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“NOT A HOTELらしさ”の追求と売上へのコミットの両立。マーケッターと編集者らが挑むブランドづくり

HR主催のトークイベント「NOT A HOTEL TALK」。建築やソフトウェア、ビジネス、クリエイティブ、NFT、サービス運営など、毎回異なるテーマで
NOT A HOTELをブレイクダウンしています。

第9回目となる今回のテーマは「NOT A HOTELマーケティングチームが明かす『ブランドの届け方』」。これまであまり世に出ていないNOT A HOTELマーケティングチームは、マーケターや編集者など少数精鋭で構成されています。

今回のイベントでは、「NOT A HOTELのブランド」をテーマの軸に据え、ECを主戦場にした販売体験設計、SNS等での見せ方、今後のマーケティング戦略などについて深掘りしていきます。あまり明かされてこなかったマーケティングチームの体制や実態と合わせてお伝えします。

⭐️コンテンツ
・ピッチ
 ①NOT A HOTELマーケティングチームの現在地:山口 琢磨(Marketing)
 ②「ブランドらしさ」を届けるためのコンテンツディレクション:中牟田 知樹(Marketing)
・クロストーク
・Q&A

⭐️登壇者
・山口 琢磨(Marketing Team マーケッター)
・中牟田 知樹(Marketing Team 編集者)
・西丸亮(PR/HR)※ファシリテーター


【ピッチ1】NOT A HOTELマーケティングチームの現在地:山口 琢磨(マーケッター)


山口 琢磨:佐土原高校卒。アラタナにてSaaS型ECシステムの営業、ディレクター、ECコンサルを経て、株式会社mtc.でCRM領域のコンサル、ディレクターに従事。22年9月NOT A HOTEL参画。

最初のピッチに登壇した山口は4名の少数部隊であるマーケティングチーム全体の取りまとめを行なっている。NOT A HOTEL入社前のキャリアとしてはEC/WEBを中心に、いわゆるCRM領域・MAを活用したメール・サイト内接客のプランニング・ディレクションを行なってきた。

マーケティングチームのミッションと取り組み

山口が率いるマーケティングチームのミッション

マーケチームがミッションに掲げるのは「NOT A HOTELのファン(共感者)を増やすこと」。共感してもらえる人の総量と熱量を上げていく。それによって、マーケティングの役割である「売れる仕組み」「セリング(売り込み)を不要にする」状態を目指している。

NOT A HOTELのミッション「すべての人にNOT A HOTELを」

NOT A HOTELが顧客として想定するのは一部の富裕層だけではなく、すべての人々だ。それもあり、「NOT A HOTEL MEMBERSHIP NFT」のような、毎年一泊から宿泊いただけるプロダクトも提供している(※現在は販売終了)。ミッションを達成するためには、NOT A HOTELを提供することでどんな世界を作ろうとしているのか、顧客の人生をどう面白くするのかに共感してもらう必要がある。


「共感を生み出すこと」が大前提にあるので、効率的な売上の追求だけに固執しない。NOT A HOTELがあることによって住環境が自由になり、人生が豊かになる世界ーーその世界観を実現し、表現するためにブランドをつくっている。

上記は今まで対外的に明かされていなかった、ビジネスチーム全体の体制と役割を表した図だ。まずは大きくビジネス開発と販売で体制が分かれている。今回のセッションでは販売に焦点を当てて説明していく。NOT A HOTELの体制は『THE MODEL』(福田康隆著、翔泳社)で提唱されるモデルに近く、マーケティングとセールスの配置が近い。

山口:上記の図では左から右へいわゆるお客さまのファネルが流れていくイメージです。まずは我々マーケティングチームで新規のお客さまの認知を獲得。お客さまから資料請求をいただいたり、販売に即した説明会に参加いただき、新規のお客さまとの接点を増やしていきます。そのお客さまに対して、「インサイド」と「フィールド」に分かれたセールスチームと密にコミュニケーションを取りながら、ご契約まで連携していきます。契約いただいたオーナーに関してもロイヤルティを高めて関係性を構築していく。それにより追加の購入やご紹介いただける機会を増やしていこうとしています。そうした一連の流れの最初の起点になる部分を、我々マーケティングチームで担わせていただいています。

