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76回目 "Tell Me How Long the Train's Been Gone" を読む(第5回)。口喧嘩のあとの興奮した議論ーこれはプロパガンダであって「小説という芸術」ではないのか?

今回の投稿では、Book 2 の中心をなすいくつかのエピソードの一つを読み進めます。

本題に入る前に
この劇場がある町で 劇団の Workshop に参加した 18 才になるまでの間、Leo が過ごしたハーレムの地区が、第二次大戦直後の頃にはどんな世界であったのか、その知識を得るために私の見つけた資料がバナー画像に示した PBS の記事です。ニューヨーク市が世界に先駆けて戦後の復興に動き出し、世界を牽引したことが良く分かります。        以上

主人公である Leo と Barbara 、Barbara の宿縁の男友達 Jerry に中堅女優 Madeleine が加わった3人の白人と1人の黒人でなる仲間がイタリアンのレストランでピザの夕食をとり、そこで黒人の2人と意気投合。酔った勢いで黒人地区のバーに車で移動、はしご酒(二次会)におよぶという話です。

場所はニューヨーク市から北方に遠く離れた田舎の中心都市(架空)です。

ピザのレストランでは、この4人+2人の全員が、この場限りとはいえ、心から満足に感じたのでした。以下の通りです。

But connections willed into existence can never become organic. Yet – we all liked each other well enough. (原書 140 頁からの抜粋)
しかし人と人との繋がりはそれが意識的な行動、無理を押しての行為によって実現されたものである場合には有機的なつながりとして根付かないのです。とはいえ、今回の議論にあっては全員が十分に楽んだのでした。

ここでは取り上げなかったものの、この直前にはシチリア島から移住してきてこのレストランを営む家族と、ナポリが祖先の地であったというジェリーがイタリア語で会話し、故郷を共有する者たちだけの世界を味わうシーン、そしてそれを見たレオが自らのデラシネ的側面を苦々しく思うシーンがありました。その結果、上述の「有機的なつながりとして根付かない」の意味が読者である私の頭に強い印象を残しました。


1. 夕食をとレストランに居た 4 人は近くの席で食事していた 2人の黒人男性と気さくに意見を交換し始めることに成功します。

Madeleine マデレイン(32 才くらい)は離婚し8才の女の子を父母に預けて演劇女優としてのキャリアを発展させようと頑張っている emancipated な女性です。Barbara (20 才くらい)と Leo (19 才くらい)はこの劇団への参加候補生。そして二人の友人のジェリー(イタリア、ナポリ出身の男性で 17 才くらい) 。この4人がイタリア出身の親子が営む「イタリアン・レストラン兼バー」で夕食のピザの焼き上がるのを待っていたのですが、別のテーブルで食事をしていた黒人男性、Fowler 28 才くらいと Matthew 18 才くらいの二人と合流し楽しい会話を始めました。

その切っ掛けは、迷った挙句大してお金を持っているでもないのに、この黒人二人のことが気になって、Leo が二人の席に飲み物をプレゼントしたこと、お礼の言葉を発した二人に Madeleine が "Let's have a drink together after we finish eating?" と誘いかけたことでした。

