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第九回 天機星

「ムムム…心配して様子を見にくればキミちゃんたら、やっぱり副会長と百合百合してる…。あの片メガネ、一年生の時から怪しいと思ってたのよねぇ…。」
生徒会電子華学研究室で高山廉と孫勝公が戯れあっている様子を用呉羽が冷やかな目でドア枠越に見つめ勝手な妄想を膨らましていた。
しばらく二人の語らいをのぞき見していたが顔を曇らせてドアに背を向ける。
「キミちゃん梁山華道部を守るって、具体的に何をすれば良いの?」
呉羽は俯きながらポツリと愚痴をこぼすと生徒会電子華学研究室を後にした。
行くあてもなくトボトボと校内を彷徨くと、目の前を駆け抜ける赤髪の少女の姿が見えた。
右腕の肘の辺りに湿布が貼られいるが、外見からは怪我人には見えない位、軽快に走っている。
「りんちゃん?」
赤髪の少女を愛称で呼ぶと、その少女を追って呉羽が駆け出すが、運動神経が壊滅的な呉羽は、あっという間に冲奈林を見失った。
「はぁ、はぁ、りんちゃん速すぎる…ってアタシが遅いのか…。何処行ったの?はぁ、はぁ、この方角だと…道場?はぁ、はぁ…うぐっ…行ってみるか…。」
目的地を見定めた呉羽は無理せず徒歩で道場に向かった。
道場の扉は開け放たれており、林のものであろうローファーが脱ぎ捨てられていた。
「・・・りんちゃんらしくない。何時も礼儀正しく揃えて入るのに…。」
靴の脱ぎ方で林がどれだけ慌てていたかが伺えた。
靴を脱ぎ二足正しく揃えて、道場の中に入ると、舞台の右隅で佇む林の姿があった。
林の両手には、くの字に折れ曲がった金属の板の様な物が乗っていて、林はそれをジッと見つめていた。
「りんちゃん・・・。」ポツリと呉羽がつぶやくと林が呉羽の存在に気がついた。
「呉羽・・・どうして此処に?」
「それは、こっちの台詞だよ。此処で何をしていたの?」
「呉羽・・・ごめんね。アタシ・・・ヒョウを呼び出せなくなっちゃった・・・。」
「え・・・。」林の突然の告白に言葉を失う呉羽。
「存在は感じるの・・・でも、どんなに呼びかけても姿を見せてくれないの・・・。アタシ・・・ヒョウに愛想尽かされちゃったのかな・・・アハハ・・・。」道化の様に戯ける林の姿に呉羽は嫌悪感しか感じなかった。
「りんちゃん・・・それより、その手に持ってるモノは?」自信に満ち溢れ凛とした気丈な姿こそが沖奈林のカリスマ性であり、冗談でも道化を演じる林の姿は呉羽には耐え難く、見たくない物だったのか林の言葉を無視する様に話を逸らした。
「これ?・・・さっきねタケヒロさんが教えてくれたんだ。あの日、道場の清掃に入った時に落とし物があったって・・・後で取りに来るだろうって、そのままにしてたんだって・・・ホントあのおじさん適当だよね・・・うぅ・・・。」
突然、林が泣き出した。
タケヒロとは校内の雑務を担当する用務員の「松武大(まつ たけひろ)」の事でその適当で温厚な性格が生徒にも意外と人気の中年男である。
彼と偶然、会った林は道場に壊れたスマートフォンが落ちていた話を聞いて、道場に駆けつけていたのだった。
「それって・・・。」何かに気づいたかのように呉羽が林に訪ねる。
「う、うん。・・・晃のスマホ・・・。ぐすっ・・・あ、あの毒矢が飛んできた時・・・晃の胸に・・・う、うぅぅ。」くの字に折れ曲がった金属の板は晃のSwiPhoneだった。
林はそれを胸に押し付けながら、その場に崩れ落ちた。
文恭華が呼び出した大蠍が放った毒矢は蓋托塔晃の胸の直前で偶然にも胸元に飛び出してきたSwiPhoneに当たり直撃を免れていたのだ。
その時の衝撃でSwiPhoneはくの字に折れ曲がり破損してしまっていた。
「そんな・・・どうしてSwiPhoneが・・・。」困惑する呉羽。
「・・・きっと晁蓋殿が、娘の健気さに同調し奇跡を起こしたのであろうな・・・。」
「そうなんだ・・・奇跡・・・って、ん?」呉羽が驚いて振り返ると紫色の男の姿がそこにあった。
「き・・・きゃぁぁぁぁ!」悲鳴をあげて後ろに倒れ込み腰を抜かす呉羽。
「呉羽!?・・・な!?誰???何???」悲鳴をあげる呉羽の方を見て狼狽える林。
「静まらんか!騒がしい娘どもじゃのう!まったく・・・。」紫色の男は呆れた顔で呉羽と林を叱りつける。
「あわわわわわ・・・・だだだ誰?」完全に狼狽する呉羽。
「失敬な・・・せっかく貴様らの国の言葉で声をかけてやっているのに誰はなかろうに・・・・。」紫色の男はゆっくりと呉羽に近づくと呉羽に手を差し伸べた。
「・・・えっと・・・ありがとう?・・・でででもホントに誰なんですか?」少し冷静さを取り戻した呉羽が訪ねる。
紫色の男は呉羽の手を取ると呉羽を引き起こし「我は天機星の生まれ変わり。人は我を知多星と呼ぶ。」と名乗った。

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