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72回目 "Tell Me How Long the Train's Been Gone" を読む(第2回)。レオの記憶、10才時の出来事、そしてバーバラと心が通じ合うことになった出来事は "If Beale Street Could Talk" にある「心躍るひととき」そのものです。



1. レオ Leo が 10 才、兄のカレブ Caleb が 17 才のある日、夜道を帰る二人は警官の尋問を受けます。

夜遅い時刻に夜道を急ぐ二人を不信に思った複数の警官に呼び止められ、恐ろしい、腹立たしい、ハラハラドキドキの時間を過ごしますが何とか逮捕されず自宅に帰ることができたのでした。

めったにないことながらラム酒を飲みながら、上機嫌でアメリカに移りくる前のバルバドス島での生活を思い出していた父と、いつも通りに冷静で有能な母とが迎えいれます。Leo と Caleb は事の顛末をすっかり話し終えました。それを聞き終わった父の一言に始まる部分は次の通りです。

[原文 1a] ’No, you did right, man. I got no fault to find. You didn't take their badge number?'
Caleb snickered. 'What for? You know a friendly Judge? We got money for a lawyer? Somebody they going to listen to? You know as well as me they beating on black ass all the time, all the time, man, they get us in that precinct house and make us confess to all kinds of things and sometimes even kill us and don't nobody give a damn. Don't nobody care what happens to a black man. If they didn't need us for work, they'd have killed us all off a long time ago. They did it to the Indians.'
'That's the truth,' said our mother. 'I wish I could say different, but it's the truth.' She stroked our father's shoulder. 'We just thank the Lord it wasn't no worse.'
'You can thank the Lord,' said our father. 'I ain't got nothing to thank him for. I wish he was a man like me!.'
'Well, you right,' said our mother. 'It was just an expression. But let's don't sit here brooding about it. We just got to say: well, the boys got home safe tonight. Because that's the way it is.'
[和訳 1a] 「その通りだよ(カレブの言葉「You can't get no lower than those bastards … 警官以上にいやらしい人間にはなれそうにないね」に対する父の相槌)。お前は何一つ間違ったことを言ってないと思うよ。ところでお前たち警官のバッジに付けられている番号を読み取って来たかね?」
カレブは薄ら笑いを漏らしました。「何の役に立つのかね?お父さんが親しくしてる判事さんがいるのかね? 弁護士に払う金があるのかな? あるとして、裁判所とか警察の連中がその弁護士に耳を貸してくれるのかな? 奴らがいつも黒人の連中を殴りまくっていることを知っているけれど、みんなもそれは知っているよね。いつものことなのだよ。奴らは私たちを留置所建物に放り込んで何でもかんでも白状させるのだよ。そして時には殺しもするのだが、そんなことがあっても何かの声を上げる人は一人といないのだよ。誰も黒人に何が起ころうと問題にはしないのだよ。もし奴らが労働者として必要でなかったらとっくの昔に殺しつくしていただろうね。奴らはインディアンに対してそれを行ったのだからね。」
「その通りなのよね。そんなことありませんと言いたいところだけれど、それは事実ですからね。」と母は同意し、父の肩に手を乗せ一押ししました。「今回のところはこれくらいのところで収まったのだから、それだけでも神さまに感謝しましょうよ。」と続けました。
「お前は神さまに感謝するがよいさ。私は神さまにお礼する義理を感じないがね。神が神でなくて私と同じような人間だったらよかったのにと思うよ。」と父は主張しました。
「そうね。あなたが正しいですよ。私のさっきの言葉は単に決まり文句を漏らしただけなの。ともかく、もうここに座り込んで意見をやり取りするのは終わりにしましょう。私たちは子供たち二人が無事に家に戻れたのだから、あゝ、良かった、ということにしましょうよ。いずれにしろ現実に起こったことはこれなのですから。」と母は議論を終わらせました。

Lines between line 22 on page 50 and line 3 on page 51, "Tell Me How
Long the Train's Been Gone", a paperback of Penguin Modern Classics