[原文 1-1]'And I,' said Madeleine, 'am opening in a play there five nights from tomorrow night -- would you like to come? Just tell me how many tickets you want ---'
  'And we'll get them for you,' said Barbara. 'You'd be doing us a favour, really. That way, we'll be sure of having at least two people in the audience.'
  'Thanks, sugar,' Madeleine said.
  'They mean,' I said, 'for you to come as our guests.'
  Fowler and Matthew looked at each other. 'Look here,' Matthew said to me, 'are you going to be in this play?'
  'Not this play,' I said.
  'We're just students,' Barbara said. 'We won't be in a play until -- oh, about a month from now.'
  'I'll be gone by then,' said Matthew.'
  'What kind of play you going to be in, boy?' Fowler asked me. He was smiling. There was a shrewd, amused speculation in his eyes.
[和訳 1-1] 「そして私が演劇の開幕公演に登壇することになっています。明日から5日間、連夜の公演です。あなた方来てみたいでしょう? 何枚の切符が要りますか?・・・」とマデレインが誘いました。
  「私たちがその切符を準備してプレゼントしますよ。あなたたちにいらっしゃって欲しいの。少くなくともそれで2つの席が埋まるから。ご遠慮は無用です。」とバーバラが説明しました。
  「ありがとう、バーバラ、その通り。」とマデレインが同意します。
  「私たちはあなた方を私たちのゲストとしてお迎えしますと言っているのですよ。」と私も説得に加わりました。
  ファウラとマシューは顔を一旦向き合わせ、次いでマシューが私に「それで、あなたはその演劇に出演されるの?」と尋ねたのです。
  「いいえ、この公演には出ません。」と私は答えます。
  「私たち二人はまだ学習中の生徒なの。出演は、まだ先のこと、そうね、一か月は先のことでしょうね。」とバーバラが説明しました。
  「私はそれまでここにはいないな。残念。」と返事しました。
  ファウラは私に向かいニヤッとした笑みを浮かべて「一体あなたはどのような演劇に出演するのです?」と少し嫌味な、嘲笑に近い雰囲気を湛えて質問しました。

《訳注》ファウラが、白人の劇において黒人のあなたがどんな役割を果たすのかという不信を抱いていることの暗示。

Lines between line 1 and line 16 on page 134, "Tell Me
How Long the Train's Been Gone", Penguin Classics paper back

[原文 1-2] 'I don't know yet.' I said. 'I've just started.'
・・・・ここで 26 行を省略(Leo とFowler, Matthew の三人(白人以外)の間でしばらく話が続いたことに,「これは不味い」と気付くことにる部分)・・・・
  They began to react to my discomfort. They remembered that there were white people at the table. 'What are you forks drinking?' Fowler asked.
  'We invited you,' said Madeleine.
  'Oh, now, don't you start coming on like that,' said Fowler. 'I asked you what you was drinking.'
  'I can see you're hard man to fight,' Jerry said. 'We'll give you the first round. Madeleine's drinking bourbon. What do you want, Barbara?'
  'Oh, -- I don't know -- whisky. With ginger ale.'
  'And what's your chaser, ma'am?' Matthew asked Madeleine.
  Madeleine opened her eyes very wide, looked resentfully around the table, and then back to Matthew. 'I've been called a great many things in my life,' she murmured, 'but I didn't expect to be called ma'am for yet a while.' Matthew laughed helplessly. 'My name,' she informed him, 'is Madeleine. Have you got that?'
  'All right, Madeleine,' Matthew said. 'I'm sorry. What do you want with your bourbon -- water or ginger ale or soda -- or -- or beer?'
[和訳 1-2] 「私にはまだ良く分かりません。始めたばかりなので。」と私は答えました。

  彼らは私が少し気を悪くし始めていることに気付いたのです。彼らは白人たちもこの席に居ることを忘れていたことに気付いたのでした。そこでファウラは「皆さんは何をお飲みですか?」と白人たちに尋ねました。
  「お誘いしたのは私たちですから気になさらないで。」とマデレインが応じます。
  「やれやれ、そんな風に受け取らないでくださいよ。私はあなた方に何をお飲みかと尋ねたのです。」とファウラも負けていません。
  「あなたは屈強な方で争ったら勝てる相手出ないことは明らかですね。最初の一杯ずつということで頂戴することにします。マデレインはバーボンです。バーバラは何にしますか?」とジェリーが返事します。
  「あゝ、こまったな。じゃあ、ウィスキーをジンジャエールで割ってくださる?」とバーバラは答えました。
  マシューが「チェイサーには何がよろしいでしょう、マーム?」と尋ねます。
  マデレインは両目を大きく開き、その視線をテーブルに一回りさせると、マシューに向かって「これまで私はいろんな表現で自分が呼ばれることを経験してきました。しかし、マームと呼ばれるにはまだ少し早すぎます。」と憎々し気にうめいて見せました。それに反応してマシューが笑い出したのを見たマデレインは「私の名前はマデレイン。分かって頂けた?」と名前をしっかりと教えたのでした。
  マシューは「分かりました。マデレイン」とマシューは返しました。続けて、「それでバーボンのチェイサーに何がよろしいでしょう? 水、ジンジャエール、いやソーダ水かなあ。それともビール?」と彼は言い直します。

