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第二十三回 白日悪夢

「シロの素養が突然、開華したわ…。」
二葉はそう言ったきり黙り込んでしまった。
「ふ、二葉さん?」呉羽が心配そうに声をかけると二葉はハッと我に帰り「ごめんなさい。ちょっと思い出してしまって…続けるわ。開華したと言っても実体化には至らない火の玉の様な白い光がシロの近くでふわふわと浮いてる程度だったらしいわ。それを見つけた倫子さんが、半ば強引に晁さんの入部を推し進める感じで、まるでシロの素養開華には興味が無いようだったと晁さんは言っていたわ。」「王倫らしいと言うか、なんと言うか…。」学究が呆れて溢す。「その後、シロ本人の努力で、ゆっくりだけど火の玉だった憑代霊は人型を形どって行ったわ。そこから先は呉羽も良く知ってるわね?」二葉が呉羽にそう促すと呉羽はコクリと首を縦に振り「うん。白日鼠が実体化したって喜んでた…で、でも亜人化したなんて聞いてないよ!」と受け入れながらも、隠された事実に困惑する。
「…それは、これから語る事件がアナタが『素養開華の可能性なし』の烙印を押された時と同時期に起きたからよ。」
「!!…。」「やはり白勝が…。」言葉を失う呉羽と憶測が確信になり声漏らす学究。
「白日鼠は腕力、技量、知力のどれを取っても、他の憑依霊たちに勝るモノがない凡人だったわ。だから梁山華道部でも白日鼠がスタメンになる事は無かったの…。」二葉の言葉に頭を抱える学究。「せっかく素養開華したのに完全なベンチ要員のシロは白日鼠の能力向上の為にあらゆる事を試したそうよ…でも、結果は彼女の身体中の傷を増やすだけに終わった。」「それで毎日ケガして帰ってきてたの…。」呉羽が思わず泪ぐむ。
「絶望した彼女に声を掛けた人物がいた…。いえコレは正確な言い方じゃないわ。いたのかも知れない…ね。」
「何だ?突然、曖昧な事を?」学究が詰め寄る。
「その人物が誰なのかは分からないの…晁さんから聞いただけだから…。とにかく、その人物によってシロはとんでもない力を得たそうなの…。」しどろもどろに二葉が答える。
「その力の正体が亜人化という事だな!?」学究の言葉に二葉が頷く。
「ある日、シロは倫子さん達を道場に呼び出したわ。その日は特に練習華撃なども組まれてない日なのにセッティングは完璧で、目を疑う面子が待っていたそうよ。」
「目を疑う面子?」呉羽が首を傾げる。
「ジャッジの高山廉とその従姉妹の高山俅を始めとする『生徒会四奸』よ。」
「生徒会四奸…。」
「高俅ら四大悪の憑代が総揃いか。最悪な生徒会もあったものだな。」
「生徒会長の高山俅は『面白い余興が見られると聞いてな!生徒会一同で見に来てやったわ!』と高笑いしていたそうよ。」
「最悪!」と呉羽。
「娘を唆した人物は、その中の一人か…。」と学究。
「臨時で開かれた華撃は、シロ 対 梁山華道部というルール無用の勝ち抜き戦だったわ。」
「シロちゃん一人で!?そんなの無茶苦茶よ!」
「連戦に耐えうる精神力をその娘が持っていたと言うのも理解し難い。」
「ところがシロは次々に先輩たちの憑依霊を撃破したの。そして最後に倫子さんと対峙した。真名開華の秘術の考案者である倫子さんは、他の先輩たちのように簡単に倒れてはくれなかった…。だからシロは奥の手を繰り出したわ…。」
「真名開華…。」呉羽と学究の声が重なると双葉は頷き「そう…その筈だったの…でも、違った…。まばゆい光の中から現れたのは好漢でなく『白い化鼠』だったそうよ。」と目を細めながら語った。
「…。」
「悪夢だな…。」
「化鼠は何もせずに仁王立ちしたままだった。シロは訳も分からず『どうしたの?白勝は?白勝はどこにいったの?』と化鼠に聞いた…化鼠はシロの問いかけにゆっくりと振り返り大きく口を開けた…その口の中には化鼠の長く腐臭の漂う舌に巻き取られ簀巻き状態にされた白勝の姿があったそうよ…。」
「もぅやめてぇぇ!」
「酷い…。」
「これが、あたし達が晁さんから聞いた事件の一部始終よ。シロはその日を境に徽宗女子高等学校を去った。一学期の終わりにね。」

二葉の昔話が終わり、呉羽は両手で顔を覆い何の反応もできなくなった。
霊体の学究には呉羽の肩を抱く事もできず、ただ呉羽を見つめる事しかできなかった。

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