[原文 1b] I asked, 'Daddy, how come they do us like they do?'
My father looked at me for a long time. Finally, he said, 'Leo, if I could tell you that, maybe I'd be able to make them stop. But don't let them make you afraid. You hear?'
I said, 'Yes sir.' But I knew that I was already afraid.
'Let's not talk about it no more,' our mother said. 'No more tonight. If you two is hungry, I got some pork chops back here.'
Caleb grinned at me. 'Little Leo might be hungry. He stuffs himself like a pig. But I ain't hungry. Hey, old man' -- he nudged my father's shoulder; nothing would be refused us tonight -- 'why don't we have a taste of your rum? All right?'
Our mother laughed. 'I'll go get it,' she said. She started out of the room.
'Reckon we can give Leo a little bit, too?' our father asked. He pulled me on top of his lap.
'In a big glass of water,' said our mother, laughing. She took one last look at us before she went into the kitchen. 'My!' she said, 'I sure am surrounded by some pretty men! My, my, my!'
[和訳 1b] 私は「お父さん、どうして奴らはこのような仕打ちを私たちに加えるのでしょうか?」と尋ねました。
父は長い間ジッと私を見つめていました。やっと口を開くと「レオ、もし私がそれに答えを持っているならば、奴らのそんな行動を止めさせることが出来ていたかもしれないな。ともかく、お前は奴らがおまえに脅しをかけるような切っ掛けを作らないようにすることだな。」と話してくれました。
私は「はい、解りました。」と返事しました。しかし、私にはこれからそんな気遣いをするにしても、その前の時点で彼らを怖がっているな、私の返事と矛盾しているなと解っていました。
「もうこの話はおしまいにしましょうよ。今夜はこれ以上のお話はなしです。」と母が言い出しました。「あなたたちお二人、もしお腹がすいているならポークチョップが少しありますよ。持って来ましょうか?」
カレブが私の方に顔を向けてニヤッと笑みを見せました。「弟のレオは腹をすかしているかも。弟は豚のようにがつがつ食べるからね。私はお腹を空かしていないよ。ところでお父さん、今夜は何をしてもお母さんに制止されはしないですよ。ーーどうです、二人でお父さんのラム酒を頂くというのはいかがですか? 良い案でしょう?」と父の肩を突きながらカレブが誘いました。
母は笑い声をあげました。「私が行って取ってきますよ。」と言うが早いか部屋から腰を上げていました。
「レオにも少し上げることにするが良いよな。」父は母に断りを入れると私を自分の膝に抱え込みました。
「大きなガラス・コップに水を満杯にして、そこに少しだけ入れるのですよ。」を言いながら、母は笑って返しました。母はキッチンに姿を隠す直前にもう一度、私たち全員に目を配り、マイ!私は素敵な男たちに囲まれて幸せ者だわ。マイ・マイ・マイ!」と声を弾ませました。

Lines between line 4 and line 21 on page 51, "Tell Me How Long
the Train's Been Gone", a paperback of Penguin Modern Classics


2. Barbara とのペアで演劇界の有名人と交わる Leo。そんな Leo を励ます Barbara

まだ 20 才の手前の Leo にとって、演劇役者になるなんて、遥かに以前、幼かった頃に見た夢でしかなかったのですが。ニューヨーク市の一画、スラム街の廃墟の一室に同様の若者数人と雑魚寝するようにして暮らしていた時の出来事です。Barbara はケンタッキーの家族や結婚予定の相手から逃げ出してきた白人女性。Leo はこの近隣のスラム街で生まれ育った黒人男性です。Jerry はあまり遠くはない処に親たちが住む家もある白人男性です。

[原文 2a] I remember going with Barbara to an uptown party one summer night. It turned out, in fact, to be my first theatrical party. I was not supposed to go. A friend of ours, Jerry, who also lived in Paradise Alley, was supposed to take her. But when the time came, he was nowhere to be found. I had been sitting in my -- quarters, I supposes I must call them -- for the last hour, reading, and listening to Barbara, in the room across the hall, humming and slamming drawers. I heard her call up the steps:
'Jerry!'
She had a big voice for such a little girl, too. There was no answer. She called again. This time the voice of the old Russian lady sculptress who lived on the top floor answered:
'Barbara, he is not up here. There is no one up here but me.'
'Thanks, Sonia.' Then, 'Damn!' She knocked on my door, simultaneously opening it, and leaned there, glowering at me.
'Have you seen Jerry?' She was wearing a light blue dress, and high heels.
'I haven't seen him all day! Where're you going?'
'To a party. To an uptown party. Jerry was supposed to come with me.'
[和訳 2a] 夏のある日の夕刻、アップ・タウンで開かれたパーティーにバーバラとのペアで参加した時のことを覚えています。後で考えるにそれは、実質的に私にとって初めての演劇界の人々が集うパーティーでした。元々は私が参加するものではなかったのです。私たちの仲間であった、これまたパラダイス通りに寝泊まりしていた男のジェリーが彼女(バーバラ)に付いて行く予定のものでした。しかし、時間になっても彼の居場所が解らなかったのです。私は自分の「占有場所」 -- 私にはこの表現しか適当な言葉が思いつきません -- にその一時間前から座って本を読んでいたのですが、バーバラの声はホールを隔てた向側の部屋から聞こえていました。口ずさむ歌声に加えて引き出しを勢い良く閉じる音です。突然彼女が階段の上に向かって大声を出しました。
「ジェリー!」
彼女は小柄な体格にそぐわない大きな声の持ち主です。返事はありません。もう一度声をあげました。今度は最上階に暮らしているロシア人の女性彫刻家が声を返しました。
「ばーばら、彼はここに居ませんよ。ここに居るのは私だけですよ。」
「ありがとう、ソーニア。」その後聞こえたのは「畜生め!」でした。彼女は私の居場所へのドアを叩きながらそれを押し開けました。そしてその場で壁にもたれ掛かりいらだった様子で私の方を見つめたのでした。
「ジェリーを見なかった?」彼女は明るい青色のドレスでハイヒールの靴を履いていました。
「今日は一日中私は彼を見ていないよ! あなたたちはどこへ行くの?」
「パーティーがあるの。アップ・タウンでのパーティなの。ジェリーが私に付き合ってくれる約束なのよ。」