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[原文 1-3] 'Beer!' Madeleine said. 'First he treats me like a schoolteacher and now he treats me like a lush.' We all laughed. She turned to Matthew again. 'I'll have a little water, please. You better watch your steps, Matthew. I'm an extremely vindictive woman.'
  Matthew laughed again. 'Well, I promise,' he said, 'to try not to upset you any more.' And he looked at her with interest, in rather the way Giuliano had looked at her, in fact. He looked very briefly at me, and then, 'Where are you from, Madeleine?' he asked.
  'I'm from Texas,' she said, 'a town you never heard of. I'm sure that's what makes me so vindictive.'
  'Oh, come on,' said Matthew, 'I don't believe you're vindictive at all. You just like to try and frighten forks.'
  Madeleine laughed. 'I do pretty well at it, too, let me tell you.' She turned to Barbara. 'I scared the living shit out of Rags Roland this afternoon.’ She turned to Matthew and Fowler. 'Rags Roland is a horrible old woman, built exactly like an Army base, and she's the director -- God help us all! -- of the play I'm in.'
[和訳 1-3] 「ビールですって。彼は最初私を学校の先生であるかのように扱っていたのに今ではアル中女のように扱うのよ。」とマデレインは大声を上げました。私たちは笑い声を上げたのです。彼女はマシューの方に顔を向け、「私は水にします。ところであなたは足元に気を付けるのがいいですよ。私は酷く乱暴な人間なのですから。」と言い渡しました。
  「私、これからは怒らせないように気を付けます。約束します。」というとマシューは彼女に、つい今しがたジウリアーノ(レストランの主)が最初に彼女を目にした時と実質的に同じ角度からの興味を感じているという目付きで、顔を向けました。その後一瞬私の方に目を向けたのですが、「マデレイン、あなたはどこのご出身ですか?」と言ったのでした。
  「テキサス出身よ。そりもあなたのご存じないあの町の出身なの。だから乱暴なのよ。」と彼女は答えます。
  「それがどうしたというの、大したこととは思いません。私にはあなたが乱暴だなんて、全然思えませんよ。人々を脅して楽しもうとしても無駄ですよ。」とマシューは言い返します。
  マデレインは笑いました。「確かに私は脅して楽しむタイプね。白状しますよ。」と言うと今度はバーバラに向かって「私、今日の午後ですが、ラグズ・ローランドに怒鳴り返してしまったのよ。」というと、マシューとファウラに向かって「ラグズ・ロランド」というのは嫌な叔母さんなのよ。陸軍の基地施設のような身体付きをしていて、指揮官をしているの。あゝ、最悪だね。私が所属している劇グルーブの指揮官なのよ。」と説明しました。

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2. 怒りの治まらない女優マデレイン(白人)を二人の黒人男性は何とかナダめようとします。

自分が攻撃的 vindictive な気質の持ち主だと言ったマデレイン。それに向かってそうでもないよ、周りの人を少し脅して楽しもうとしてるのでしょうがと Matthew が応じたのですが、マデレインはこれに挑発されて、つい先刻まで劇団の、Workshop の指揮官である Rags と喧嘩していた時の興奮を再発させます。次の引用は上述の文章に続く部分です。

