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第十四回 床間ノ華

ミイラ取りがミイラになった呉羽の肩書きは「梁山華道部マネージャー兼、社会福祉同好会員」となり、毎週水曜日の放課後は校内の草むしりや各教室の清掃に勤しむ事になった。
その甲斐あってか、土日水と祝日以外は部室の床間に褐色の少女がちょこんと座る事になり、いよいよ梁山華道部の活動再開である。
少女の名は江戸サラスヴァティー宋蘭(えどさらすゔぁてぃそうらん)。インド生まれのハーフで日本人の父の勧めで徽宗高等学校の留学生となった。
そして彼女の膝の上には及時雨の転生したスライムが鎮座していた。
「あの…日本の風習分からないけど、ココ、座ってダメな場所ちがいますか?」初めて宋蘭が梁山華道部の部室を訪れた際、呉羽は迷わず床の間に座布団を敷き、そこに宋蘭を座らせた。
「いーの!いーの!確かに現代では床間は掛け軸やら壺やら花瓶やら家の家宝みたいなモノを置く場合だけど、昔は身分の高い人が座る為に一段高くしてたって話だし、普通の床間は板張りだけど、ここは畳だし旗頭が座るにはピッタリだから!」と呉羽はネットのニワカ知識を披露しつつ持論を押し通し以来、彼女の定位置になった。
褐色に水色の髪に翡翠の大きな瞳の少女が黄金の冠に孔雀の羽を高々と広げた巨大な水晶玉(スライム)を膝に乗せた姿は、ある意味、豪華絢爛な生花に見えなくもない。
「こうして眺めていると梁山泊の館に居た時の江アニキの姿を思い出しますなぁ…。」と床間の一段低い畳の上をフワフワと漂う学究が郷愁にひたりながら微笑む。
「アンタは何もしてないでしょ!コッチは毎週の奉仕作業で大変なのよ!」呉羽が口を尖らせる。
「まだ一周目だろうが。毎日、暇そうにしとったのだから身体を動かす機会が出来て良かっただろう。」
「暇とは何よ!っと、いけない!いけない!またノリで口喧嘩初めるところだった!ねぇ、がっきゅん、次の部員集めだけどアタシから声かけたい娘がいるんだけど…。」呉羽の顔が急に真剣になる。
「なんじゃ?アテでもあるのか?」
「うん。もともと幽霊部員だけどウチの部に所属してた娘なの。」
「ほう。して誰の記憶を持っておるのだ?」
「確か赤髪鬼って言ってたわ。」
「なんと劉唐か!調子の良いヤツだが、なかなか頼りになる漢だった。して、どんな娘なのだ?」
「コレ。」呉羽が学究の目の前にswiPhoneを向ける。
そこには画面いっぱいに笑顔でVサインをする宋蘭よりも真っ黒な肌に派手なメイク、燃えるように赤い髪を両耳の上で束ねた。俗に言う顔黒ギャルが写っていた。
「…。」言葉を失う学究。
「この娘、良い子なんだけど見た目がコレなんで誤解されるって言うか、ちょっと不真面目なところがあって部活にも、なかなか来なくて…でもお願いすれば、きっと来てくれる様になるんじゃないかな?って思ったの。」
「…その根拠は?」
「根拠?無いけど?でも良い子だし、アタシの数少ない友達だから…。」
この位の年頃の娘に「根拠」など聞くだけ無駄である。
学究も現世に記憶を取り戻し、一年間を日本の女子校で過ごす中、そんな事は承知していたつもりでいたが、あまりに衝撃的な少女の風貌に二の足を踏まざるを得なかった。
「く、呉羽…別の娘を探さぬか?」
「はぁ?何言ってんのよ!他にアテなんて無いでしょ!」
「し、しかし、その娘は、あまりにも…。」
「つべこべ言わずに行くわよ!宋蘭はお留守番よろしくね!」
「ハイ。いってらっしゃいデス。」
憑依霊の学究は一定間隔、呉羽と離れると体が強制的に引き戻される。
最近、この現象を知った呉羽は遠慮なく学究を引き連れ?顔黒ギャルの勧誘に向かった。

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