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【識者の眼】「感染症専門医と感染症内科を標榜する医師の数、そして地域医療の役割」水野泰孝

水野泰孝 (グローバルヘルスケアクリニック院長)
Web医事新報登録日: 2021-08-18

医師はそれそれぞれの専門診療科で患者さんの診療にあたるわけですが、今回の新型コロナウイルス感染症の流行で取り上げられた課題の中に感染症専門医数があります。日本感染症学会によれば2021年8月現在の認定専門医数は1622名です。ちなみに一般社団法人日本専門医機構の内科専門医は2019年9月現在約3万5000名、サブスペシャリティで最も多い日本消化器病学会専門医は約2万1000名です。感染症専門医の申請条件【1】は、基本領域学会の専門医であり既定の条件を満たせば診療科の指定はありませんが、現状は内科・小児科を専門とする医師が多くを占めています。

また、厚生労働省の統計【2】によると、感染症内科を主たる診療科とする医療施設に従事する医師数は2018年12月末現在、531名(0.2%)で平均年齢は42.8歳です。このうち病院勤務医は520名であるのに対し、私が該当する診療所勤務医は、わずか11名(男性:81.8% 、女性:18.2%、 平均年齢:54.6歳)のみです。

感染症内科の対象となる外来患者さんは、HIV感染症や輸入感染症などが中心で、その多くは大学病院や基幹病院を受診します。また大学病院など病床を持つ施設の感染症内科の役割は外来診療よりも院内感染対策、他診療科の感染症診療に関するコンサルテーションに比重が置かれ、ニーズが多くあることから、感染症内科を主たる専門診療科として開業するには集患や経営面で先が見通せず、リスクが高く開業する意義がほとんどないと感じざるを得ません。私もこのような理由からむしろ感染症以外の一般診療に力を入れるべく、大学退職後は地方基幹病院の一般内科外来や僻地医療を行った上で、一般内科を上位に掲げて診療所での医療をスタートしました。

しかし実際のところは新型コロナが蔓延する前から、専門診療を求めて受診される方はまれな領域であるからか決して少なくはなく、都内だけではなく関東一円から受診されます。新型コロナの影響で感染症内科という診療科も少しは脚光を浴びたのではないかと思っておりますし、地域住民のみならず区外や近隣県から受診される多くの患者さんにもその価値を理解していただけるようになりつつあります。

感染症内科という専門領域が大学病院や指定医療機関だけにとどまることなく、感染症流行時には地域医療を支える分野として、さらには医師会などでリーダーシップを取ることができるような人材育成も検討すべき課題であると考えます。

【文献】
1)日本感染症学会:専門医制度規則・細則  
2)厚生労働省:2018年医師・歯科医師・薬剤師統計の概要  

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