[原文 2-1] 'The play,' said Barbara, 'of which you are the star.'
  'That's right,' said Madeleine. 'My first starring role.' Matthew nodded appreciatively. 'Out here with the corn and the cows.' Matthew and Fowler laughed. 'Anyway,' and Madeleine turned again to Barbara, 'Rags was giving me hell this afternoon -- in front of the whole company -- about that scene near the end when I find out that my lover isn't ever coming back from that half-assed revolution in Ecuador. Part of my trouble with this play is that I've never understood why he went in the first place -- but I'm not playing that part, thank God. Anyway, I finally blew my top and I asked Rags how the hell she knew what a woman felt like when she'd lost her lover for ever. And I said a few other choice things about my co-star, who would certainly never be my lover, and walked out. I felt them all standing there.' She nodded. Our drinks came. Fowler and Matthew looked somewhat bewildered, and also looked amused.
[和訳 2-1] 「ご自分が主役の劇の指揮官がラグズなのよ。」とバーバラが念押しをしました。
  「その通りよ。私には初めての主役なの。」マデレインはパーパラに同意しました。マシューとファウラはその説明に感謝をこめて頷きました。マデレインが「こんなに遠くのトウモロコシと乳牛ばかりの田舎でね。」と続けるとマシューとファウラは笑い出しました。マデレインはもう一度バーバラに向き直って「今日の午後のことですがラグズが私にけしからんことを口にしたの。それも他の劇団員が大勢いる前でです。劇が殆ど終了する部分に関してです。私が演じる女性なのですが、エクアドールで起こったあの無意味な革命騒動に参加した夫が、出て行ったきりで帰ってはこないと知ったその瞬間のシーンです。そもそも私が納得できないのは夫が彼女の下を出て行った行った理由です。ただし、ありがたいことに夫が最初に(紛争中の地域に行くとして)家を出ていく時点のシーン、それを私が演じることはないのです。ともかく、私はこらえ切れなくなって、どうしてあなたに自分が愛する夫を失う時の妻の気持ちなんて解るの? 更には共演する役者、私に評価しない役者に関して思いついたことを幾つか口にしました。そしてその場を飛び出してきたのです。その場にいた全員が声を失っていましたよ。」と言い終わると彼女は頷く動作をしました。私たちの飲み物が届きました。ファウラとマシューは腰を抜かしたという表情を見せながらも、面白がっていました。

Lines between line 8 and line 20 on page 136, "Tell Me How
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[原文 2-2] 'What did Rags say?' Barbara asked.
  'She didn't say anything. She just stood there, like---'
  'An army base,' said Fowler.
  Madeleine raised her glass. 'Exactly! -- It was a terrible thing to say. But the old dyke got my goat.'
  Jerry said, 'You shouldn't call her names like that. You don't know if she's a dyke or not. Anyway, it's nobody's business what a person does---'
  'That's right,' said Matthew, staring at Jerry: he looked rather as though he had stumbled into a seminar. 'What a grown person does with his life is that person's business.' And he looked at Fowler.
  'Especially,' I said, 'since it's the person who pays for it. For what he does, I mean.'
  'That's right,' said Fowler. He sipped his drink. 'Of course, I do think that we can use each other's advice from time to time -- we human beings.' And he looked at Matthew.
[和訳 2-2] 「ラグズさんが何と言ったの?」とバーバラが尋ねました。
  「彼女は何も言えず、ただ同じ場所で立ち尽くしてたわ。動くこともなく・・・」
  「あゝ、軍事基地のごとくでしたね。」ファウラーが反応しました。
  マデレインが自分のグラスを手にして乾杯の格好を返し、「そう、その通り!-- 自分ながらもおぞましいことを言ったなと思いますよ。しかし老いぼれのレスビアン女があまりにも酷いことを口にしたのですから。」
  ジェリーが声を上げました。「彼女をそのような差別的表現で呼んだりするべきではないですよ。彼女がレスビアンか否かなんて誰も知らないのですから。いずれにしろ、一人の人間がやることは、他人の口出しの対象ではありません・・・」
  「そうです。その通りです。」とマシューがジュリーの方を向いて、相槌を打ちました。マシューは道徳講義の教室に迷い込んだといった風に「大人の人間がその暮らしの中で取る行動は当人の勝手なのですから。」と言いながらファウラに目配りしました。
  私は「そうです、その人たるやその為の金を負担している当人である場合は特にそうですよ。当人の行動に要するお金を当人がだしているばあいには。」と私は言いました。
  「その通り。」とファウラが言い、グラスの酒をすすり呑みました。「そうですとも。私たちはお互いの考え・アドバイスを、その場その場で参考にして取り入れるべきですよ。--それが人間と言うものです。」こう言い終えるとファウラはマシューの顔に目を向けました。