マーケティングチームが掲げるKGIとKPIは上記のようにシンプルだ。一方、山口が繰り返すのはこうした経営指標だけを追うのではなく、あくまで「共感いただける方の数と熱量をつくっていく」ためのブランドづくりを見失わないことだ。

上記はマーケティングチームが担う領域を列挙した図である。NOT A HOTELを「認知してもらい、興味を持ってもらい、購入していただく」までの体験をなめらかにするためにあらゆる施策に取り組んでいる。WEB以外のコミュニケーションではパンフレットを作成したり、イベントを運営するなど幅広い。

『Casa BRUTUS』と共同で取り組んだ特集本

では、NOT A HOTELのブランドづくりのために具体的にどんなことに取り組んできたのだろうか。山口は今年の一月に『Casa BRUTUS』と共同で取り組んだ特集本を紹介する。この特集は別冊まるまるNOT A HOTELをフィーチャーした内容になっており、NOT A HOTELの各拠点が紹介されている。

山口:去年の11月に青島が、12月に那須が開業。それにより今まではCGでしかお客さまにお届けできていなかったNOT A HOTELをようやくお披露目できるタイミングでした。より多くの人に届けるために『Casa BRUTUS』さんとの企画が立ち上がったんです。当時はまだマーケティングチームには僕しかいなかったのですが、ちょうどいいタイミングで今日も一緒に登壇している編集の中牟田が入社しました。彼がいなければ世に出ていなかったとさえ思うので、本当に絶好のタイミングでしたね。

NOT A HOTEL MEMBERSHIP NFTのLP
NOT A HOTEL MINAKAMI TOJIのLP

販売サイトと呼ばれる物件のプロダクトページにもマーケティングチームとして関与。お客さまとのタッチポイントに介在しながら、最適なコミュニケーションのつくり方を探っている。最近の象徴的な取り組みとしては、タクシー広告で流すために制作した動画がある。完成する直前まで、コピーの一文字レベルにこだわったという。

都内23区のタクシー車内で配信された映像広告

NOT A HOTELのマーケティングだからこそできること

土地の仕入れから始まり、そこに立てる建築の設計、泊まってもらうオーナーの体験を向上させるためのスマートホームをはじめとしたテクノロジー開発。はたまた、おもてなしのための料理の提供を含むホテル運営、購入いただいた方とのリレーションづくり、購入検討者のためのイベント企画などなど。NOT A HOTELの事業は多岐にわたるが、プランニングからディレクションまで自社で一気通貫して行なっている。だからこそ、「ユニークなアウトプットが生まれる」と山口はNOT A HOTELならではのマーケティングの醍醐味を語る。

山口:NOT A HOTELには一級建築士、ソフトウェアエンジニア、そしてシェフまで多種多様なジャンルの第一線のプロたちが集結しています。マーケティングチームとしてはそうしたプロフェッショナルたちによってつくられるNOT A HOTELというサービスをどう世の中に届けていくのかを担っています。マーケティングチームも四名中の二名が編集バックグラウンドという珍しいチーム構成です。なので、僕らはコピーをはじめとしたクリエイティブにとてもこだわりを持っています。異能が集まるNOT A HOTELだからこそ取り組めるマーケティングとクリエイティブづくりはプレッシャーもありますが、間違いなく面白いです。

NOT A HOTELのマーケティングのイシュー

ピッチの最後のテーマとして山口が取り上げたのが、「NOT A HOTELのマーケティングのイシュー」。繰り返しになるが、マーケティングチームは「認知・興味・購入」と販売における一連の体験をなめらかにすることを担っている。

