見出し画像

【旅日記】カンボジアの旅(3)美しきクメールの伝統織物

「勉強しまっせ」を狙いに行けば…… ~ローカルの市場巡り~

普段から体を鍛えて、体力に自信のある人ならともかく、運動不足でメタボ予備軍の代表みたいな私(苦笑)が、午前中いっぱいアンコール遺跡群を満喫すると、マジで疲労困憊します。

そこで、午後から元気に旅の続きを楽しみたいなら、少し午睡をとるのが一番の近道。できれば、宿に戻って速攻バタンキュー(死語⁉)ではなく、ゆっくり湯舟に浸かって、疲れた筋肉をほぐしたいものです。なので、下着や簡単な着替え類は、やや多めに用意していった方がいいでしょう。

旅慣れた人なら、お気に入りの入浴剤を持参することもありますね。私は次回、海外旅行に出かける際には、クエン酸+オブラートを持っていくつもりです。疲労回復に、クエン酸は最強!(マジか)

さて、本題に入りましょう。ホテルの前で拾ったトゥクトゥクで、Old Marketへ。車内に乗り込む前には、必ず行き先を伝えて、値段の交渉を済ませておくこと。多少値段が上下するのは想定内として、少なくとも目的地で降車した後、法外にぼったくられる心配はありません。

シェムリアップは、何といっても観光地です。カンボジアの公式通貨はリエル(Riel)ですが、ここではUSドルの方が通用しているのだとか。確かに、値札にはUSドルとリエルが併記されていました(ドルだけの場合も)。

私は海外に行くと、必ずストールやスカーフなどの布織物をゲットすべく、市場で物色します。その国や風土が生み出した美しい民族文化が身近な形で凝縮されたのが、布織物だと思うんです。現地の女性たちによって丹念に織られた、エキゾチックな手織りの紋様がなんとも……(いや、ここではあえて「機械織りもフツーに結構売ってるじゃん?」という、夢のないことは言ってはいけない)。

せっかくなので、自分&母親の普段使い用にと、カンボジアの人々も日常生活で愛用する「クロマー」という柄入りの万能布をまとめてドン! と大量購入。もちろん、儀礼的な値切り交渉を経て、“はじめてのおつかい” in シェムリアップをクリアしました。

布織物以外にも、実は雑貨類も好きなのですが、とにもかくにもOld Marketで売られているのは、文字どおり粗製乱造されたアンコール・ワットのミニチュアとか、取るに足らないガラクタ系が大半という印象でした(失礼!)。

むしろホテルのほど近くにあった、現地の職人やアーティストの手による民芸・工芸品の屋台が立ち並ぶ、Made in Cambodia Marketという小ぢんまりとしたマーケットの方が楽しめました。ここでは、値切ろうと試みても「すみませんが、れっきとした地元のアーティストたちが手で作っているので、値切り用の物ではありません」と、明確な理由を述べられて断られます。特にぼったくってやろうとか、あるいは値切りが嫌とか、そういったネガティブな雰囲気では決してなく、正真正銘のクオリティーであることは、帰国して実際に使ってみてからも実感した次第。

Tripadvisorなどのレビューでも、ここは予想に違わず高評価を得ていますね。意外と穴場だったかもしれません。例えば国内旅行で見かけるような、美しい技巧で作られた箱根の寄木細工などもそうでしょう? 腕のよい職人さんたちには、敬意を払いつつ、お金も払うべし。

このMade in Cambodia Marketには、数日間のシェムリアップ滞在中に足しげく通いました。女性の職工さんによる手織りの実演コーナーもあり、面白くていつまでも眺めていられます(あまりに長居しすぎて、同伴者に呆れられたほど)。お目当てはもちろん、クメール織のストールやスカーフです。先ほどご紹介した、庶民の味方的なクロマーとは打って変わって、こちらはどれも美しい紋様に彩られた、クメール民族文化の香り高い「民芸」といっていいでしょう。

何本か入手した中で、こちらがその一例。数あるクメール織の中でも、Lboeuk(「ルボーク」と発音するのだろうか?)というダイアモンド形の幾何学的な紋様です。その洗練されたデザインは、結婚式などの公式の場や宗教的な場で人々が纏うスカーフや衣服にも、あしらわれることが多いとか。私はその年の冬に、これを首に巻いて通勤していました。

画像6
ダイアモンド形の幾何学的なクメール紋様「Lboeuk」

古今東西の文様データを開発・販売している「文様百趣」というオンラインショップ(運営元:東洋美術印刷株式会社)によると、このような幾何学的な紋様の布は:

