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初めての宿坊

寮生活を始めて早三ヶ月。
寮は先輩と二人で六畳一間。
一人暮らしサイズの冷蔵庫を同期十人で使い、二台の洗濯機を先輩含め十六人で取り合うように使っていた。

先輩の怖さと同期のテンションの高さに疲れ、とにかく一人になりたかった。

春のシーズンが落ち着き、漸く二連休もらえることになった。
宿坊紹介の本を買い、落ち着いた雰囲気の宿坊を予約することに。
「他のお客さんとゆっくりお喋りしたりするんだ(*^^*)うふふふ」


そして当日。
夕方、暗くなった頃宿坊に到着。(夕食はない)
おぉ…歴史を感じる佇まい…

宿泊手続きを済ませると、宿坊の方から一言。
「本日、不幸があって住職は不在となります。他の宿泊客の方はおられないので、お客様お一人だけです。」

えっ

えっ?えっ?まじですか??

誰かしら宿泊客がいると思ってたらまさかの一人。
寮生活に嫌気がさして静かなところに行きたいとは思ってたけど、ここまで静かじゃなくていいのよ??

通されたお部屋は八畳ほど。
普段六畳一間を先輩と使ってるから、リッチな環境である。

確か本に五部屋あるって書いてあったよな…
え、てことは今夜四十畳の空間に私一人??

て、テレビ…は…無ーーーい!!
唯一の電化製品はアースノーマットだけ…
静寂の部屋に響き渡るブーーン音…

普段ならうるさく感じるであろう電車の音が生活感を感じられて
「ずっと電車走っててほしい…」
と思った。

当時付き合ってた彼氏に電話したいと思ったけど
「せっかく宿坊に行くんだから、充電器なんて必要ない☆」
と寮に置いてきてしまった。
私の馬鹿馬鹿馬鹿〜〜!!!

想像以上の静寂に
「寮に帰りたいよぅ……」
とホームシックになった。
普段の騒がしい日常がありがたく感じる、ある意味悟りを開いた瞬間だった。


翌朝、清々しい空気に包まれ起床。
優しい味付けの、とても美味しい精進料理をいただいた。
特にお出汁をたっぷり吸ったひろうすは最高だった。


宿坊を後にし、途中観光しながら帰寮。
人がいるっていいなぁ…
この日だけは廊下にパンツを落としたままの同期も、ドアに鍵をかけず用を足す同期も温かい目で見ることができた。

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