販売当時のNOT A HOTEL NASUのCGパース

上記は「NOT A HOTEL NASU」販売時のCGパースだ。NOT A HOTELでは建築が完成する前段階の、CGの状態で商品を販売している。山口自身、実際にNASUが完成してから現場で目にしたからこそ「実物がCGパースを超えたこと」を体感できた。実際のモノがまだ存在しない段階で、お客さまに安心して購入してもらうのは最重要課題となる。

山口:まずはWEBでのコミュニケーションを通じて、NOT A HOTELがどのように土地に根ざしているか、お客さまはどんな生活ができるかをイメージしてもらうためのご紹介をする。加えて、今後力を入れていきたいのはリアルな場でのマーケティングです。NOT A HOTELは今後拠点も増えていくので、それぞれの場所で実際に体験いただき、手触りを感じてほしい。まだ建っていないモノでも安心感を覚えて買っていただくコミュニケーション体験の全体像を設計していく。オンラインとリアルの双方からNOT A HOTELに触れていただける方の総量を増やしたいと考えています。もちろん簡単なチャレンジではないですが、難しい領域だからこそやりがいがあります。

【ピッチ2】「ブランドらしさ」を届けるためのコンテンツディレクション:中牟田 知樹(編集者)


中牟田 知樹:上智大学総合グローバル学部卒。新卒で出版社マガジンハウスに入社、anan編集部で女性誌『anan』の編集に携わる。22年12月NOT A HOTELに参画。

続いて、「『NOT A HOTELらしさ』を届けるためのコンテンツディレクション」をテーマに登壇したのは編集者としてマーケティングチームに所属する中牟田。中牟田は前職の出版社で雑誌編集の経験を持つ。NOT A HOTELが発信する文章表現を中心に、WEBから映像まで細部にこだわったコンテンツディレクションを担っている。

それまで社内にはいなかった編集者という役職で入社した中牟田。ジョインしてすぐの面談で、代表である濱渦から「(中牟田の仕事は)“NOT A HOTELを編集する”ってことですよね」という言葉を投げかけられた。

NOT A HOTELにおける「編集者」の役割とは

事業会社における「編集」という言葉は曖昧であるが、だからこそ「自分自身で解釈できる」と、濱渦の言葉は現在に至るまで仕事の指針になっていると中牟田は語る。そのうえで、中牟田はNOT A HOTELにおける編集者の役割として大きく二つの仕事に整理する。

中牟田:NOT A HOTELは創業から三年の会社のため、まだ『らしさ』が明確に定まりきっているわけではありません。そこで、メディア側にいた自分がその『らしさ』を探る役割を担っていると自覚しています。そのうえで、NOT A HOTELが発信する情報やコンテンツを実際に編集・制作しています。

上記は創業から現在に至るまで、“NOT A HOTELらしさ”がいかに形成されてきたのかを簡単に整理した図だ。2020年の創業時は代表である濱渦のアイデアから始まり、初期メンバーが試行錯誤しながら「別荘でも、ホテルでもない」という新しいコンセプトのサービスをつくってきた。2021年に最初の物件をCGパースの段階で販売スタートし、そこに携わる建築家の方々の関わりも“NOT A HOTEL”らしさを醸成する一助となった。また、販売開始以降にNOT A HOTELを知った方や購入した方のSNSにおける反応や声も、ブランドイメージが深まる要素となった。

中牟田:僕が入社したのはちょうどAOSHIMAとNASUが開業した時期です。それまでCGパースしかなかったところから、実際に建築が完成し、空間が体験できるようになった。それよって一気にイメージが具体化したものの、まだまだ“NOT A HOTEL”らしさは明確ではないと思っています。

“NOT A HOTELらしさ”を探り、つくり出すために

時間をかけながら日々の活動からブランドイメージが積み上がっていくなか、中牟田が“らしさ”を考えるヒントの一例として挙げたのが上記の項目だ。まだまだ定まりきっていないブランドイメージの、源泉となるような共通点や特徴を日々探している“NOT A HOTELらしさ”を常に念頭に置きつつ、細部までこだわりながらクリエイティブに向き合う。“らしさ”にこだわりながら制作した具体例として中牟田は三つ挙げる。