神秘のクメール織といわれます。カンボジアの絹は、種類がかなり良質だったようです。模様にクセがなく、造形の原点とみえます。

文様百趣」より

と書かれており、伝統的なクメール織がいかに高い織物文化であったかをうかがうことができます。

古きよきアジアの伝統手織り工房

次に目指すのは、Old Marketのあるシェムリアップ中心街からトゥクトゥクで10分ほど走った所にある、クメール伝統織物研究所。一般的な日本人旅行者のバイブル『地球の■き方』に載っていて、ここはぜひ訪れてみたいと目星を付けていた所です。

クメール語、英語に加えて日本語も併記されているのは、この施設の創始者が日本人だったから(詳細は後述)。

画像1
クメール伝統織物研究所の入口にある多言語表記の看板

どんな所だろうか、もしや観光地バリバリの勧誘の洗礼を受けるのでは……と半ば疑心暗鬼になりながら、恐る恐る中へ入ってみれば、とんでもない。そこはあたかも時代の時計が止まったような、機織りの女性たちがゆったりとおしゃべりに興じながら勤勉に手を動かしている、昔ながらの温かい風景が広がっていました。

1階の工房では、クメール伝統の糸紡ぎや機織りの実演を見学できます。控えめに「写真を撮ってもいいですか?」と尋ねてみると、屈託のない東南アジアの満面スマイルで「OK、OK」と返してくれました。それではお言葉に甘えて、中の様子をご紹介していきましょう~。

画像2
クメール伝統織物研究所の1階にある工房では、女性たちが手を休めずに歓談

これぞまさに、古きよきアジアの姿ではないでしょうか。猫がちょこんと横でくつろいでいるのも、何ともいえない、ゆるふわな雰囲気がありますね。女性たちが座っている敷布にもまた、ぞれぞれにユニークなクメール紋様があしらわれています。

ガッタン、バッタンと、木ならではの優しい音を立てながら、一筋ずつ糸を通していく律儀な手つきは、どこか木下順二の『夕鶴』の一場面を彷彿とさせました(妄想爆走中)。

さあ、2階に上がってみましょう。こちらは展示場兼土産物店といった風情です。階下で織られた絹布も販売されており、上質な絹製だけに、Old Marketで大量に売られている綿製のクロマーとは一線を画して、お値段もなかなかのものとなっています。

そりゃそうだ。手織りでかかる手間と時間、そして素材のクオリティーなどを考えると、これでも安いくらいじゃないだろうか。コスパなんてみみっちい言葉はクソくらえ。それにしても、素晴らしい出来栄えではないですか!

画像3
工房で織られた絹織物
画像4
研究所について紹介する写真や、展示された作品

そもそも、このクメール伝統織物研究所(Institute for Khmer Traditional Textiles:IKTT)というのは、京都生まれのテキスタイル職人である森本喜久男氏により、1996年に創立されました。1970年~1993年の長いカンボジア内戦下で失われかけようとしていた、クメール伝統の絹織物の復興に力を注いだ人物です。

この工房の他にも、彼は荒れ地を開拓して養蚕や綿花栽培をしたり、自然染料の素材となる木々を植えたりと、現地の人々がクメール伝統の染織を生業としながら自給できる工芸村をつくったそうです。こうして人間の暮らしと自然環境を再生するために、森本氏らが現地の人々と協力して実現させたのが、IKTTのプロジェクト「伝統の森」でした。

これらの功績により、森本氏とプロジェクトは国内外でも表彰されていますが、そのことを知っている日本人がいったいどれだけいるでしょうか。自己アピールする能力に長けている、声の大きい人間ばかりがもてはやされがちな昨今の日本ですが、クメール織を再興しようと地道に尽力した森本氏は、実に素晴らしいですね。中村哲さんがアフガニスタンで現地の人々の生活向上に貢献したように、世界のどこかで、まだまだ多くの知られざる日本の人々が慎ましく生きておられるのかもしれません。

今日は最後に、再び中心街に戻ってシルク専門店に寄ってみました。お店の前に立っていたこの人(人というか首なしマネキン)、何と素敵なドレスをお召しになられまして⁉ 欲しい~たまらんのぉ~。しかし確実にサイズが合わないのが一目瞭然だったため、その購買欲は割愛することに。

ここでも、クメール紋様のあしらわれたシルク製のストールを、2点入手。しかし、どんだけ布買うてんねんー(自分)。

画像5
通りがかりで見つけたシルク専門店の入口にあるマネキン

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?