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第二十五回 天王燕英寿

憑依霊たちの亜人化事件の黒幕には辿り着かなかったものの、生徒会四奸の誰かであると結論付けた事により二葉、五六八、ナナの阮小三姉妹も兼部という形で梁山華道部に再入部した。
部員も後一名で大会にカゲキロイドを生徒会電子華学研究室から借りなくても参加できる規模に組織回復したが、今日は唐音はアルバイト、阮小三姉妹は新人戦が近いという理由で一年生の指導で水泳部に参加の為、部室には呉羽と宋蘭の二人だけである。憑依霊を入れれば四人(?)だが…。
「…暇ね。」正座の足の痺れを和らげる為にアヒル座りをする呉羽。
「ハイ。今日は水曜日違いますから、奉仕活動も出来ませんデス。」床の間にちょこんと正座し膝にキングスライム…もとい梁山泊統領の呼保議こと宋江の現代の姿を乗せて、天を仰ぐ江戸サラスヴァティー宋蘭。
「いや、水曜日だったら、草むしりするんかい!」未だ奉仕活動が好きになれない呉羽。
「出場メンバーが全員、欠席じゃ何もできないし今日はお開きしましょ!ね!」呉羽がそう言って立ち上がると部室の入り口でガタッと言う音がして人の気配を感じた。
「ん?誰か立ってる?」入り口を見つめる呉羽。
「え、えーと、たのもー!?」
「…?」
「違うでゴザル!それじゃ道場破りでゴザル!」
「…??」
「え?じゃあ、たのみマス?」
「頼むじゃない…と思う。」
『…3人か?』呉羽が、そう予測して入り口に近づくと、やはり数名の少女を思わせる甲高い声が姦しく聞こえた。
呉羽は勢いよく扉を開き「入部希望の方々です…かって、アレ?1人?」呉羽の予測に反して入り口前には小柄な少女が一人。
呉羽も長身ではないが、目の前の少女は呉羽を見上げている事から、宋蘭よりも、更に小さい事が分かる。
赤毛の三つ編みお下げ、透き通るほどの白い肌、大きな瞳にビン底メガネ、両手にはswiPhoneと swiPadMiniを持ち、それぞれの画面には少女と良く似た顔だかswiPhoneの方はメガネをかけておらず耳にはswiPods。swiPadMiniの方は同じくメガネなしでマスクを付けている。
どうやら三人でビデオ通話をしていたらしい。
「あ、あのー。入部希望で良いのかな?」呉羽が恐る恐る伺うとメガネの少女は「こ、ここここに宋蘭殿が居ると聞いて、馳せ参じたでゴザル!」と口籠もりなら答えた。
「ゴザル?…じゃない!宋蘭を訪ねてきたの?」訪問理由より語尾が気になる呉羽。
「そそそ、そうでゴザルよ!宋蘭殿はおられるでゴザルか!?」
「居るけど…呼ぶ?」
「是非!」
「あぁ、うん。そうらーん…って、ワァ!ビックリした!」
メガネ女子の勢いに押されて反射的に宋蘭を呼びつけると宋蘭は既に呉羽の後ろに立っていた。
呉羽の背中に隠れた状態で顔だけひょこっと出した宋蘭を見つけるや否や「宋蘭殿ー!やっとお逢いできたでゴザルー!」とメガネ女子は呉羽を跳ね除け部室に飛び込んだ!
「逢いたかったゼあねごー!」
「あ、逢いたかった…です。」
「あぁ!今日は何て素晴らしい日でゴザロウ!?」
口調だけではなくメガネを外したり、口元を手で隠したりと、その素振りまで、まるで一人三役を演じて宋蘭に詰め寄る少女。
訳がわからず、呼保儀を抱えたまま後ずさる

「ストップ!ストップ!何なのアナタ!?宋蘭が困ってるでしょ!」跳ね除けられた呉羽がが必死で追い付きメガネ女子から百面相女子化した少女を宋蘭から引き剥がすと我に帰ったのか「ハ!コレは失礼したでゴザル!我ら清州、清風三山賊の記憶を持つケチな町娘でゴザルよ!」と肩膝をたついて平伏した。
「ケチな町娘って…。」呆れる呉羽の後ろから「コレは珍事だのう!呉羽、この娘、一人で三人の好漢の記憶を持っておる様だぞ!」と学究がとんでもない事を言い出した。
「へ?ひ、一人で三人の!?」呉羽が驚いて学究の顔を見る。
「清風山の山賊と言えば、錦毛虎と矮脚虎、そして白面郎君の三統領。赤毛に虎目、小柄(短足)に色白の肌とは、その渾名の通り三人の容姿まで引き継いでおる。真、珍事だわい。」学究がいつに無く陽気だ。
「まるで好漢のキメラね…。」呉羽は頭を整理するのに必死だ。
「娘、我の姿は見えるな!?」と学究。
「み、見えるでゴザル。」とキメラ少女(改名)。
「お主が宋蘭を求めるは、お主の記憶の底に棲みつく三山賊が宋蘭の記憶の中の江兄貴を慕っての事だろう。特に燕順の陶酔ぶりは常軌を逸していたからのう。ならば、どうだ?いっそのこと入部してみては?さすれば宋蘭と共に時を過ごせるぞ。」学究が甘言で誘う。
「記憶が宋蘭殿を慕うでゴザルか…。」
「なんかカッコいいぜ!」
「素敵…です。」
「せっ拙者、入部するでゴザルよ!」意図も容易く入部を了承するキメラ少女。
「おお!そうか!そうか!では、今日からお主は我らの仲間だ!ささ、中で茶でも飲もう。ホレ呉羽、お通ししろ、えーと…。」調子良くキメラ少女を誘い込もうとして名前を聞いていない事に気付く。
「あ、これは申し遅れたでゴザル!拙者、天王洲燕(てんのうず つばめ)と申すでゴザル!ただし、これは錦毛虎の記憶の時の名で、矮逆虎の時は英(はなぶさ)、白面郎君の時は寿(ことぶき)を名乗っておりますので、以後お見知りおきを!ダゼ!…です。」
「ゴザル!」燕はそう言うと満面の笑みを浮かべた。
「なんか…まぁ良いか。ようこそ梁山華道部へ!今、お茶だすわね!」呉羽は呆れつつも、燕の含みを感じさせない純真無垢な笑顔に肩の力が抜け、部室の奥へと誘った。

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