まず一つ目が会社資料だ。サービス初期段階はGoogleスライドなどの既成サービスで資料を運用していた。しかし、NOT A HOTELの商品は高価格帯なため、会社や商品を説明する資料も洗練したものへアップデートするべきと考え、デザインを加えた資料に切り替えることに。具体的な作成プロセスとしては、NOT A HOTELのWEBサイトが持つトンマナを引き継ぎ、簡潔なテキスト表現や図式を使用した視覚表現が用いられた。

二つ目の例が「TOJI - NOT A HOTEL MINAKAMI」の販売サイト。建築部のメンバーや外部パートナーであるCG制作会社と連携し、180°に広がるパノラマを追体験できるCG動画をWEBサイトのファーストビューに持ってきた。

中牟田:以前までの販売サイトのフォーマットを踏襲するのも一つのアプローチではありますが、同じやり方だと没個性になってしまう可能性があります。そこで、この「TOJI」の販売サイトをつくるタイミングで、改めて基本的な表現についてディスカッションを行いました。その結果、今までの流れを一旦リセットし、文章やテイストを現時点で最も”NOT A HOTELらしい”表現にアップデートしました

最後に紹介するのがオウンドメディアだ。NOT A HOTELのプロダクトは日本全国に点在するものの、すべての土地がメジャーな観光地というわけではない。そこで、建築だけにフォーカスを当てるのではなく、土地ごとの魅力を掘り起こし、お客さまに適切に伝える必要があった。そこで立ち上げたのがオウンドメディアである。


中牟田:僕ともう一人の編集メンバーで実際に現地に足を運び、現地の観光協会やお店の方々に取材させていただき、その声を記事に落とし込んでいきました。NOT A HOTELが「雑誌をつくったらどうなるか?」を念頭に記事を制作しています。また、NOT A HOTELのテック感を演出するため、写真を自動で流すカルーセルにシークエンスバーをつけて、徐々に写真が変わっていく仕様にしました。こうした細かい工夫の積み重ねによって、それまでなかった新しいコンテンツを制作する際にも“NOT A HOTEL”らしさを生み出していこうとしています。

前のピッチでも山口が触れたように、NOT A HOTELには建築家からソフトウェアエンジニアまで多様な人材が集合し、コラボレーションしながら仕事がなされている。中牟田はそれぞれのジャンルのプロたちが得意分野やスキルを生かしてコンテンツを作っていくプロセス全体が「NOT A HOTEL的ではないか」と指摘。マーケティングチーム内でも、WEBマーケティングに強みを持つ山口をはじめとしたメンバーがいる一方、中牟田ら編集バックグラウンドを持つメンバーはコンテンツの面からバックアップ。“NOT A HOTELらしさ”を醸成するため、一人一人のメンバーが持つスペシャリティが生かせる環境がある。

クロストーク


ピッチ終了後、後半に行われたクロストーク。西丸亮(PR/HR)がファシリテーターを務め、マーケティングチームのリアルな仕事の実像に迫った。

テーマ①:「NOT A HOTELの届け方」のプロセス公開

西丸:まずはマーケティングチームの活動で、クリエイティブに落とし込むところからデリバリーまで、一連の具体的なプロセスをお伺いできますか。

中牟田:ちょうど8月7日にリリースしたばかりのLP「TOJI - NOT A HOTEL MINAKAMI」を例にお話しますね。この物件のリリースの前段階に、代表の濱渦さんと「この物件の推していきたいポイント、コンセプト、理想とするクリエイティブの見せ方」を議論させてもらいました。それと並行して売り方をセールスチームと、見せ方を建築部ともコミュニケーションを取っていきました。そうやって、全社的に物件リリースに向けて動いているのですが、最終的に届ける部分はマーケチームが集約して、情報発信を行います。基本的には琢磨(山口)さん主導で各チームと連携してコンセプトを固めてもらいつつ、僕らでそれを届ける文脈を整えていきました。

