見出し画像

第十九回 三女三様

「何故、姉妹の復帰を拒む?」
「あの子たち、おねー様が、あんな事になったのに、お見舞いすら来ないで、すぐに水泳部に行っちゃったの。」呉羽の顔がどんどん暗くなる。
「それは劉唐音も同じだろう。」
「トーンは大会に参加してないけど、あの子たちはその場にいたのよ!」阮小三姉妹は、例の事件の日、次鋒、中堅、副将でスタメン登録されていた。
「気持ちは分かるが、もとより姉妹は兼部だったのだろう?華道部が活動出来なくなったのだから、元の鞘に収まっただけの事だろう。」
「それは、結果論でしょ!気持ちの問題よ!」
「もし、気持ちの上でも蓋托塔晁に顔見せ出来ない理由が姉妹にあったとしたら?」「え?」猛り狂った気持ちが、スーッと治まり逆に寒気を感じる呉羽。「な、何ソレ?え、待って!がっきゅん何か知ってるの?」明らかに動揺する呉羽に「行けば分かる。このままでは、お前も気分が晴れまい。今日はこのまま休み、明日遊泳場に向かおう。」と優しく諭した。「さっき、起きたばかりよ。こんな気持ちじゃ寝られないわよ…。」呉羽はそう言うと渋々床に戻って行った。
翌朝、普段通りに登校し、悶々とした気持ちで授業を消化した呉羽はトボトボと校内の室内プールに向かった。
プールには水泳部の部員が、既に練習を始めていた。
「誰が誰だか、分からないよ…。皆、同じ人に見える。」
呉羽が目をキョロキョロしながら阮三姉妹を探すが、同じ水着に水泳キャップ、そしてゴーグルが部員の見分けを困難にしていた。
「あれ?呉羽ちゃんじゃん。」呉羽より先にプールサイドに制服姿のユニークに気がついた部員が声をかけてきた。
「あ、えーっと…。」「ヤダな、ナナだよ!ナナ!」快活に名乗り水泳キャップとゴーグルを外した水泳部員は阮小三姉妹の末娘の阮小ナナ(げんしょう なな)だった。「ナナちゃん…。」名前は呼んだものの次の言葉が出てこない呉羽。「アラ、用さん、どうしたの?部活見学…じゃ、ないみたいね…。」ナナの後ろからナナと同じ髪の色の大人びた女性が現れたが歓迎ムードから一転、呉羽の背後に学究の姿を見るや口を噤む。「イロハさん…。」大人びた少女は阮小三姉妹の次女、阮小五六八(げんしょう いろは)だ。クラスメイトから「ゴロウハチ」と揶揄されても笑い飛ばす懐の深い少女である。「あの、えっと、その…。」思う様に言葉が出てこない呉羽。「呉羽!こんな所に憑依霊を連れて来るなんて、どういうつもり?」語気を荒げツカツカとプールサイドを小走りで近づいてくる先の二人と同じ髪色がまた一人現れた。阮小三姉妹の長女の阮小二葉(げんしょう ふたば)だ。「二葉さん…あの、これは違くて…。」「もぅ良い。我が話す…阮兄弟の記憶を持つ姉妹よ。我の姿は見えておるな。我は姓は呉、何は用。字名は学究と申す。生前、人は我を知多星と呼んでいた。ここに居る用呉羽の憑依霊として現世に降臨した。」口吃る呉羽の前に学究が躍り出て丁寧に自己紹介をした。
「阮小三姉妹よ、聞いて欲しい。我と呉羽は今一度、部に復帰してほしくて貴女等を説得に参った。」単刀直入に要件を述べると「だったら、答えはノーよ。水泳部の活動で目一杯だもの。」と二葉が即答する。「先日、劉唐音が復帰に快諾してくれた。」学究が二葉の即答に臆する事なく続ける。「唐音は帰宅部だし、何も考えない子だから…。」二葉の言葉尻が弱くなる。「だが、彼女もあるばいと?なる働きを減らしてまで我らに協力してくれている。」学究が畳み掛ける。「バイトと部活じゃ価値が違うでしょ!」二葉がムキになる「価値…労働による対価が金銭なら、部活動による対価は成績。はたして価値を比べて良いものか?」のらりくらりの学究に苛立ちを覚える二葉は「あ、あ、晁さんの事を責めてるんでしょ!わ、悪かったと思ってるわ…お見舞いにも行ってないし…。で、でも、あんな事件があったのよ!アタシ達だって怖かったのよ!」と聞いてもいない事を口走る。「怖かったか…本当は安堵したのではないのかな?隠し事が露呈する前に事件が起こった事に…。」学究は二葉の奸計を見逃さなかった。三姉妹の隠し事とは、いったい何なのか?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?