマリオンは老女に殺害されます。(有名なシャワー中のあのシーンです)

マリオンを探し、このモーテルにたどり着いた私立探偵も老女によって惨殺。あのモーテル変じゃね?と思って乗り込んだ恋人サムは、モーテルの裏の屋敷に住むノーマンの母親を訪ねますが、地下室の椅子に座った老女はすでにミイラで、そこにやってきた女装のノーマンがー。

オチも有名なこの映画。

私がはじめて見たのはTV(おそらく「日曜洋画劇場」でしょう)で、その当時は「ノーマンは母親に憑依、支配されている」というサイコなオチが理解できないほど子供で、ただただ襲われて殺されるシーンと、後ろから声をかけた老婆がミイラとわかるシーンにビビってチビったわけですよ。

で、大人になってオチもちゃんとわかって見たところー。

やっぱり、むちゃくちゃ怖いやん!


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