山口:たとえばプレスリリース一つとっても、“NOT A HOTELらしさ”が垣間見えます。リリースを受け取ったメディアや個人がそれをどう受け取り、反応をして、最終的にどんな記事にしてもらうのか。世の中に対して与えるインパクトを逆算思考で考えていきます。狙いを実現するために、抽象的な部分を言語化しつつ、アウトプットに落とし込んでいく過程では中牟田君のような編集者が力を発揮します。アウトプットのクオリティに関しては毎回、最後の一行、一文字までこだわり切っていますね。

西丸:具体的な事例として、うまくいった、あるいは苦労したエピソードはありますか?

中牟田:先ほども挙げた「TOJI」のメインコピー「水の建築」は最初にスパンと決まりました。もちろんサイト全体の設計は試行錯誤があったのですが、代表の濱渦さん含め、メンバーの共通認識の土台となるメインコピーが早い段階で決まったのは大きかったです。

西丸:濱渦さんはかなり細かい部分まで深くフィードバックをくれますよね。そうしたフィードバックを受けて、期待を超えるアウトプットを打ち返していくのもNOT A HOTELのクリエイターの醍醐味なのではないかと思います。

中牟田:濱渦さんのフィードバックは心にしっくりくるか、端的に「いいじゃん」と思えるかといったところに素直なんですよね。もちろんそのラリーが大変なこともありますが、「それはお金がかかるからこっちにしよう」みたいな決め方はしない。純粋にいいと思えるものを追求しようとしているので、こちらも負けじと思考を巡らせます。

山口:まさに今、メンバー全員でNOT A HOTELとしてのブランドの人格をつくっているところです。理想としては、NOT A HOTELのメンバーの誰が話しても、NOT A HOTELらしい言動やコミュニケーションが自然と表出してくる。そこに向けた試行錯誤をしているのが現在のフェーズなのだと思います。もちろん産みの苦しみは伴いますが、企業としてはブランドの人格形成に携われる面白い時期だと思います。

西丸:現在はWEBがマーケティングチームの主戦場だと思うのですが、今後、領域の拡張を含めてマーケチームがイメージするゴールについて伺いたいです。

山口:NOT A HOTELのサイトに行っていただき、各商品のページを見ていただくと、「今すぐ購入申し込み」と表示されているかと思います。元々のコンセプトとしても、いわゆるECサイトと同じように、その場でそのまま購入申し込みができるようになっているんです。ただ現状、大多数のお客さまは購入の前にまずは資料請求のステップを踏まれます。個人的に目指したいのは、全てがWEBで完結する世界観。もちろん不動産の売買になるので、重要事項説明は必要です。ただ、それでもマーケティングの全体ファネルのなかで可能な限り、最後のコンバージョンに近いところまでをECで完結させたい。将来的には、高価格帯のブランド商品でもセリング不要で売れる仕組みを目指したいですね。

ただ、まだ道半ばです。僕らのウェブでの見せ方や伝え方が、お客さまにとって分かりやすいものになっているかといえば、必ずしもそうとは言い切れない。そのため、プロダクトの奥行きを伝えたり、建築がある土地の魅力を伝えるためのオウンドのコンテンツは一つの有効なアプローチだと考えています。商品性を含めて分かりやすい価格体験になっているのか、今後も突き詰めていきたいと考えています。

西丸:つまり目指しているのは、いい意味でセールスチームの一部の仕事を奪いにいくことなんですかね。そうすることで、逆にセールスチームはお客さまと向き合える時間が増える。仕事のあり方も変わっていきそうですね。

テーマ②:教えて欲しい、マーケティングチームのシクジリ

西丸:先ほど盛んなフィードバックがあるというお話もありました。NOT A HOTELのクリエイティブの裏にあるプロセスでは、どんなシクジリといいますか、ラーニングの機会がありましたか。

