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第十六回 石鋏紙

「さぁ、遊びましょう。」
「ぶひぃぃぃん!」
唐音がニヤリと笑みを浮かべると豚亜人が勢いよく鼻を鳴らした。店内の空気が殺気で満たされる。
「トーン!お願い話しを聞いて!戦いに来たんじゃないの!」呉羽が必死で諌めようとするが「言い訳無用!行くよー!」唐音は目を輝かせて臨戦体制になる…っと「ガタガタガタ!」と派手な騒音を鳴らしながら何か機材の様な物を呉羽の前に押してきた。
「まずは、これで遊ぶわよ!」誇らしげに胸を張る唐音。
「え?」目をパチクリさせる呉羽。
呉羽の目の前に押して来られた機材には「ジャンケンポーン!」という稚拙なタイトルがポップな字体でプリントされていた。
「じ、じゃんけん?」呆れ顔の呉羽。
「うん。じゃんけん。」笑顔の唐音。
「…アハハハ。なーんが遊ぶって、じゃんけんゲームで遊ぶって意味ね!良いよ。良いよ。」安堵から一笑してゲーム台の前に呉羽が近くと「くれっち何してるの?やるのは憑依霊たちだよ。あーしらはセコンド役。」と唐音が制止した。
「へ?憑依霊?」呉羽が学究の顔を見る。
学究には何の事か分からない様子だ。
「あーしのトンポヨと、くれっちの憑依霊くんでじゃんけんで勝負するの!」
「な、何のために?」
「くれっち、あーしに部活に出て欲しくて、会いに来たんでしょ。だから、この勝負にくれっちが勝ったら部活に参加する。」
「負けたら?」
「んー?部活に参加しない?」
「それってトーンには何の利もないんじゃ…。」
「別に良いじゃん!あーし晁さんに嫌われて部活行かなくなったんだし。」
「え?ちょ、ちょっと待って!おねーさまに嫌われてって、どーゆー意味?」
「だから別に良いって!終わった事だし!それより始めよう!早く!早く!」
「ぜんぜん良くない…。」食い下がる呉羽を「呉羽!無駄な足掻きをするな!」と学究が引き止めた。
呉羽が学究を睨み付ける。
「落ち着け。黙って聞いていたが説得に応じる性格では無いらしい。だがあの見てくれの割には察しが良いようだ。こちらは勝っても負けても失う物がない好条件を提示してくれているのだ。誘いに乗らない手はない。質問をするのは勝負の後で良かろう。我も劉唐が何故あの様な姿になったか興味がある。」呉羽を説得しながら、さりげなく己の好奇心を晒す学究。
「…うーん。分かった。がっきゅんの言う通りにする。でも、それなら尚更、勝ってよね!」「当然だ。…時に呉羽。ひとつ聞きたい事がある…。」得意気になりつつも不安の表情を見せる学究。
「何?天才軍師さま?」期待しつつ皮肉を言う呉羽。
「その、じゃんけんとは何だ?」
「…はぁ!?」
果たして梁山泊にまた一人、好漢が集う事になるのか?

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