Lines between line 22 on page 59 and line 6 on page 60, "Tell Me How
Long the Train's Been Gone", a paperback of Penguin Modern Classics

[原文 2b] 'We both seem to have been abandoned. But you're in luck. You're going to a party. Will they feed you?'
'There'll be lots of food. Come with me.'
'I can't come with you!'
'Why not? I've got enough money for a taxi, Leo, honest. And I can borrow some money up there. Really. Come on. You're not doing anything down here. And you'd be doing me a favour.'
She mentioned the taxi because we had had terrible trouble, many times, trying to get through the streets of my hometown together, black and white. Nothing would ever induce us to take a subway again together, for example. But I admired Barbara for her unsentimental clarity. Lots of other girls I had known before her had been very sentimental indeed, and had almost got me killed.
'Just put on a clean shirt, and tie. And your dark jacket.'
'What about these pants?'
'They are all right. They're not torn, or anything. They just need to be pressed. Keep smiling, because you've got a wonderful smile, you know, and don't stand too long in one place and nobody will notice anything. Now, hurry up, we're supposed to be there right now.'
[和訳 2b] 「私たち二人、どちらもほっぽり置かれた様だね。そうは言っても、あなたは良いよね。パーティーがあるのでしょう。食べ物はたっぷり出されるのでしょう?」
「食べ物は余る程出されるよ。一緒に来なさいよ。」
「一緒には行けないよ!」
「そんなことないよ。レオ、タクシー代なら十分に持っていますよ。本当よ。それからそこに着きさえすれば、ちょっとばかしのお金を借りることもできるわよ。本気よ。来なさいよ。ここで何かしなければならないことは無いのでしょうから。それに、これはあなたが私を助けてくれることなのですよ。」
彼女がタクシーのことを口にしたのは、これまで何度も酷い経験をしていたからでした。黒人と白人のペアでこの辺り、私の生まれ育った街の一帯の道を移動すると面倒に巻き込まれるのでした。私には、例えば黒白のペアでならどんな目的があろうとも地下鉄には二度と乗る気はありません。そんな状況下にあって、バーバラの判断は格別でした。感傷的な要素を絡めることなくテキパキと行動で示したのです。バーバラと知り合う以前にも多くの白人女性を知っていましたが、誰もが本当に同情的であっても一緒にとは言わなかったのです。私はがっかりさせられてばかりだったのです。
「汚れていないシャツを着て、ネクタイを着けてさえいれば良いのよ。地味な色のジャケットを羽織って。」
「今は居ているズボンで良いかな?」
「それで充分よ。破れてはいないし、それ以外の問題も無いのだから。アイロンがけは必要だね。あなたの顔、笑顔が素敵なのだから、分かっているよねそんなこと。ずっとニコニコしていてよね。それから会場では、同じところに立ち続けるのはだめよ。それさえ無ければ誰も嫌な顔をしたりはしないのです。さあ、急いでくださいね。今ちょうど約束の時間になってしまったのですから。」

Lines between line 16 and line 36 on page 60, "Tell Me How
Long the Train's Been Gone", a paperback of Penguin Modern Classics


3. Study Notes の無償公開

今回の読書では、 Book 1, 2, & 3 からなるこの小説(全 376 頁)の Book 1 (1 頁から 98 頁まで)から、前回に続く部分 24 - 61 頁を読みます。
A-5 サイズの用紙の両面に印刷しステープラで左閉じすると冊子ができるスタイルに調整しています。必要なページのみを印刷される方には便利かと考えました。

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