山口:「もっとこうできた」と思うことは日々あります。たとえば先ほど中牟田君が例に挙げた「TOJI」。リリースするプロダクトは「TOJI」をはじめ尖ったものが多いのですが、既存のテンプレートに沿った見せ方が本当にベストなのかはよりじっくり考えるべきポイントです。

西丸:「TOJI」がリリースされた際、同時多発的に外部のメディアさんたちが協力的に取り上げてくれた印象があります。あれを実現するために、事前に巻き込みのためにどんな施策を行ったんですか。

山口:正直、以前まではメディアさんとのリレーションづくりがほとんどできていませんでした。今回「TOJI」をリリースするにあたっては、世の中に反響を生み出したかった。なので、ただプレスリリースを渡すだけではなく、メディアさんを現地に招いて自分たちの口で体験を説明する場を設けさせていただいたんです。いわゆるプレスツアーを敢行したことで、ありがたいことに多数の媒体に取り上げていただくことができました。地道な活動の大切さを改めて学びましたね。

西丸:中牟田さんはいかがですか。

中牟田:新しいビジネスモデルを模索しているからこそ、油断すると抜け落ちてしまう視点がありますね。例えば、外部メディアで物件を紹介していただいた際に、「この表現は不動産広告に当たらないか、そもそも建築確認前にどれくらいの情報を載せていいのか」というチェックの必要性にギリギリで気づいたことがあったんです。僕個人はどうしても「どうやったらより魅力的に見えるか」を考えがちですが、そもそも法務的にOKなのかなど、複数の視点から想像力を働かせなければならないのは、NOT A HOTELならではの経験でした。

テーマ③:インハウスとしてブランドをつくる醍醐味と〇〇と

西丸:最後のテーマに移ります。お二人とも前職ではクライアントワークに従事した経験があります。事業会社であるNOT A HOTELに転職されてから気づいた、インハウスで働く醍醐味について伺えますか。

中牟田:まず事業会社でありながら自社内でコピーライターを募集していたところに魅力を感じました。慣例的に代理店にお願いするのではなく、自社で細かいクリエイティブにこだわりながら、顧客とコミュニケーションを取ろうとしている姿勢に共感したんです。生み出すクリエイティにとことんまでこだわれるのがインハウスの醍醐味だと思います。

加えて、ブランドが確立されていた前職の雑誌とは対照的に、NOT A HOTELはまだまだ若い企業であり、サービスです。究極を言ってしまえば、めちゃくちゃカッコいいブランドになり得る可能性があると同時に、ダサくなってしまう可能性だってある。どちらに転ぶかわからないブランドだからこそ、ヒリヒリ感もありつつ、一つひとつのクリエイティブにこだわり抜く責任感もあります。スリルと責任感が同時に味わえるフェーズであり、環境だと思いますね。

山口:「スリル感」はまさに。もう一つの観点としては、多種多様なバックグラウンドを持つ仲間とコラボレーションするので、得られるフィードバックやインプットの幅がとても広いこと。たとえば、今日なんかはこのイベントの前にセールスとシェフとミーティングをしたし、一緒にマーケチームとして働く牟田君は編集者です。ここまで多様な職種が一堂に会する会社はなかなかないのではないでしょうか。

もう一点、前職との比較で感じることがあります。前職では支援側に立ち、ECサイトを運営されている企業のサポートを行っていました。もちろん当時も事業者目線で考えていたつもりです。ただ、自分たちで仕掛ける事業者側になってみて、先ほど中牟田君が言及していた「スリル感や責任感」を本当の意味で感じるようになりました。クライアントワークでは、ある程度の課題の要件がクライアント側から振られます。たとえば、「この予算のなかで、いつまでにこの売上をつくりたい」など。ただ、NOT A HOTELではその枠組みから自分たちで考えなくてはならない。自ら考えた目標を逆算しながら、チームとしてどう実現していくのか。その起点を担う経験は初めてなので、やりがいを感じていますね。