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3. 真夜中の12時、お開きの頃となると、Leo は盛り上がったひと時から覚めて、自らの現実を頭に浮かべます。

上に引用した如く白人と黒人、3人ずつがテーブルを囲んで互いに臆するところなく自らの考えをぶつけて相手の反応を確認する関係が築かれたのでした。そのきっかけを作ったのが Leo のチョットした勇気だった上に、それに応じてくれた2人の黒人も気持ちよい経験をしたであろうと考えると素晴らしい一夜だったはずです。

しかしこのままで終わればおとぎ話 Fairy tale なもので、この小説にあっては、Leo は直ぐこの一時の興奮が一段落すると平静を取り戻します。

[原文 3] We had a couple more rounds, and all exchanged addresses, earnestly scribbling on scraps of paper brought to us by Giuliano. I think we all really wished to see each other again, but I think we also wondered if we really would -- wondered, dimly, if there could really be any point to it. Furthermore, I was aware that I had not really given any address. I had no address. Paradise Alley was not my address, Bull Dog Road was not my address, and where my mother and father were living wasn't my address, either and I hadn't even written it down. I very much doubted whether Fowler's wife, when confronted with the opportunity of putting flesh on my bones, would react with a positive glee. I suspected that Fowler and I might prove to have very little to say to each other.
[原文 3] 私たちは更に各人2杯ずつグラスを空にしました。そして各々の連絡先を教え合いました。店の主人のジウリアーノが持ってきてくれた紙切れに丁寧に書き込んで交換したのでした。今私が思うのに、その時の私たちはまた顔を合わせるとことに本気でした。しかし、その時ですらその先、再開することはないだろうなという気持ちもどこかに持っていたと思います。そこまでして顔を合わせる理由がないのではとの思いもあったはずです。もう一つ細かいことを言えば、私ですが、その時にあって連絡先を誰にも渡さなかったのでした。住所と言えるものを私は持っていなかったのです。パラダイス・アレーは私の住所ではなかったし、ブルドック通りも私の住所とは言えません。私の母と父の住所を私の住所という訳にも行きません。私は何も書かなかったのでした。また、ファウラの奥さんが、私の骨ばった身体に肉をつけるなどという機会が訪れても、積極的にそれを楽しむとは思えません。私はファウラと私の2人でさえも、再会して話するほどの話題を持たないだろうとそんな機会があることを疑っていたのでした。

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4. プロパガンダなる側面

上段3節に渡り引用したような、いわば道徳的な信条の吐露あるいは主張が延々と続くのがこの小説の側面の一つです。これら上に引用した箇所に留まりません。159 頁には次の文章もあります。ここで their lives とあるのは兄と父の生き様のことです。

I was old enough to understand how their lives had happened, but rage and pity are not love, and the determination to outwit one’s situation means that one has no models, only object-lessons.
私は(この時の年齢において)彼らにどのようなことが起こったのかを理解していました(彼らの責任ではないのに彼らには不幸なことが起こったことを理解できていました)。 しかし一緒に怒ってみたり、悲しんでいたりすることが愛情ではないのです。 そう言ってみたものの、自身が置かれた境遇をそれに肩透かしを加えるようにして乗り越えるという決心は、当人が自分の手本にする相手を持てないことを意味しています。 あったのは実体験からの学習だけでした。

この言葉「プロパガンダ」にまつわる私の議論は、私が「65 回目 "Midnight Children を読む" 」において始めたものでした。これに対立する議論は「面白さこそが小説の存在価値だ」とするものなのですが、その辺りを手掛かりに小説を、物語の在り方を、考えていくことが「読書の楽しみ方を広げる」ための一役を果たしてくれています。


5. Study Notes の無償公開

今回の読書対象、原書 Pages 131 - 180 に対応するStudy Notes を無償公開します。A-5 の用紙に裏表印刷すると左閉じで束ねることが出来ます。

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