西丸:最後に、「今、NOT A HOTELにはこんな魅力的な課題があるよ、ここが面白いよ」というポイントをご自身の目標と併せてお伺いできますか。

山口:繰り返しになりますが、NOT A HOTELは今、ブランドとしての人格を探り、組織として落とし込んでいくフェーズです。販売していくプロダクトもどんどん増えていきます。それに伴ってチャレンジする領域も増えていく。エキサイティングなタイミングでNOT A HOTELの一員になっていただけるとすごく面白い経験が積めるのではないかと思います。

中牟田:お手本通りのマーケチームの組織図をつくろうとしていれば、編集者である自分はまだ小規模のマーケチームに入れていなかったと思います。一見すると、歪なチーム構成なのかもしれないですが、杓子定規で採用を考えていないのもNOT A HOTELの面白さだと思います。つくりたいブランドイメージから逆算して、意外と思われるスキルを持っている人さえ採用していくのです。一応NOT A HOTELとして必要だと感じるポジションの募集は行っていますが、「NOT A HOTELならこんなことができそう」と思う人々が集まってきている状態に面白さを感じていますね。

Q&A(当日お答えできなかったご質問も含む)


西丸:ここからは参加者からいただいたご質問に登壇者がこたえていきたいと思います。一つ目の質問は「マーケには絶対解がないし、最適解を探るのが難しい分野の印象があります。お二人がアウトプットの拠りどころにしているものは何ですか?」。

山口:なんだかんだ言っても、僕らのミッションは「売上をつくること」です。マーケティングとしていかに売上をつくる仕組みをつくれるかの視点が拠りどころになります。認知から購入に至る販売プロセスのなか、入り口に近い部分で施策が効果を発揮しているように見えても、最終的に売上につながっていないなら本末転倒です。なので、あくまでも前提に売上にコミットしつつ、同時に“NOT A HOTELらしさ”を追求しながら最終判断を行っています。

中牟田:究極は「面白いかどうか」が判断基準になっていると思います。NOT A HOTELは全ての人に届けることを目指しているので、僕の主観よりも、NOT A HOTELとして面白さを感じてもらえるかを考えるようにしています。やや抽象的ですが、「趣味がいい」と思ってもらえるかどうか。誰かに勧めたいと思っていただけるかを念頭に向き合っています。

西丸:つづいて「NOT A HOTELのマーケターに一番求められることはなんですか?」という質問もたくさん来ていました。いかがでしょうか。

山口: 「NOT A HOTELの」というより、僕の個人的な考え方になるのですが、「素直な心と感謝の気持ち」が大事になると思います。「急に何を言うんだ」と思われるかもしれません。この言葉は僕が中学時代に所属していた野球部のバックネット裏に掲げられていた言葉です。実は僕としては「マーケター」という言葉が正直なところ、それほどピンと来ていません。売上をつくるための仕組みづくりのために何でもやるのがマーケターです。ただ、僕一人だけでは何もできない。
他のマーケメンバー、デザイナー、エンジニア、チームメンバーの力を借りてようやくアウトプットが生み出せる。なので、チームを「掛け算」で動かすことがマーケターの大事な役割だと思っているんです。各方面のプロフェッショナルを巻き込みながら仕事を進める上で、同じ目線で話ができなければ失礼ですし、仕事の質もかけ算になっていかない。もちろん知識やスキルは必要になるものの、根底を支えるのは「素直な心と感謝の気持ち」だと思います。

中牟田:前職で雑誌をつくっていたとき、「この人のつくるコンテンツは面白い」と思える編集者にはある共通点がありました。この人たちは仕事として編集をこなすのではなく、素直に商品や取材対象を面白いと思っていて、その気持ちがコンテンツに反映されていたんです。このときに学んだ仕事への取り組み方をNOT A HOTELでも大事にしています。みてくれを綺麗に整えるより、自分が面白いと思ったことを伝えるため、とことんこだわる姿勢はこれからも貫いていきたいです。

西丸:つづいて「ファンの熱量や数は、どのように計測していらっしゃいますか?」という質問をいただいています。

山口: 明確に定量化できているわけではないですが、InstagramやX(旧Twitter)でのエンゲージメントや反響、コメントなどはチェックしています。特に、新しいプロダクトやキャンペーンをリリースした時の反響はとても注意深く見ていますし、ニュース性のない場合でも、エンゲージメントの高い、逆に低い投稿を見ながら、何が要因で反応が違うのか、なるべく自分の中で落とし込むようにしています。

中牟田:同じくSNSでのエンゲージメントが中心でしょうか。それに加えて、協働する建築家やクリエイターの方々、またその周囲の方々の感想や口コミも参考にしています。感度の高い方々に、NOT A HOTELがどう映っているかは大事な要素の一つだと思っています。

西丸:つづいて「マーケの成果や手応えというのは何を通じて感じられるものなのでしょうか?」という質問をいただいています。

山口: やはり最終目標は売上なので、売上にしっかりと繋がった時が一番ホッとします。あとは、売上の先行指標である資料請求数でしたりSNS上での反響、細かいですがorganicsearchでの流入数など、KPIとして追っているものの数値が狙っている通り動いた時ですかね。なんだかんだ言って私は数字で感じるタイプです。

中牟田:僕自身マーケティング畑にいたわけではないので、そのメソッドや目的自体から勉強している段階です。なので、定量的な成果や手応え的な感覚は薄いのですが、シンプルに成果物のクオリティが評価された時に手応えを感じますね。

西丸:どんどんいきます。「現在はまだターゲットが決して広くない状態だと思いますが、①今後の拡大の展望や、②現在のターゲット規模におけるマーケティングをするうえで意識していることなどあれば教えていただきたいです

山口: 重複しますが「すべての人にNOT A HOTELを」を掲げているので、多くの方に手に取っていただけるように商品性も含めて磨いていく予定です。とは言え、今はまだまだ遠い状態でもあるので、ブランドとしてのマス的なコミュニケーションとピンポイントでセグメントした施策で、人格は統一しながら、言葉や文脈は変えるなど意識しています。

中牟田:ファン形成といった概念とも近いと思うのですが、現在コミュニケーションを取ろうとしている層の方々が、次の規模間のターゲットに口コミで広げていく。そんな熱量を持ってもらえるようなブランド発信ができればと考えています。それが拡大に繋がっていくと思うので。

西丸:最後のご質問になります。「NOT A HOTEL自体が複雑なプロダクトである側面も事実、みたいなお話のなかで、その要因の一部に「NOT A HOTEL MEMBERSHIP NFT」の存在が大きいのかなと思います。このNFTへの理解へ説明への難しさについては、どう乗り越えていっているのでしょうか?

山口:より身近なものに置き換えて説明することかと思っています。NOT A HOTEL MEMBERSHIP NFTも、言い方を選ばずに言うと47枚綴の宿泊券です。ただ、そう言ってしまうととてもつまらない商品になってしまうしコンセプトともずれてしまう。あくまでコンセプト、本質的に感じて欲しい価値をメインで訴求しつつ、検討フェーズでは置き換えて説明する、など、お客様のフェーズに合わせたコミュニケーションは意識してやっています。

中牟田:そうですね。例えばNFTであれば、このメンバーシップを持つとどんな体験やライフスタイルが待っているか。そこを想像しやすくすることが、複雑なプロダクトの魅力を伝えるための第一歩かなと思っています。NFTも、仕組みや背景を伝えることに加えて、まずは「毎年1日、特別な日が増える」という楽しさを訴求できればと思っています。

採用情報


STAFF
TEXT:Ryoh Hasegawa
EDIT:Ryo Saimaru


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